診断と治療


乳癌学会関東地方会のランチョンセミナーで、ケースカンファレンスをやりました。ケース、つまり、実際の患者の状況を提示し、どのように診断するのか、どのように治療するのか、をみんなで話あう、これがケースカンファレンスです。ケースカンファレンスは、我々、臨床医が毎日の診療の研鑽のためには、とても大切な勉強方法ですが、これを、学会でやろう、という動きは、日本でも数年前からありました。今回、第2回の関東地方会は、会長の中村清吾先生(聖路加)が、いろいろと工夫を凝らして、プログラムを考えたなかで、このランチョンセミナーは、めだまのひとつでした。
 
私と秋山太先生(癌研)が司会をして、壇上には関東一都七県から「若手」とされる医師24名(1県あたり3名をそれぞれの県の大御所から推薦してもらったらしい、いかにもバランス重視の中村正吾先生らしい選び方だな~と関心!!)が、壇上でアンサーパッドを使って、予め用意された質問に答え、その答えを元に、また議論というやり方です。ケースは2例、1例目は診断がテーマで、マンモグラフィや超音波、病理診断をもとに診断をすすめ、手術方針を決めるプロセスを学ぶもの、2例目は、術後にホルモン療法をやるか、抗癌剤をやるか、あたりの治療の話です。私は治療のところの司会を担当しました。はじめに、壇上の「若手」とされる医師24名に「診断と治療は、どちらが得意ですか」と尋ねてみました。すると、治療が得意!と答えたのはたった2-3人、あとは、みんな診断系が得意、あるいはお好きのようでした。いまのトレーニングシステムを考えてみると、それもそうだろうな~、と思いました。やはり、治療が得意!!と、胸をはってはつらつとして、手を挙げることができるような知識と経験を持った本当の若手の出現を多くの国民と共に強く期待するものであります(天皇陛下の口調で)。
診断系と治療系とは、全然べつものでしょうから、そろそろコウモリの里でも、業務分担を考えて頂けないものかと思います。

鳥なき里のコウモリ


司会: 渡辺先生は、ブログにも書かれているように、全国くまなく講演をされているようですね。そのような地方講演での最大の収穫はなんでしょうか。
 
渡辺: あちこちの地域を尋ねて講演や症例検討会をしていますとね、我が国の癌診療の実態が痛いほど、よくわかってくるんですね。ですから、地方講演というのは、ものすごい勉強になると思います。がん治療の領域で腫瘍内科医が足りないという話は、あちこち、そとこと、さまざまな人が語っているわけですが、では、実態はどうなんだ、腫瘍内科医がいないと何がいけないんだ、という話になると、外科医に対する気兼ねもあってか、あまり、はっきりとした意見を述べる人は少ないですね。遺伝の話では、フェノタイプと、ジェノタイプという区別があって、フェノタイプというのは、表面に現われる形をいい、ジェノタイプというのは、遺伝で規定された、表には出ないけれど子孫に伝わる形を言います。外科医がやっても、腫瘍内科医がやっても、「抗癌剤を点滴する」という行為は同じでも、どのようなエビデンスを心得て薬剤を選択し、どのような副作用が出そうだから、予め手を打っておいて、実際に、副作用がどんな症状として現われた、抗癌剤の効果がどのように現われた、ということについて、何を考え、次の手として何を心の中に用意しておくか、という、表にでない部分では、よく勉強している腫瘍内科医と、そうでない医師とは全然ちがうと思うんですよ。
 
