資本主義と拝金主義の違い


物事の価値の基本あるいは事の重要性の尺度を全て「金銭」に置き換える人間がいる。これを資本主義と思ったら大きな間違いだ。それは、金がすべて、というさもしい拝金主義という。満足感とか信頼感とか充足感とか達成感とか、そういうものに価値をおき事の尺度とする人生、そんな豊かな心を持った人々と人間関係を築きたいものだ。当然、オンコロジーの領域に限ったことではない。

弱いインパクト 緩い解析 乏しい客観性


サンアントニオ乳がんシンポジウム1日目の午前中、General Sessionはタイトルにあるような印象でした。

弱いインパクト:フルベストラントにエベロリムスを加えるとどうなるか? 結果はProgression Free Survival は有意に延長するけどOverall Survival はかわらないというもの。しかも併用群では20%の症例が副作用のため、治療中止となったとのことです。会場から、John Robertsonが「Time to Treatment Failureはどうだ?」と質問した。これはいいポイントである。病状増悪で治療中止した人と副作用で治療を中止した人をあわせて治療継続期間をみれば、エベロリムスの力量がもう少しわかるだろうけど、演者は、調べていないとのことでした。エベロリムスは効かない、副作用が強い、高い、の三重苦の薬剤でそのうちあまり使われなくなるのではないでしょうか。タイケルブも同じ三重苦薬で、結局、やっぱりあまり使われなくなったのと同じです。今回のSABCSでは発表はありませんが、Palbociclibとか、MONALEESA-2トライアルのribociclibなどのCDK4/6阻害剤もPFSも劇的に延長したのですが、OSはどうでしょう、今のところ差があるという発表はありませんから、これらも三重苦薬として消え去るのでしょうか? 弱いインパクトの薬剤は一発芸の芸人と同じようなもの。

緩い解析:術後ホルモン剤の「extended use」を検討した演題が二つ、DATA studyは、タモキシフェン2−3年の後、アナストロゾールを3年内服と6年内服の比較で、adapted DFS(術後3年目以降に起きた再発、新規発症、死亡〔原因不問〕)をイベントとして検討したものです。症例数が少ない、イベントが少ない、つまり検出力が低いので、結果は、イベント発生のハザード比が0.78(78%と83%つまりたった5%の差)でP=0.00528、差がない。サブセット解析で、ER・PgR共に陽性の症例、腫瘍径が大きい症例、リンパ節転移がある症例、に加えて化学療法を併用した症例では、6年内服のほうがよかった、ということだけど、多変量解析でもないし、腫瘍径が大きい、リンパ節転移があるので、ケモを加えてという意向があって、それも丸裸で解析している、という緩い解析結果が発表された。はずかしい。NSABPB42もIDEALtrialも同様に、ホルモン剤延長効果を検討したものだが、今までの報告と比べて、新しい結果、注目すべき結果、というのは出ていない。

乏しい客観性:腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が予後におよぼす影響を検討した演題がふたつ、結果はあまりぱっとしない。というのは、TILの測定自体、はかり方がいろいろで、いわゆるanalytical validityが確立されていないのである。病理医師によって、あるいは同じ病理がカウントしても、昨日と今日では結果が異なる、というほどに、客観性は乏しくKi67よりも標準化が不可能な検査なのである。一つおもしろかったのはCLEOPATRA試験で集めた検体のTILを数えたところ、TIL陽性率はASIA人 30%、白人10%、黒人5%と、人種差があると言う結果。日本人は、免疫力が高いということだろうか? 納豆とか、寿司とか、刺身とか、の食材が免疫力を高めているのだろうか? よくわかりません。今日はこんなところです。

