添付文書の頓珍漢


薬剤添付文書、英語でいえば、パッケージ・インサート。薬剤の箱に入っている「公式文書」である。薬剤添付文書に記載のある副作用は、既知の副作用、なければ未知として、それを知った医師、製薬企業は厚生労働省に届け出ることになる。用法・用量についても、ここに記載されている方法以外は不適切な治療法となる。このたび、世界から10年遅れて、タキソールの週1回投与が追加になった。乳がんではよし、肺がん、卵巣がんでは、だめ、という、またまた石頭対応であるが。これで、乳がんでは、3週に1回、または、毎週1回、どちらでもよい、というよりは、だれも3週に1回は使わないだろう。しかし、添付文書に載っている210mg/m2 (3週1回)、100mg/m2(毎週)という投与量である、、こんな投与量、今ではだれも使わないだろうが! これまた、いかにも頓珍漢な行政対応である。あ~あ、いつまでたっても当局は、○○○だな。
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サンアントニオ最終日


今日は日曜日、サンアントニオ乳癌シンポジウムも最終日、会場は閑散としている。閑古鳥がなくというが、会場には本当に鳥が飛んでいた。帰り支度をした参加者は、興味のある演題がおわると鞄を引きながら帰っていく。米国内なら、遅くとも今日の夜には自宅に帰りつくだろう。9000人近くの参加者のうち、三人に一人は海外からの参加者であり、日本からも200人近くが参加している模様。日本に帰るのには、午前中の早い時間に出発しなくていはいないが、最終日はお昼までgenaral sessionがあるので、これを勉強するとなると、帰国は明日ということになる。それで、最終日は、ややゆるりとした雰囲気でセッションが進行する。
さて、最終日の演題からいくつか、拾ってみよう。
① PACS04トライアルの中間解析の結果報告。この試験は、フランスとベルギーの一部の施設で行われたハーセプチンの試験だ。第一段階のランダム化では、FEC100 vs. ED75 を比較する、そのあと、ハーセプチンを50週間行うか、行わないかをランダム化する、二段階ランダム化試験である。今回は、第二段階のハーセプチンあり、なしについて発表。第一段階には、約3000例が登録されたが、第二段階でランダム化されたのは、528症例。統計学的考察でハーセプチンの追加により3年無再発生存率が37%抑制されることを検証するための必要症例は540ということだから、まいいいか。それで、230例がハーセプチンあり、268例がハーセプチンなし。結果は、ハザード比でも、3年生存率でも統計的有意差なし。再発数は59対70であった。ハザード比は0.86なので、14%は抑制していることにはなるが、この差を有意とするだけのパワーがない、つまり、症例数を仕込んでいないということになる。もう少し経過観察すれば、再発数が開いてくるだろう。最終解析を待ちたいね。
PACS04フランスおやじ
 
② trastuzumabとpertuzumabの併用の結果が発表されたが、ASCOでのホセバセルガの発表と基本的に同じ。
③ 妊娠すると乳腺組織のがん抑制遺伝子P53の発現が高まる、しかも、若いうちの妊娠のほうがその程度は大きい、という面白い発表があった。これは、今後、話題になるだろう。とりあえず、はやく妊娠してがん抑制遺伝子を貯めよう、というふうに覚えておこう。
④ UKのTACT、これは、術後ケモとして、FEC(8サイクル)、FEC(4サイクル)+ドセタキセル(4サイクル)、エピルビシン100(4サイクル)+CMF(4サイクル)の比較だが、まったく差がなかった。PACS01では、タキサンがよかったのに、これでは差はなし。ちゃんちゃん。ますます、NSASBC02の結果が待たれます。
ヒョウ2
⑤ GEPARQUATTROでは、術前化学療法で、EC(4サイクル)のあと、ドセタキセル(4サイクル)追加 vs. ドセタキセルと同時にゼローダ追加、ドセタキセル終了後にゼローダ追加、の3群の比較。結果は、病理学的完全奏効率で、まったく差はなし。ドセキセルをつかうとサイミジンフォスフォリラーゼ活性が高まる結果、ゼローダがたくさん活性化されるというあの話はどうなってしまったの? 浜尾さん、えぇ? 差が出るといろいろ言うけど、差がないと、でも、そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ・・ ハッケッキュウ~ ってか。
小島よしお
 