司会: なるほど。渡辺先生も腫瘍内科医として、先生のおっしゃる「そうでない医師」の治療については、昔から、問題を感じていらっしゃったのですか。
 
 
渡辺: 駆け出しの頃は、その違いがわかりませんでしたね。昔、私が国立がんセンターのレジデントだった頃、恩師の阿部薫先生が、乳癌患者の薬物療法についてのカンファレンスを外科・内科で合同でやろうと提案されて、毎月やっていました。当時は、- 今でもそうですが(笑い)、国立がんセンターでは、外科医よりも内科医の方が元気がよく、口も達者でしたから、外科のやっている治療について、内科から、様々な意見、批判がだされ、外科の先生は黙ってしまう、という局面がよくありました。当時は、私は、まだ、まだひよこだったので、ほとんど発言はできませんでした。阿部先生は、常々、「俺たちがやる方が、抗生物質にしても、痛み止めにしても、抗癌剤にしても、補液にしてもうまいんだよな、どこがどうとは言えないけど、内科が診ている患者の方が、回診しても、元気になっていくのがよくわかるんだよな」とおっしゃり、その言葉が、頭の隅に常にひっかかり、腫瘍内科医の臨床的専門性とはなんだろう、とか、外科と内科の違いはなんだろう、というようなことは、ここ20年以上、常に考えている課題ではないでしょうか。
 
 
司会: 20年考えてきてどうなんでしょうか。
 
渡辺: 印象だけでしゃべっていると問題があるので、先日、癌治療学会の「乳癌標準治療の普及」のところで話したことをお話しましょう。浜松オンコロジーセンターを開設する前に、東京のクリニックで、約2年間、オンコロジーセンターを新設し、セカンドオピニオンや、外来化学療法をやっていました。そこには、関東からの患者さんが最も多かったのですが、全国からも癌の患者さんや、患者さんのご家族がお見えになりました。2年間で、294名がセカンドオピニオンを求めて、受診され、そのうち、175名が乳癌の患者さんでした。腫瘍内科医のセカンドオピニオンですので、病理診断や、画像診断に関する相談は含まれていません。175名は、すべて、抗癌剤、ホルモン剤、ハーセプチンなど、薬物療法に関するものでした。相談内容の記録から、これらの患者さんが実際に受けている治療内容を、A1「標準治療を行っており説明も過不足なし」、A2「治療内容は標準的であるが、説明が不十分、不適切である」、B「標準治療からはずれるが許容範囲内である、C「標準治療ではなく推奨できない」、D「標準治療ではなく、患者は明らかな不利益を被っている」の、5段階にわけてみました。その結果は、A1が9%、A2が14%、Bが 35%、Cが27%、Dが14%でした。つまり、標準治療と考えられる治療を受けている患者は、全体の23%、約1/4でした。
 
司会: 標準治療を受けている方は、たった1/4ですか、驚くべき低さですね。
 
渡辺:誤解のないように言っておかなければなりませんが、もちろん、標準治療をうけて、全く問題がなくって、セカンドオピニオンも求めない患者さんも、それなりにいるわけで、けっして1/4程度というわけではないと思います。しかし、この数字は、実際に地方講演で回ってみた感触と大きくは変わらないように思いますね。
 
司会: 現状の問題点は、たいへんよくわかりました。渡辺先生は、このような現状の解決策は何だと思いますか。
 
渡辺: 腫瘍内科医の育成は、確かに重要ですが、現実のニーズをみたす程の数と、質をみたすには、まだまだ、時間がかかると思います。まず、乳腺外科なり、乳腺科として、乳癌診療を専門的に取組む外科医を増やすことだと思います。典型的な、市立病院とか、労災病院とか、日赤病院などの、地方の中核病院では、乳癌手術件数が年間20とか30で、しかも、勤務している外科医3-4人が、てんでばらばらに手術していて、そのまま、いいかげんな薬物療法をやっている病院が多いです。このような病院に対しては、3-4名の外科医のなかで一人、乳癌診療の責任番を決めてくれるよう、お勧めしています。地方の病院では紹介されたりで、他の外科医に手術を依頼する、というのがやりにくい場合もあるらしい。しかし、いくら頼まれたからといって、乳癌診療を専門としない外科医に手術されるよりは、専門家に任せてもらった方が、患者の立場に立ってみれば、いいに決まっています。乳癌の責任番は、手術患者を集約して手術を行う、薬物療法の基本レジメンを決める、他の医師が、乳癌診療に携わる場合でも、症例データベースを把握するなど、その病院での乳癌診療全体を管理する、という役回りをになってほしい。
 
