母を送りて


月初に母が他界した。93才、安らかで穏やかな最期だった。兄夫婦と私たち夫婦の4人で、生前母が愛唱した賛美歌「千歳の岩よ」と「神ともにいまして」を歌い葬儀を終えた。母が亡くなる3ヶ月ぐらい前に、入所していた施設でコロナウイルスのクラスターが発生したので面会は一切できなくなった。認知機能もだいぶ低下していた頃、最後に妙子とふたりで母に面会した時のこと、私がスマホを見ながら百人一首の上の句を読むと、母は弱々しい声で下の句を全て間違いなく唱えることができた。息子として14年前に父を送りそして今月母を送った。両親の良い思い出がたくさんたくさん残っている。

生前、母は盲人のために書籍を朗読し録音するボランティア活動「かたりべの会」に参加していた。私が大学生の頃に帰省したときなど、その活動をしている浜松市図書館に車で送り迎えしたことがあった。また、医師になって郷里に戻り、浜松オンコロジーセンターを開設したころに、私が担当していた患者さんから「おかあさんの朗読をいくつも聞いていますよ。」と言われたことがあった。母の葬儀の数日後、ふと「かたりべの会」のことを思いだし、浜松市図書館に電話して、「母が他界し、母の声のテープをダビングしたいのだけど貸してもらえるでしょうか?」と尋ねた。その時は担当者不在だったが本日、かたりべの会の方から電話があり「著作権法で盲人以外に貸し出すことは禁じられているのでお貸しできません。」とのことであった。「さぞかしお寂しいことでしょう、お越し頂ければお母様の朗読テープ、数本でしたらお貸し致しましょう。」ぐらい言ってくれてもいいのにと思ったか、昨今はコンプライアンス(法令遵守)を徹底しなければいけないので、それはそれで非常に正しい対応ではある。しかし、なんとも非情で悲しい対応である。どうにかならないだろうか、この小役人的世の中よ!

悪くないね COVID19 ワクチン行政


医療従事者に対するCOVID19ワクチン接種に大方のめどがつき、次は80才(来年の3月までに80才になる、現在79才)以上の人たちへのワクチン接種プロジェクトが着々と進行しています。私どもの医療機関でも浜松市ワクチン班へのワクチン発注、接種希望者の受付および接種日調整予約作業が進んでおり、「打つワクチン」と「打たれる人」の緻密なマッチングは結構な醍醐味であります。コミナティ筋注(ファイザー製)は、-80℃で保管され(Deep Freezer)、ドライアイス充填配送箱での搬送(−79℃)(中北製薬という問屋が浜松市から搬送請負:癒着はないはず)、私どもの医療機関で受領後−25℃(Standard Freezer)で2週間まで保存可能、冷蔵庫で3時間または室温で30分で解凍、添付の生理食塩水で希釈、激しく振ると泡立つので静かに転倒混和、1バイアルから6人分なのか5人分なのかは一定していないけど、とりあえず市役所からの指示は「5人分」ということになっています。バイアル番号何番のコミナティ(筋注)を、接種券番号何番の人に何月何日何時何分に接種したという履歴は、政府と浜松市から支給されたVーSYSとVRSという2つのアプリケーションとタブレット端末を使ってきちんと厚労省と市役所とに伝わる仕組みになっています。この一連のCOVID19ワクチン行政を理解するのに大変苦労しましたが、慣れるとかなり円滑に対応できるようになり、緻密なワクチン行政は決して悪くはないと思います。しかし、室温で長期間保管できて、お一人様一バイアル使用の「インフルエンザワクチン」のような扱いができる「すぐれものワクチン」が登場すればこんなにややこしい「ワクチン行政」を運用しなくてもいいのでしょう、お金もかかるし。第一三共でも日本化薬でも武田薬品でも、日本の超一流製薬企業が進取の気性をもって「室温で安定、お一人様一バイアル型のワクチン」を開発する日を頚を長くして待っておりますよ。