臨床EBM研究会浜松大会を終えて


昨日と今日、浜松楽器博物館の会議室で臨床EBM研究会を開催しました。約60人のご参加のみなさま、どうもありがとうございました。また、サポートカンパニーの3社、アストラゼネカ、中外、ブリストルマイヤーズのみなさん、ありがとうございました。今回は、ASCOの発表を検証する、というもくろみで計画しました。EBM初学者も多い中、一日目の終わりごろには、はてなマークが飛び交っていた方たちも、二日目をおえると、よくわかった、勉強になったと、それぞれにそれぞれの収穫をもっていきいきとして散会となりました。反体制クレーマーの批判も何のその、聖路加の若手の先生方も大変よくやってくれたともいます。今回のポイントはASCOの演題だからといって、うのみにするな、という点です。題材として使用したのが、不出来発表の代表のようなHERTAXトライアルです。要は、偶然とバイアスを全然排除できていないような内容の発表であるHERTAX試験は、なんら信頼できる真実を提示していないので、転移性乳がんに対するHERCEPTIN使用方法に関する腫瘍医療者の判断、行動、言動は、ASCO前後で全然かわらないということです。ASCOの口演演題でこんなにひどいのは、めずらしいし、その分、今回の浜松大会では、絶好の題材だっと思います。ところで、サンアントニオでは、転移性乳がんのハーセプチンの使い方に対して、判断、行動、言動が大きく変わるような発表があるという噂があります。皆さん、楽しみにしていてください。

そんなことやっている時代じゃないでしょ②


乳癌学会では、おもなセッションの最後に「特別発言」として、名誉会員の先生にご発言頂くという習慣がある。でも、そんな昔からあったわけではないような気がする。名誉会員の先生のご発言ですから、それなりに重みがあり、良い意見だあ、と感銘深く聞き入る場合もある。しかし、中には重すぎて、大幅に時間を超過して座長に途中で発言を中断された、という場面が去年はあった。あの座長は礼儀を知らん、けしからんという意見もないことはなかったが、それは少数であり、大方の意見は、あの特別発言はやめたほうがいいというものだ。今年も特別発言が用意されている。やめたほうがいいのではないか、という意見を理事会でしたところ、慣習だから、とか、あれがないと名誉会員の先生にご活躍していただく場がないから、とかいう理由で、やめにしようという結論にはいたらなかった。どうだろう、今年は特別発言を採点したら。しかし、何もそんな形で発言の場を用意しなくても、発言したければ、若者でも、年配者でも、一会員として発言、あるいは質問すればいいだろうと思うのだが。

そんなことやっている時代じゃないでしょ①


某外資系製薬企業から、「来年の1月に東京でフォーラムを開催します。T京大学のI先生が座長ですが、渡辺先生にぜひ、御講演いただきたいとのことですが。。」、この手の無意味なフォーラムが毎年、各企業、1月から4月ごろまで、高輪Pホテルとかで、400-500名の参加者で開催される。参加者はあごあしつきで、MRも同行。昔はどうどうと夜は銀座でおもてなし、ということだったがさすがにそれは陰でごそごそと。裏ではえぐいで。 でもでもでもでも、そんなばかみたいなシャンシャン大会、やっている時代じゃあないでしょう。地方会などもあるわけだし、「お断りします」。としました。

ASCOの過ごし方 part 2


今年のASCOで驚いたこと、それは、早期乳がんのセッション(local-regional and adjuvant therapy)が、ガラガラだったことだ。前代未聞である。その理由は、二つあるだろう。ひとつは、ネタがやや枯渇していること、もう一つは、今回のASCOでは会長が乳がんの専門家のNancy Davidsonであることもあり、HER2過剰発現乳がんの治療、triple negative 乳がんの治療、ホルモン耐性乳がんなどが、clinical science symposiumとして、別セッションが建てられたことによるのだろう。ネタ不足にかんしては、ここ数年、注目をあつめているアロマターゼ阻害剤や、ハーセプチン、などの新規治療薬や、オンコタイプDXなどの新規臨床検査方法などの話がひと段落ついたためだ。全号で書いたように、どの領域も、ニブ、マブの世界であり、それらは、まず、転移性がんで評価されるので、久し振りで、転移性乳がんのセッションの方が、熱がこもっていた。
 
早期乳がんのセッションでは、興味深かったのは、TanGo Trial, CALGB79809それとビタミンDの話。
TanGo Trialは、乳がん術後の3000症例を対象として、EC(エピルビシン90mg/m2, シクロフォスファミド600mg/m2) x 4(3週毎) → パクリタキセル175mg/m2 x4(3週毎) を標準アームとして、試験アームは、これのパクリタキセルの部分にゲムシタビン(1250mg/m2 day 1&8, 3週毎)を上乗せするものだ。この試験の背景には、転移性乳がんで、タキサン単独よりもタキサン+ゲムシタビンの方が優れていたという結果がある。しかし、TanGo trialでは、まったく差がなかった。その理由は、何だろう。EC→パクリタキセルで、すでに効果は飽和していて、そこに加えられたゲムシタビンでは、上乗せ効果がない、ということだろうか。つまり、ステーキをたらふく食べたあと、食後のアイスクリームは、別腹ではない、ということだろうか。では、AC→3週1回パクリタキセルよりも、AC→毎週パクリタキセルの方が優れていた、という1199試験はどう解釈すればいいのか。ステーキは、小刻みによく噛んで食べると身になるということだろうか。たとえが、分かりやすいようでかえって混乱するね。