司会:それは現実的な対応ですし、すぐにでも普及しそうな方法ですね。
 
渡辺:そう、私もそう思って推進してきていますが、どうも外科医の中では、乳癌診療を専門とする、ということが、なんだか、恥ずかしい、というか、情けない、というか、そんな気持ちがあるようです。私の同級生の外科医のN君に先月会って、乳癌責任番の話をしたところ「だけどさぁ~、乳癌なんて、手術は簡単で単純だし、薬だってケモとホルモンを適当に組み合わせれば、それでどうにかなっちゃうからさぁ~、専門的にやる人間なんて、よっぽど物好きなやつなんじゃないの」と言っていました。実際、癌の手術の外科医のトレーニングの数年間を、学校教育に喩えるなら、食道癌とか、膵臓癌とかは、難しい手術で、大学院レベル、それが、乳癌は、外科手術の入門編である、アッペ・ヘモ・ヘルニアの次に来る、つまり、小学校三年生クラスという人もいます。こんな具合に、外科医からみると、乳癌診療を専門とする、ということが、今ひとつ、ふっきれないものがある人もいるようなんです。実際は、薬物療法をとってみても、乳癌ほど、知識と経験、そして、エビデンスを尊重する心が必要な領域は他にないと思います。乳癌診療の奥の深さ、難しさを理解してもらうことが大切ですね。
 
司会:最近、先生が「鳥無き里のコウモリ」とおっしゃっているのを聞きました。言い得て妙だと思いましたが、ちょっと解説して頂けませんか。
 
渡辺:え~、はい。こういうことを言うと、また、おしかりを受けるかも知れませんけどね。要するに乳癌診療の専門家がまったくいない地域というのが、日本中、あちこちに存在する、ということです。そのような地域に伺うと、とても信じられないような議論がかわされているのです。乳癌の肝転移を手術で取るとか、肝動注をするとか、俺の経験レベルのエビデンスをお互いに、褒め称えあっている。そして、乳癌の専門でも何でもない外科の教授が、乳癌の勉強会を取り仕切っていて、これまた、わけのわからないまとめ方をしているわけです。○○乳癌懇話会、とか、○○乳腺疾患研究会、とかいう、やつです。こういうのは明らかにおかしいと思う。このような勉強会に参加する若い医師の中には、真剣に勉強しよう、という向上心を持っている人も多少はいるでしょうけど、彼らは、本物の腫瘍内科医の乳癌診療に関するロジックを聞いたことがないから、偽物腫瘍専門医が言うイイカゲンなことを真に受けて、やれ動注だ、やれ、肝切除だ、やれ活性化リンパ球療法だ、と、意味のない医療が行われても、それを見抜けないわけです。そして、ああ、乳癌診療なんて、素人でもできるんだな、と勘違いしてしまうわけですよ。つまり、鳥がいない里では、空を飛ぶものは、鳥もコウモリも区別がつかず、コウモリが鳥になりすまして偉そうなふりをしている、ということ。本物不在の地域をなくすことが大切です。それには、各地域、私は、衆議院の選挙区ぐらいの大きさを一地域と考えればいいとおもいますが、その地域に、乳癌診療のオピニオンリーダーを養成することが急務だと思います。それは、外科医でも内科医でもいいのです。私の地域のリーダーはだれか、という目で、患者さんも考えてみてください。そして、リーダーがはっきりしないとか、偽物が仕切っている、地方の豪族が利権にたかっているような場合、思い切って、斬り~、残念、とやってください。
 
司会;今日は、お忙しいところ、ありがとうございました。
 
 
乳癌診療不毛地帯解消の為の処方箋
腫瘍内科医を育成する:質、数を育成するには時間がかかる

外科医の中で乳癌専門医を育成する

EBMの正しい理解と取り組みを普及させる

地域のオピニオンリーダーを育てる:鳥無き里のコウモリ状態の解消

 
 