⑥ 最後の演題で、このセッションの司会を務めていた今、売り出し中の、「ジェニーちゃん」が、cancer stem cellの話をした。話の内容もよかったが、もっといいことに、がんのたとえとして、タンポポを使っていたことだ。おっ、どこかでみたことあるなあ、タンポポの種って話。思い出せないなぁ~。 でも、新しいコンセプトとして、タンポポの根というところを逆パクリしたいと思いました。
 
4日間にわたり、とても多くのことを勉強できました。クレイグ・ヘンダーソン、ダニエル・ヘイズとのインタビュー記事(ノバルティス提供、がん情報局支援事業)は、金谷まどかさんがまとめてくれます。乞うご期待!! HERA試験の1年と2年の比較についての発表はありませんでした。発表は、来年のASCOか、サンアントニオになりそうです。来年のサンアントニオでは、是非、NSASBC02試験の結果を発表しよう! 明日日本に帰り、年末は29日まで働いて、そして、楽しいお正月が待っているね。日本に帰ると家族や愛犬ロビン、そしてヤマトヌマエビが入った水草水槽が待っている。早くかえりたい・・・ホームシック。これから、思い出の地、ジ・アラモに行ってこよっと。

転移性乳がん治療 サンアントニオの寒空の下


二日目と三日目の昼には、サンアントニオの定番プログラム、CASE DISCUSSIONがあります。二日目は原発乳がん、三日目は再発乳がんの治療を討論します。壇上には、内科医3-4名、外科医1-2名、放射線科医1名に加えて患者代表があがります。司会は、3年前までは、Kent Osborneがやっていましたが、今年は、Jenny Chang(ジェニーちゃん)がやっていました。会場のマイクの前には、ずらり、列ができます。そして、順番に、自分が担当していて、治療に苦慮している症例を提示します。これは、実症例であるので面白いのであって、日本の乳癌学会地方会でやったようないいかげんな作り話ではありません。高齢者とか、妊娠中とか、アレルギーで薬が使えないとか、実に、さまざまな症例がここでは提示されます。壇上の専門家は、ホルトバジイとか、ピッカートとか、スレッジとか、論文では名前をよく見る人ばかり。超一流の研究者は、超一流の臨床家でなけりゃきけない、という原則どおり、彼らの、回答は実にすばらしいと感じていました、3年前まではね。ところが今年は、どうも感じがちがうのです。二日目の原発乳がんに関しては、数多くのエビデンスがありますし、また、ガイドランやコンセンサスなどが公表されていることもあり、だいたい、ほぼ全員が納得するような回答が示されます。ところが、転移性乳がんを扱った今日の場合、「ランダマイズドエビデンスがないので、答えは、ありません。患者と十分に相談して最良の方法を決めるのがよいでしょう」というような対応が実に多く不満を感じました。というよりは、檀上の専門家の力量の低下を感じた、というほうが正しいでしょう。「ER陽性、PgR陰性、HER2陰性、温存手術後半年で、温存乳房内に再発し、傍胸骨リンパ節と、肝臓にも2個の転移がでた。」という症例に対して、檀上の女外科医が、「私なら、デフィニティブサージェリーで治癒を目指すために、原発切除、傍胸骨リンパ節切除、関節所を行う。」といったのですが、ホルトバジもスレッジもワイナーも、そりゃだめだ、とは言わないで黙っている。司会者にうながさされると、ホルトバジがAIの内服も選択肢のひとつ、と。転移巣の手術など、やるわけないだろうし、原発についても、AIで小さくなれば、それでよい、というのが正解ではなかろうか。なんでこんなになってしまったのか? と考えてみました。転移性乳がんは結局、何をしても治らない、もし、患者が手術をしてほしいといって、それは意味がないといったところで、AIが効いて、ケモが効いて、QOLは保っていっても治癒することはないわけです。それは現実です。それで、もし、あの時、手術しなかったからこうなったんだ、といわれることのないように、なんでもありありの対応をする、ということかもしれません。ランダマイズドエビデンスがない、というのは確かにそのとおりです。ASCOでも、1990年代前半までは、転移性乳がんを対象とした治療概念を検証するようなランダム化比較試験が結構発表された。たとえば、TAMとACの同時併用か、TAMだけで開始するか、ACから開始するか、という3群を比較したオーストラリア・ニュージーランドグループの試験は有名で、こららが元になって、今の治療体系が成り立っているわけです。それが、199年代後半からは、対象は、転移性乳がんだけど、検証するのは、薬剤のよしあしであって、治療概念とか、治療方針の良し悪しを検証するような試験はすっかりと影をひそめてしまいました。確かに、ハーセプチン、タキサン、アロマターゼ阻害剤などの薬剤が、つぎからつぎへ、比較試験で評価され、治療薬としてのスペックが明らかになったということは歓迎すべきです。しかし、この間に、大切なものを忘れてしまったように感じます。つまり、「このような状況の患者には、どのような治療をするのがよいのか」といような、患者の病態に着目して、それをどうにかしようという取り組みがおろそかになっているように思います。いってみれば、薬に気を取られ、患者をみなみということに通じるのではないでしょうか。そのことを、今日、インタビューした、クレイグ・ヘンダーソンに話したら、「100%同意見だ、最近は、遠隔転移があっても原発巣を手術したほうがいい、というムーブメントがある。これは、エビデンスレベルの低い論文が一本出たのをきっかけにそうなった。こういうことは、医学以外の領域でもよくあることだ。それで、外科医が中心になって、遠隔転移のある患者に、原発巣をとる、対、とらない、の大規模比較試験をやるというから、それはいいことだ、どんどんおやりなさい、と言っておいたが、それと、今、臨床試験以外で、原発巣をとる、というのとは、まったく違う話だ。」と言っていました。これには私も同感です。ヘンダーソンや、ラリーノートン、マークリップマンなどの知恵袋が引退した現在、その後継者たちは、薬をみて病気、患者をみなみということにならないといいなあと思います。