CALGB79809は、65歳以上の乳がん術後症例を対象に、CMF(クラシカル6サイクル)またはAC(60/600 4サイクル)を標準アームとして、試験アームは、カペシタビン(2000mg/m2を2週間内服し1週間休薬、これを6サイクル)。カペシタビンアームは、再発抑制、生存ともに、ACまたはCMFに全く歯が立たない、という結果であった。具体的には、ハザード比(試験治療/標準治療)はRPSで2.07、OSでは1.85と、いずれも2倍前後の値であったのだ。この結果は内外(読み:ないがい)に大きな衝撃をもたらしたが、中外(読み:ちゅうがい)としても激しくがっかりでしょう(悲しい)。原因として考えられるのは、カペシタビンの投与期間が短すぎやしないかね、という点。この試験では、2週投薬1週休薬で6サイクルということなので、実際に内服している期間は12週間だ。UFTがCMFに劣っていないという結果が出たNSASBC01では、UFTの内服は2年間であった。このあたりが原因ではないだろうか、どうよ、うん? 濱尾さん、ご意見ください。

ビタミンDの話はちょっと驚き。術後の時点で、血清中のビタミンDは測定して、予後を検討したところ、ビタミンDが低い人は高い人に比べて再発率が高い、という話だ。詳細は、次号で報告するが、すでに大部分の発表は、Virtual Meetingで見ることができる。この速さは驚きだ。これなら、スライドをデジカメで撮る必要はないようだ。会場には、いつもすらりとしたお姉さんが、名刺ぐらいの大きさの紙に、No Photoと書いて、控え目に示して歩いているが、こんなに早くVirtual Meetingが見られるのならお姉さんは正しいと思う。ASCOの底力を感じる。

 

ASCOの過ごし方


今年も5月31日(土曜日)からASCOのアニュアルミーティング(年次総会)が始まった。何年か続いたシカゴでの開催だが、来年からはオーランドで開催される。シカゴは日本から直行便で来ることができるがオーランドとなるとどこかで乗り継ぎをしなくてはいけないので時間のかかるし手間もかかる。特に9.11テロ以降、機内への持ち込みも、預ける荷物のチェックも厳しくなって乗り継ぎのために2時間ぐらい、見ておかないといけないようだ。シカゴでは、市の南、ミシガン湖に面したところにあるマコーミックプレースが会場である。はじからはじまで歩いて移動するだけで30分ぐらいかかるほどの巨大な会場だ。おそらく全米一ではないだろうか。ASCO GI, ASCO Breast など、領域ごとに別開催にはなっているものの、やはり年次総会の参加者は多く、巨大な会場の中心部は朝夕の満員電車なみの混雑ぶりだ。
さて、今年も昨年以上に「ミブマブ」の発表が多い。、プレナリーセッションでは、4演題のうち2演題は「マブ」。転移性大腸癌に対するセタキシマブ(商品名「アービタックス」)の効果はKRAS変異のない症例で認められるというCRYSTALトライアル、進行非小細胞癌にたいする同じくセタキシマブの効果を認めたFLEXトライアル。この試験では、サブセット解析ではアジア人では効果がほとんどなく、白人で効果があった、というものだがEGFR変異の頻度や非喫煙者の割合の違いなど、その他の因子との交絡も考えられるようだ。その他、2演題は乳癌のゾメタ、セミノーマのカルボプラチンの演題だ。
ABCSG(オーストリア乳癌研究グループ)のプレナリーセッションでの発表は、「?」が多くつく。この試験は閉経前乳癌症例を対象に、ゴセレリン(ゾラデックス)を毎月注射(3年間)して卵巣機能を抑制したうえで、①タモキシフェン内服群、②アナストロゾール内服群、③タモキシフェン内服にゾメタを6カ月毎に注射を加える群、④アナストロゾール内服にゾメタを6カ月毎に注射を加える群、の4群を比較した試験。よくみると、タモキシフェン vs. アナストロゾールという比較ファクターと、ゾメタあり vs.ゾメタなしという比較ファクターの二つのファクターを検討する、2x2(ツウーバイツウーファクトリアルデザイン)で、症例数の節約を図っている。それででた結果というのが、① タモキシフェンとアナストロゾールは差がない(アストラゼネカ真っ青気持ち悪い)、②ゾメタを加えると再発率が三分の二に抑制され、、死亡率も抑制される傾向にあった(ノバルティスにこにこスマイル)というもの。 
 