 
 

ふつうの生活


乳がんの患者さんは、あれもだめ、これもだめ、と、全く根拠のない「禁止事項」を自らに課している方が多いように感じます。いったい、だれがそんなこと言ったのですか? と聞いても、どこかに書いてありました、とか、患者仲間から聞きました、とか、テレビで言っていました、とか、情報源が不明確です。
 
衣・食・住、すべてにおいて、ふつーの生活をふつーに送ることを望みます(天皇陛下の口調で)。以下にコンキョレス生活情報をお送りしましょう。
 
(1)抗がん剤治療をしている間は髪を染めたりパーマをかけたりしてはいけません、というのはうそです。
(2)乳がんの患者は治療中でも、治療が終わってからでも、髪を染めたり安いシャンプーをつかってはいけません、というのはうそです。
(3)がん患者は、紫外線に当たってはいけない、というのはうそです。
(4)乳がん患者は、乳製品を食べてはいけない、飲んではいけない、というのはうそです。
(5)乳がん患者は、大豆製品を食べてはいけない、というのはうそです。
(6)乳がん患者は、肉を食べてはいけない、というのはうそです。
(7)がん患者は、風邪をひいてはいけない、というのはうそです。
(8)がん患者は、疲れてはいけない、というのはうそです。
(9)がん患者は、太りすぎてはいけない、というのは本当です。
(10)がん患者は、温泉に入ってはいけない、というのはうそです。
(11)がんによく効く温泉がある、というのはうそです。
(12)アガリクスの本はうそがかいてある、というのは本当です。
 
とりあえず、こんなところで今日は失礼します。「○○は本当でしょうか」というお尋ねがあれば、コメントをお寄せ下さい。答えたいコメントには答えましょう。むかつくコメントには答えません。独り言だから、お許しくださいね(渡辺亨より)。
 
 

落ちた?講演力


斎藤孝著「話す力」を読みました。コメント力、三色ボールペン活用術、座右のゲーテ、上機嫌の作法など、斎藤氏の本は大方読んでおり「話す力」が店頭に並んだのですぐに購入しすぐに読んだのですが、意味の含有率とか、名講演を分析した解説など、とても参考になりました。
 
今回、「話す力」を読もうと思った理由はもう一つありました。それは、KYRTS薬科大学大学院の講義がとんでもない失敗作だったからです。講義を聴いてくれたオンコロプランの森くんも「今日は渡辺先生、いつもと違ってやりにくそうでしたよ。」と鋭い指摘。いっか~ん。そうなんです、とてもやりにくかったのです。
 
講演や講義にはいささか自信がありました(過去形)。乳がんの薬物療法、臨床試験の方法論、臨床医からみて意味のある統計学、EBM、民間療法、抗がん剤治療、抗がん剤治療をうけるための12ヶ条、情報提供力、などなどのテーマで、医師、看護師、薬剤師、製薬企業、一般市民、患者団体、学生、同窓会、保健所職員、病院職員などを対象とした講演活動は、情報提供として自分の本来業務と考え、かれこれ10年ぐらい前からでしょうか、とても積極的に取組んできていますし、自分自身楽しい活動だと思っています。いろいろな講演すべてを入れると、年間200回ぐらいはあるでしょうか。スライドの作り方も阿部薫先生直伝の諸原則を忠実にまもり、また、名郷直樹先生の講演ネタやスタイルを密かにパクッたりして、皆さんからスライドがとても見やすい、話もわかりやすい、と好評を得ていました(過去形)。
 