サンアントニオ30年(改定第2版)


昨日からサンアントニオ乳癌シンポジウムに参加している。昨年、一昨年と2年続けて参加できなかったが今年は鈴木究子先生が留守中の診療をきちんとやってくれるのでSt.Gallen, ASCOに次いで3回目の長期出張が可能となって、しっかりと勉強できるのでうれしい。サンアントニオ乳癌シンポジウムも30回というからちょうど私の医師としてのキャリアと重なる。
今年の発表は、これと言って目新しいものはないようだけど、薬物療法の方向性ははっきりと見えてきた。つまり、本当に治療が必要な患者に、必要な治療をきちんとやりましょう、という方向である。そのような視点から今回の発表を見てみると・・・・
① 大量化学療法は標準治療と比べて優れているということはない、Dan Berryによりメタアナリシスの結果として発表された。大量化学療法が検討された時代から、ハーセプチンやアロマターゼ阻害剤など、すぐれた薬剤が多数、臨床応用され、有用性が検証されている。大量化学療法の時代は、はいっ、終~了~。
② INT0100試験の対象となった症例について、21遺伝子を評価する再発スコアを用いて、リスク別のCAF追加効果を検討した。するとCAF追加効果高リスク症例では明らかに認められるが、低リスク症例の場合は、効果はみとめられず、タモキシフェンだけでよい、という結果が、Cathy albainによって発表された。21遺伝子を使用した再発リスク評価とは、「Oncotype DX」という商品名の検査キットとして市販されている。日本でも使用は可能だ。今回の見当は、Oncotype DXを応用した検討としては初めてのものだが、ホルモン受容体の発現状況やHER2過剰発現状況のより、アンソラサイクリンが効くか、パクリタキセルが効くかというような検討は、かなり行われている。しかし、これらの検討には常に、レトロの解析であることの批判が付きまとう。確かにエビデンスレベルは低いが、多数の検討で同様の結果がえられていることから、そろそろ、臨床的方針として、ER陽性、PR陽性、HER2陰性(正常)の患者では、ケモをやらない、というような、あるいは、ACだけ、とかCMFとか、場合によっては、UFTのみというような治療の考えてもいいのではないだろうか。
③ お声のいいSteven JonesによるAC対TCの比較の結果が報告された。この試験の結果が発表されるのは2005年についで2回目だが、今回は生存期間もTCで延びているという結果である。確かに、AC4サイクルに比べて、TC4サイクルのほうが生存期間が延びているが、アンソラサイクリン→タキサンで、合計8サイクルとか、CEF100で6サイクルというのが標準になりつつあるようなポピュレーションでTC4サイクルはいかにも中途半端であろう。また、発表されたむくみとか、好中球減少性発熱など、TCの副作用の頻度が低すぎるように感じる。いずれにしてもTC4サイクルは標準にはなりえないようだ。
④ ATACトライアル100か月の観察でも生存期間では差はなしということであった。TAM5年とアナストロゾール5年の比較では、無病生存期間はアナストロゾールが優れているが、生存期間では差がないという結果は、今までの発表と変わらない。しかし、まるで徳川埋蔵金の特番のように、差が出る、差が出る、と言い続け、今度もだめか、と肩透かしを食らわされるようなものだ。発表では、ホルモン療法終了後の再発抑制効果が持続し、それは、タモキシフェンよりもアナストロゾールで大きいという報告もあった。しかし、最近では、術後のホルモン療法は、5年よりも10年、ひょっとするとそれ以上の期間必要だ、というデータもある。そうすると、アロマターゼ阻害剤の意義について、もう一度、考え直す必要があるかもしれない。
