抗がん剤治療の副作用に、脱毛、肌あれ、日焼け、爪の着色など、外観に大きな変化をもたらすものがあり、女性患者にとってはきわめて深刻な問題です。ところが、髪が抜けたって命には代えられないという理屈で、外観上の副作用を軽視する意見は、かつては医師の間では一般的でした。最近は、抗がん剤治療開始前にそのような副作用が現れる割合、程度、回復時期などについて、きちんと説明する医師は多くなっていると思います。しかし、問題は、我々男性医師はカツラのこと、爪の手入れ、まゆ毛の書き方、お肌の手入れなど、医療の範囲を微妙に超えるような対応策について、十分な知識や経験を持ちあわせていないことです。皮膚に明かな病変があれば、皮膚科医に相談したり、自分で治療を習得したりすることで適切な治療を提供することができます。しかし、おしゃれの範疇はどうも苦手なので、対応を患者任せにし、看護師の積極性を当てにした結果、患者に十分な満足を提供できていないこともありました。
しかし、状況は、少しづつかわってきています。抗がん剤治療で起きる外観上の副作用への対策を専門的に支援するお店ができているのです。そこでは、大手メーカーに任せず、自らカツラの作成に関与し良心的な価格で提供する、見た目もかわいく使用感も快適な部分的なカツラのついた帽子を作成、販売する、脱毛したまゆ毛の書き方を指導する、日光に過敏になる副作用をもつ抗がん剤治療をうける患者の肌の手入れ対策を指導する、など、随所に工夫が感じられます。患者の視点にたったきめ細やかなサービスを提供するため患者が集まり、定期的にお茶飲み会を開催し、心の悩みまで解放している場合もあります。そんなお店を経営しているのは、自らが治療に苦しんだ経験をもつがん患者や、がん治療病棟の看護師としての経験から問題意識を持って企業した女性です。彼女たちは、治療中のおしゃれを積極的に楽しむこつを患者に伝えているように思います。
先生、初めまして。いつも拝見しております。
抗がん剤治療中のおしゃれ、という事ですが、今、私は抗がん剤治療終了から2年半経っても「髪は元に戻っていません」。
16人に1人が乳がんになり、そのうち4割が抗がん剤治療を受ける。そしてそのうち10人に1人の割合で髪が元の状態に戻らず、残りの人生を薄毛に悩まされて過ごします。
2010年の乳がん学会でもこの「抗がん剤後の髪質の変化」の発表があり、厚生省の「抗がん剤被害者救済検討会」でもこの髪の問題は検討項目として挙げられていました。
全国にも同じ状態で悩み・苦しんで辛い思いをしている人が多くいます。
共通するのは「前頭部の髪が全く伸びない・頭頂部の髪がほとんどスカスカ・糸よりも細い髪」という事です。
そして、もう一つは「医師の説明不足」です。
もし、「髪が元に戻らない可能性もある」と説明があれば、こういう結果になった患者は、抗がん剤投与を選択しなかった可能性もあります。
私は初めから、抗がん剤は拒否していましたが、担当医からはこのような説明は一切なく「髪は治療後必ず元に戻るから」と看護師と二人によって「説得」され、「もう少しの辛抱…」と投与を受けてしまいました。
今では抗がん剤治療を受けた事は、自分の人生の中で「最大にして最高の後悔」となっています。
何度もこの医師に問いかけ、説明も求めましたが『判らん・何でやろう・今までそんな人いないよ・どうしようもない』と苦笑いしながら、外人のように肩をすくめて『お手上げ』と言われました。
そして、その後は病院側も担当医も一切、こちらには返事もしない・相手にしない、という態度を続けています。
「治療を受ける人みんなに、髪は元に戻ると言ってるから」と言われ、『再発・転移したら悲惨よ。再発転移を防ぐ方が大事なの。』と…。
本当にそうでしょうか?
私は残りの人生、もう自分の髪で表を歩く事は出来ません。
「帽子被れば?ウィッグは?」と平気で言う感覚が理解出来ませんし、外見だけの問題でしょうか?
もう自分の前髪をかきあげる事も、可愛いピンを止める事も、髪を束ねる事も出来ない…。
こんな悲しい、哀れで切ない事はありません。
結局、こんな結果になった患者は『医師にとっては『都合の悪い結果の患者』という事でしょう。
医師の責任とは何なのか…
私の場合、抗がん剤治療中にもいろいろと問題があり、何度も担当医に訴えましたが、すべて「決まった量を決まった期間で投与しないと何の効果もない・減薬はしない」と、そのまま投与を続けられました。
今、ホルモン剤も拒否しています。(こういう結果の方でホルモン剤を拒否して、民間療法に走ったりしている方も少なくありません)
こういう結果になった患者の多くは再発・転移よりも今の髪が全く戻らない状態の方が悲惨で、問題なのです。
どうか、こういう抗がん剤の被害者が思っている以上にいる事をもっと知って下さい。
真剣に対応する医師を増やして下さい。
ちゃんと具体的に説明する、という基本中の基本を徹底させて下さい。
「乳がんガイドライン」でもいまだに「治療後髪は元に戻る」という記載しかありませんが、「元に戻らない可能性もある」と追記するようにして下さい。
渡辺先生が会長になられた今だからこそ、お願いします。
私は今、何の説明も対応もせずに逃げている病院・担当医を心底、卑下し、憎んでいます。
こんな病院・医師を信頼してしまった自分は本当にバカだった…と後悔ばかりです。
この先、再発・転移があってももう二度と抗がん剤治療などは受けるつもりはありません。
そして、外出するのもイヤになり、ずっと引きこもりの状態で、早く「お迎え」が来ないかなぁ…と思う日々です。
抗がん剤をしたから再発が押さえられているというベネフィットと、脱毛を含め、好ましくない結末であるハームとのバランスをどう受け止めるかという問題は、癌治療に携わる我々腫瘍内科医にとっては毎日のように遭遇する難しい問題であり、可能な限り患者と情報、知識、理解を共有しなければいけないと思っています。
お忙しい中、お読み下さりありがとうございます。
やはり、適切なインフォームドコンセント・インフォームドチョイスをしっかりと実行している乳腺医がまだまだ少ないと感じます。(または自分なりの解釈のみで行っているだけ、と言いますか…)
結局、「患者への対応」のひと言に尽きるのではないかと思います。
治療前の説明はもちろんの事、好ましくない結果になった時にも、どう患者に対応するか。
抗がん剤の結果、「後遺症」が残った。
その時も「可能な限り患者と情報・知識・理解を共有しなければ」と考える前に、私の担当医と病院はそういう患者は、「無視する・相手にしない」という選択をした訳です。
乳がん学会に参加している事が自慢で、地元でも多くの講演会をしていますが、聞いていてもこの医師が、私のような結果に対して誠実に対応する事は一切ないだろうと確信しました。
悔しく、哀しい事です。
とどのつまり、その医師の(医師である以前に)、「人間性の問題」なのでしょう。
ありがとうございました。