ところが、KYRTS薬科大学大学院の講義は全然違ったのです。この講義は半年ぐらい前に依頼され、それなりに準備はしたつもり。講義の前に、呼んで下さったKZ先生から、「演者紹介はしていませんが、いいでしょうか」、と言われたので、「新しい施設に移ったことも含めて自己紹介でやりますから」ということにしました。それで、超略歴と浜松オンコロジーセンターの紹介を2-3枚のスライドを使って、講義を始めたのでした。最初のスライドを映して、最初の1行の説明をして、会場を見渡してみたら、唖然、愕然!向かって左側3分の1、前から半分ぐらいの人が全員、机に突っ伏して寝ているではありませんか! この寝かたは三重の比ではありません(参照:2005年2月27日地方講演)。というより、完全にあっけにとられて、それで講義の調子が崩れて、その後もハラホロヒレハレで、KZ先生には申し訳ありませんが、盛り上げようとか、大切なことを伝えようとかいう気力は飛び散り、ひたすら、スライドを先に送りながら、終了時刻の7時40分になるのを待っていたのでした。
 
それでも、途中、何回かは形勢立て直しを図るために、寝ている連中に情熱が届くように、マイクに口を近づけてみましたが、なにせ、寝ているのはひとりやふたりではありません。その上、さらに衝撃をうけたのは、上から三列目ぐらいのところで、両肘をついて顔の高さに支えた本を読んでいる人を発見したときでした。それでもそれでも、聴衆に失礼のないように、アイコンタクトなどできるものならしてみようと、教室全体を見回してみました。すると、正面の前から2~3列めから、10列めあたりには、こちらを真剣なまなざしで見つめ、熱心にメモを取る人たちがいました。よくみると、その人たちの中には、ご年配の男性や、30代の女性など、社会人と思われる方々がいらっしゃいました。また、教室の右側には、20-30代ぐらいの男性が多く、病院の薬剤師とか、大学の研究生のような雰囲気の方が、こちらの話のポイント、ポイントにうなずきながら、メモをとっていました。
 
講義や講演を聞く立場にしか立ったことがない人は、演者席から、如何に部屋が暗かろうが、部屋の隅々まで、よ~く見える、ということをご存じないらしいです。また、いきなり突っ伏して寝ている姿がどんなに見苦しいか、よく考えてみてほしいと思います。
 
講義終了後、冷静になって思い出したのですが、始る前にKZ先生から大学院の講義だが、聴講生や社会人の方も多く参加している、と聞いていたのでした。教室がやけに横に広く、演者席は、右側にあるため、自分の左側にあるスライドを見て教室に向かうと、どうしても左側の居眠り軍団がほぼ真正面に視界にはいり、右側の真剣集団は、大きく首を右に振らないと視野に入らない、というセッティングだったわけです。もし、左側に社会人の方や、真剣集団が座っていれば、穏やかな心で、普段通りの講演できたでしょうが、今回は、突然、プレーボールのサイレンが鳴りやまないうちに打たれたホームランみたいな状況に当惑の色を隠せず、講演力の自信が一気に崩れ去ったのでした。まだまだ、鍛錬がたりないなー、と深く反省し、話す力を読んで、講演力のネタを仕入れなおしたわけです。
 
それにしても、大学院の学生、というのは、出席さえすれば、派手に寝ていても、堂々と本を読んでいても、無遠慮におしゃべりしていても、許されるでしょうか。外部から、わざわざ来てくれた演者に失礼だとか、自分たちは、大学院生だぞ、という誇りだとかは無いのでしょうか。まるでお子ちゃまですね、あれでは。彼らは、大学院ということは、おこちゃまでも一応おとなですから、「講義中は寝てはいけません」などということを教授や、教務課が注意するような話ではありません。
 
 
以前、某私立医大の学生の講義に行ったとき、学生の講義は始めてだったので、経験のある先輩に心得を聞いてみたことがありました。その先輩は、「医学部の学生の講義なんて、話を聞け、と言う方が無理だよ。みんな好き勝手に携帯電話やったり、新聞読んだり、おしゃべりしたり、まるで、駅の待合室で、ちょっと、聞いて下さい、というようなもんだから、崇高な教育なんてことは考えない方いいよ。」と言われたことがありました。その忠告は、確かに正しいかも知れません。しかし、はじめからこの講義は寝てやろう、と思って出席だけとりにくる聴取がいるような、今回の講義のような場合でも、最初のつかみをどうにか工夫し、講演力の回復に努めたい、と、秋の夕暮れにひとり思うエビデンス侍でした。それではご唱和ください、いっか~んいっか~ん、いっか~ん。どうもありがとうございました。
 