研修医山田君(突然登場): でもちょっと待ってください。、アナストロゾールとタモキシフェンの比較では、ATACトライアルでも、ITAトライアルでも、ABCSG8/ARNO95トライアルでも、相原先生がやったNSASBC03トライアルでも、いずれもアナストロゾールの方が、再発抑制効果が優れていたという結果でしたよね。
 
渡辺先生: おお、君も来ていたのか。そういえば、ASCOに参加するって、言っていたね。
 
山田君: 乗るはずの飛行機が故障で1日遅れてしまってんです。ですから、Perez先生とLake先生をおよびした勉強会も、ばたばたしていて参加できなかったんです。
 
渡辺先生:そうか、大変だったんだね。それで、話を戻すとね、確かにそうだけど、ATACなどは、すべて閉経後症例を対象とした試験だよね。でも、このABCSG12では、閉経前症例にゴセレリンを注射して見かけ上、閉経後のようにして、そこで、タモキシフェンとアナストロゾールのどちらが、再発抑制効果が優れているか、を検討しているんだ。だから、ATACなどは、完全に閉経した症例を対象としている。本当の閉経と、ゴセレリンで卵巣機能が抑制された状態とは、内分泌的には、まったく異なるので、そのあたりの違いかもしれない。なので、アストラゼネカちゃんも機嫌をなおしてね(恥ずかしいうん、わかった)。
 
山田君: 先生、アストラゼネカの昌本さんが、口を尖がらせていますよ、大丈夫ですか。
 
渡辺先生: ああ、そうね、いつもそうだから気にしなくていいよ。
 
山田君: それでね、先生、次にゾメタはどうなんですか? ゾメタはそもそも、骨転移のある患者で骨転移の進行を遅らせて、骨折、疼痛、高カルシウム血症などの「骨関連合併症を防ぐ」という目的や、骨粗鬆症の予防、治療で使われる薬剤であって、なぜ、再発率の低下につながるのでしょうか。
 
渡辺先生: そこなんだよね。そこがちょっと不思議なところだけど、ビスフォスフォネートの第一世代の薬剤、クロドロネートで、骨転移の予防になる、という報告もあるんだよ。 ビスフォスフォネートに関するASCOのガイドラインにも出てるから、一度読んでおくといいよ。
 
山田君:はい、わかりました。つまり、骨転移を予防するということですね。
 
渡辺先生: ふつうはそう思うよね。でも、骨転移だけでなくて、局所再発や臓器転移も抑制されるんだそうだ。なぜ、そうなのかということはわかっていないようだけど。プレナリーセッションでは、各演題毎に、discussionというのがあるのだけど、discussionを担当したPiccart先生は、種と畑、ということで説明していた。つまり、癌細胞が種だとすれば、転移先は畑ということで、畑が
それなりの条件が整わないと種も育たないということだ。しかし、この論調は、どうも骨転移のことを想定しているように感じたけど。ビスフォスフォネートは、癌細胞に対して直接作用もあるのではないかという意見もあるしね。
 
山田君:じゃあ、術後の患者さんには、ゾメタを点滴すればいいってことですか?
 
渡辺先生: 今の時点では、まだ、確定というところまでは行っていないと思うよ。ポジティブデータは、今回の試験と、Dr. Pawlesが2002年にJCOに発表したクロドロネートの論文で、あと、もう一つは、クロドロネートは、遠隔転移を抑制しない、という報告がある。だから、まだ、確定というわけではないと思う。ノバルティスくん、落ち着きなさい(天才 池井戸です。わっかりました)。でも、半年に1回の点滴で再発率が抑えられるのなら、こんなに楽なことはないね。骨は、たんなる硬い、白い、こんこんという塊ではなくて、さまざまな細胞や無機質は有機物や活性物質が織りなすとても複雑な臓器なんだよね。
 
山田君:でも、骨の話は、分かりにくいですよね。破骨細胞と造骨細胞のバランスで、骨粗鬆症になるとか、骨転移したがん細胞が、破骨細胞を手下のように操って骨を溶かすとか、イメージがわかないですね。
 
渡辺先生:そうかもしれないけど、癌治療、とりわけ乳癌治療は骨と切っても切れない関係があるし、これから、RANKL阻害剤といったあたらしい骨転移治療薬も出てくるから、一度、きちんと勉強しておくのといいね。こんどの、臨床EBM研究会はASCOの発表を検証する、というテーマだけど、ABCSG12を取り上げる予定にしているんだ。だから、臨床EBM研究会に参加すれば勉強できると思うよ。そのほかにも、ASCOでの発表をEBM的にどう解釈するか、ということで、内容充実しているよ、中村清吾先生も来るしね。
 
山田君: ええ、参加する予定にしています。
 
渡辺先生:もう、申し込んだの?
 
山田君:いや、まだです。
 
渡辺先生:早くしないと、締め切っちゃうよ。ホームページをみて、早く応募したらいいよ。
 
山田君:では、いまからやります。