⑤ ポスターで穂積先生が、NSASBC03の副作用の経時的変化を発表した。NSASBC03は、タモキシフェン内服から、アナストロゾールに切り替えるか、そのままタモキシフェンを継続するか、という、ABCSG trial 8/ARNO 95 trialに類似した試験である。この発表のポイントは、GOT、GPTなどの肝機能障害、関節痛、ホットフラッシュなどの副作用を開始後、12ヵ月にわたり、推移をみたものである。通常、副作用は、全経過中で、出たか出ないか、出たときゃどの程度か、ということしか報告されないので、このように、続けていってどのように変化するか、という情報は意外とすくないのである。データセンターの緻密な集計作業のおかげであろう。
⑥ 二日目の午前中は、特に印象に残る発表はなかった。トランスレーショナルリサーチということで数題の発表があったが、どれもこれも、遺伝子発現とか、新しいバイオマーカーとか、ER陽性、PgR陰性のさらなる検討など、であったけれど、結局、現在、ルーチンに使われている臨床検査(ER、PgR、HER2など)で得られない情報の可能性がある、という感じではなかった。相当な研究費がつかわれているなぁ~、無駄やなぁ~、という発表もありましたね。そこで、ふと思い出したことがあります。私が米国留学から帰国したときに、慶応大学の上田先生が、医局の朝の勉強会で話してほしい、と言われ、米国でやった研究について、話したことがありました。最後に、阿部令彦教授が、「しかし、アメリカという国は、ずいぶんと無駄なことにお金をつかうんですねぇ~、えぇ?」と言われたことがありました。まあ、いいか。
⑦ 二日目の午前中、最も印象に残ったのは、William McGuire Memorial Awardを受けたMich Dowsettの講演。乳がんの内分泌療法や、内分泌学的生物学をづっと続けてきた彼の話をきき、あらためて歴史の積み重ねを確認することができた。また、ER陽性、PgR陰性問題の経緯やその結末も真摯な語り口とわかりやすく冷静な説明でよく理解できた。また、PgRの意義につついて、自らのデータを示しながら、 Dr. Petoの見解をやんわりと否定した。乳癌の内分泌学のエキスが集約された素晴らしい講演であったと思う。
⑧ Late Breaking Presentationとして、ATLAS Trialが、Dr.Richard Petoにより発表された。ATLASとは、Adjuvant Tamoxifen Long and Short。つまり、タモキシフェン5年と10年を11500人を対象として、ランダム化比較している研究。抄録でも発表でも5年より10年のほうが、無病生存で優れている、ということだが、データの提示の仕方が分かりにくく、結論がどうだ、というのが、ちょっとわかりにくい。大橋先生がスライドを持っているというので、2月のCSPOR年会の時に、解説付きで分かりやすく発表していただきたいと思います。大橋先生、よろしくお願いします。増田さん、調整をお願いします。
IMGA0316
 
⑨ 学会の収穫は、いろいろな人にあうことができる、ということは以前にも書いた。明日は、ダニエル・ヘイズとクレイグ・ヘンダーソン、ふたりの大物にインタビューすることになった。楽しみだなぁ~。