羽田-Chicago-SanAntonio


浜松を朝出て1時間半で羽田空港着、空港のチェックインもバッゲージチェックインもすべて機械相手で米ドル交換も自動販売機で事足る。ANA機は快適なB-777-300、機内では「君の名は」をじっくり3回観で完璧にマスターしたぞ。確かに話題になるだけのできだと思う。シカゴはこのブログのように雪が降っていて気温はマイナス2℃なり。サンアントニオのホテルもシカゴの待ち時間にオンラインチェックイン。帰りはヒューストン経由で成田着、日曜日の夕方には浜松に着く。随分と便利になったね。窓口のお姉さんは必要なくなる日も近い。高速道路もETCだし車の運転も自動運転になる。トランプが移民を排除しても、単純労働者の雇用はどんどん減っていく。しかし頭脳労働者も危うい。病院も検温から経皮的遺伝子検査、CTなんかも全て自動で放射線技師は要らない。AIが診断してインフォームドコンセントもタッチパネルで事足りる。医師も薬剤師も不要となる。看護師は最期まで残るけどロボットナースが活躍。7対1看護なんて昔の話で1対1看護。人間でないほうがかわいくて気が利いて意地悪でなくて疲れなくて休まなくて子どもも熱出さないから保育園から呼ばれることもない。サンアントニオ乗り継ぎ便まで4時間もあるのでゆっくりと思索に耽っています。シカゴ空港で早くもお土産購入。例のポップコーンです、妙子さんお楽しみに。そのうち妙子さんもAIになる。それはいいことかどうか、良く考えてみたい。

倫理三原則に照らして


岡○先生

1週間の研修は有意義でしたか?「○○さんが自分の乳がんのこと、ブログでいろいろ言っていますがあれって倫理的にどうなんですかね? でもああやって公表してくれると検診率が上がるから世の中のためになっているんでしょうね。」と先生が言っていたことをあれから少し考えてみました。

Respect to persons 隣人、友人、同僚に敬意を払うこと

Beneficence 良い行いをすること

Justice 正義、正しい事をつらぬくこと

この三つが我々が守るべき医療倫理の原則です。個人情報保護などは、すべてこれらの下に位置する概念です。守秘義務もそうです。しかし、患者が自分のこと、病気のこと、家族のこと、遺伝のことを自発的に公表すること、それは患者の自由、患者の勝手です。「他人の不幸は密の味」といいますが、芸能人が「私は病気です、苦しんでいます、もうじきこの世を去ります、家族に見守られています、残される子どもが不憫です・・・」などを公表するのは、何のためなのかわかりませんが、それがうけるのは他人の不幸だからです。自分と比べて「ああ、なんてかわいそうなんだろう、でも、自分はああならなくてよかった」と感じる心理です。けっして、心から同情したり、思いを寄せたりということはありません。所詮、他人のことなのです。だから、医療倫理とは無関係です。しかし、ワイドショーなんかで、コメントを求められてべらべらしゃべるよしもと興業みたいのは品格に欠けますね。テレビ局から電話がかかってきても「知りません、分かりません」と断るべきでしょう。

ものごと転じて「自分もああなったらどうしよう」と世間は今度は「自分」に目が行きます。ちくちくいたい、しこりが気になるなど、授乳中だろうが、小学生だろうが、芸能人のブログに触発されて受診する人々の列は途切れません。「芸能人が自分の病気をことを告白すると検診に行く人が増えてとてもいい影響をおよぼしている」ということは全くありません。受ける必要がない人が来ているだけで来るべき人は来ていないのです。芸能人もなんか勘違いしていて自分が個人情報を公開することが世の中のためになっていると、無駄な活動をしているように感じます。いずれにしても、我々は、倫理三原則に根ざして、しっかりとした冷静な診療を継続しなくてはいけません。芸能人があれこれ言おうと語ろうとどうでもいいこと、むしろ間違ったことを告白しているということは、一応は認識しておく必要はありますが、無視して知らん顔して、たんたんと、しゅくしゅくと日々の診療をこなせばいいのです。患者が「まおちゃんのようになりたくないです」とかいっても、「そうなんですか? よく知りませんが、人それぞれですからね」と答えていればいいと思いますよ。青森は寒いでしょう。もう根雪になりましたか? 12月はクリスマスイブに伺います。では、元気でご活躍ください。