As a result of the best effort


「多くの固形がんでは他臓器に転移再発した場合の治療目標は症状緩和、症状予防、延命であり治癒は含まれない。」これは、腫瘍内科学を学ぶ研修医に、まず理解させることであり、患者、家族への情報提供や、治療計画を立てる場合には覚えていなければいけません。二十年近く前のこと、研修医が、肝転移のある乳がん患者に「治癒することは絶対にありません」と強調しすぎたため、患者は激しく落ち込み、あまりに冷たい説明だ、とご主人が私に涙ながらに訴えてきたことがありました。翌日、診療グループ全員で対応策を数時間に亘って話し合った結果、治癒しないというのは本当なのかを、過去の患者データを徹底的に調べてみよう、ということになりました。当時、勤務していた国立がんセンター中央病院の転移再発した乳がん患者カルテを徹底的に調べ、同じ抗がん剤治療を受けた患者約三百人のデータを解析しました。すると再発後十年以上経過して、がんが完全に消え、治療も必要としていない患者が八%いることがわかりました。同じ頃、米国から再発乳がん患者の五%程度は十年以上延命し、おそらく治癒したと思われるという趣旨の論文が発表されました。私の経験でも、乳がん肝転移を何回も繰り返し、ホルモン剤、抗がん剤治療を行なううちに転移が消え、仕事が忙しいので、また具合が悪くなったら来ますと言ったきり外来に来なくなった患者に二十年ぶりに東京駅で出会った、とか、骨転移で痛みが強く、抗がん剤治療を行い、後任の医師にその後を頼んだ患者さんに家電量販店で「先生、お久しぶりです。私生きています。」と声をかけられ、十五年ぶりに喜びと驚きの再会をしたなどのエピソードがあります。すべての患者に治癒を約束できれば治癒します、と言えますが、どの患者が治癒するかを治療前に言い当てる事ができません。そのため、努力目標は延命として精一杯治療すると中に治癒する患者もいるということなのです。

 

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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