 

時代は変わっていく


第11回CRCセミナーがおわりました。CRCとは、Clinical(臨床)Research(研究)Coordinator(コーディネーター:調整、まとめ役)の略。臨床研究まとめ役って、いったいなんなのか、を理解するには、治験あるいは臨床試験についての若干の説明が必要になります。
 
新しい薬剤や治療方法が、効くのか効かないのか、安全なのか、危険な薬か、役に立つ薬か、薬とも呼べないような、へにもつかないものなのか、を評価するために、人間を対象とした、治療研究をしなくてはいけません。この治療研究のことを治験、または臨床試験と呼ぶのですが、もっと言うと、全くの新薬の試験を治験とよびます。製薬会社は、治験を病院に依頼して、やってもらわなければなりません。会社では、ネズミや犬を使った研究はできますが、人間を対象とした治療研究は、病院でしかできません。そして、病院で治療研究をきちんとやるためには、CRCがいないとできないのです。医師だけでできるものではありません。治療研究に協力してくれる患者さんに、新しい薬がどんな薬か、とか、どのような効果がありそうか、とか、副作用としてどんなものがでそうか、副作用が出たら、どうしたらいいのか、などなど、患者さんに懇切丁寧に説明しなくてはいけません。CRCが活躍が期待されるわけです。また、いつ、どのように薬剤を使用したのかとか、どのような効果がでたのか、副作用はどうか、などを、きちんと記録して、それを残しておかなければなりませんが、そのような記録の作成や保存もCRCが行います。このように、新しい治療方法を正しく評価して、効く薬剤は、なるべく早く世の中に出し、効かないもの、副作用が強くて危険なものは、世の中に出さないようにする、それが治験や臨床試験の目的で、治験や臨床試験をスムーズに行うには、CRCがいないとできないわけです。また、新しい薬剤を開発した製薬会社は、とにかくそれを早く売り出したいから、効く、というデータが欲しい。また、副作用も軽い方がありがたい。ですから、昔は、酒一升をもってきて、先生よろしく、ということで、効果あり、と判断するような医師もいた、という噂を聞いたことがあります。そのようなおかしな事がおきないように、臨床研究が正々堂々と行われるためには、医師一人だけでは、だめで、CRCが第三者として関わりをもつ必要があります。ちなみ看護師、薬剤師、臨床検査技師、医師などの資格をもった医療職が、特別なトレーニングをうけて、CRCになることができます。
 
というわけで、我々、CSPOR(→http://www.csp.or.jp)では、臨床試験を実施するという活動と並行して、CRCのためのトレーニングプログラムとしてセミナーを6年前から実施してきました。だんだん、参加者が増えてきて、今年は、婦人科グループとの共同運行にしたので、婦人科医も多数参加、CRCの数、質ともに飛躍的に向上してきています。CRCなしで臨床研究は実施できない、という時代になってきたし、CRCは完全に市民権を得たように思います。また、かつては、あちこちの集団、グループがCRC勉強会やセミナーをやっていましたが、だんだんと、どこも続かなくなって、内容的にきちんとして、多くの優秀なCRCを排出しているCSPORだけが、CRCセミナーとして存続しているわけです。そして優秀なCRCがいる病院は、臨床研究のみならず、研究以外の医療のレベルも飛躍的に向上しています。これからも、CRCセミナーのいっそうの充実をはかるつもりです。

