今年のASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)での目玉は、全体的にはモノクローナル抗体と小分子キナーゼ阻害剤につきると思う。モノクローナル抗体は、乳がんにおけるハーセプチン(トラスツズマブ)、大腸がん、肺がんなどにおけるアバスチン(ビバシズマブ)、大腸がん、頭頚部がんなどにおけるアービタックス(セタキシマブ)について、画期的なデータが多数報告された。しかし、とりわけ注目に値するのが乳がん術後治療においてハーセプチンを使用すると再発率が50%抑制される、というデータだ。今回、三つの臨床試験で同様の効果が得られているようで、そのうちの一つは、日本からも多数の症例が登録されているHERA studyである。今までは、ASCOで驚異的な結果が発表されても、あれは、欧米のデータだから日本人にはあてはまらない、とか、日本人を対象とした治験をやり直す必要がある、なんていう、いかにもモラトリアム的な対応で、本質的対応が先延ばしにされ、その結果、「海外では使えるが、日本では使えない抗癌剤」という一つのカテゴリーを形成しうる社会問題が生じてきたが、今回は、そのような言い訳は一切、通用しない。日本人も対象となった臨床試験で、ポジティブデータが出たのだから、我が国の行政も、そして、製薬企業も、すぐにアクションをおこさなくてはならない。具体的には、ハーセプチンの術後での使用での承認を得ること、とくに、これは、ヨーロッパ、米国、そして日本の三極での同時承認が必要であろう。厚生労働省の承認が、他二極から、決して遅れをとってはならない。しかし、承認までのプロセスは、どうしても数ヶ月はかかるだろうから、その間の患者さんへの使用をどうするか、と言う問題も具体的に対応策を講じるべきであろう。いいとわかっている薬、安全性も確立されている薬が、既に市場に存在するのに、承認までは使えません、と言うわけにはいかない。希望する患者さんには、ハーセプチンの分だけ自費診療とする混合診療を認めるのか、企業が無償で提供するのか、保険での使用を前倒しして認めるのか、患者さんは待てないのである。さて、どうするか、薬事行政力が試される問題である。また、中外製薬の担当者の問題解決力をじっくりと見せてもらいましょう。日本でのハーセプチンの臨床開発に関与してきた私としては、1日もはやくスムーズにハーセプチンが術後治療として使用できるようにしてもらいたいと、企業と行政に強くお願いしたい。