先生のお考えが理解できません


最近、転移性乳がんの治療について理解に苦しむような対応を経験しました。一人目は脳転移に対してγナイフを依頼した患者さんについてです。骨転移があり、HER2もホルモン受容体も陰性なのでパクリタキセルの投与終了後アレディアの点滴を行い病状の悪化があれば次の抗がん剤としてナベルビンかゼローダをやるような段取りを取ってフォローしていた患者さん、ある日の外来で、3日前から頭痛がする、とくに朝方強い、時に吐き気がある、片足で立つと右側に傾くなど、小脳転移を疑わせるような症状がありました。早速MRIを撮ったところ右小脳半球に3cmぐらい、右前頭葉にに1-2cmの2個転移が見つかりました。すぐにγナイフを実施している病院に電話して診療を依頼、すぐに入院して翌日照射と、素早い対応をしてくれました。翌週、ご主人がお見えになりγナイフ病院から、次のようなことを言われたそうです。「造影剤を二倍量使って詳しくみたら全部で17個の転移があったのでそれらにすべてγナイフ治療をおこないました。もっとはやく見つけていれば治療成績もずっとよくなるのにここまで大きくなってからでは手遅れかもしれません。」 そのγナイフ病院は、治療実績は多数あるらしく「当院での経験では、転移が1-2個の場合の1年生存率は80%、3個から10個だと60%、10個以上だと20%です。腫瘍の大きさも1cm以下なら1年生存率は90%ですが、3cmとなると10%以下に落ちます。」私たち、腫瘍内科医は、脳転移が出た場合に、放射線照射は有力な治療手段であり、最近ではγナイフの登場で全脳照射に比べれば、治療後の脳の萎縮に伴う認知症の発症率は低下する、しかし、脳転移に対する照射目的は、あくまで症状緩和、延命であり、治癒はありえない、と理解しています。早く見つかれば予後がいい、というのは、単にリードタイムバイアスを見ているにすぎないと信じています。したがって、脳転移の検索を症状もないのにルーチンに行う意味はないし、症状が出てからの対応することで、十分、治療目標は達成できる、と考えています。また、17個の病巣を見つけ出し、それらすべてを治療しました、といっても、そのことのどのような意味があるのか、理解できません。
 
2人目の患者さんは骨転移です。骨シンチで、肋骨、胸椎、腰椎、骨盤に多発性のホットスポットがあり、骨転移と診断されました。ホルモン受容体陽性なので、アロマシンを開始することにして、骨盤、腰椎などの加重部位の骨レントゲン写真を撮ったところ、痛みのある腰椎に溶骨性変化が認められました。そこで、アレディアの点滴も加えることにしました。腰椎には、放射線照射をする必要があると判断し、放射線照射設備のある病院の放射線科に依頼しました。照射を依頼した目的は、加重部位の病状進行抑制と疼痛緩和です。Dr. Craig Hendersonによれば、骨転移に対する放射線照射は、In order to prevent further erosion of the bone, すなわち、骨のそれ以上の浸食を食い止めることです。また、国立がんセンター中央病院放射線治療部の加賀美先生は、放射線照射による症状緩和効果を、痛み止め代りに照射する意義をわかりやすく説明してくれます。いずれの大家も、骨転移に対する放射線照射で治癒をめざす、などという発想はなく、私もそのように理解しています。ところが、腰椎への照射をお願いした患者さんが、次の外来に来たとき、体中にマジックインキで照射エリアが記されており、患者さんに聞くと、転移のあるところ、全部で11カ所にきちんと放射線をあててくれるそうです、とのこと。つまり、肋骨とか、骨盤とか、骨シンチで陽性となった部分に、細かく照射野を設定しているのです。いったい何のための照射でしょうか。放射線照射で、治癒を目指すとでもいうのでしょうか。それとも、一昔前に、まことしやかに語られたように、総腫瘍量を減少させることで生存期間が延びる、とでもお考えなのでしょうか。私たちは、放射線治療医との協力無くしてはがん治療はできません。しかし、腫瘍生物学の理解も不十分、リードタイムバイアスすらわからない医師がこうまでたくさんいると、どのように対応していったらいいのか、暗澹たる気分です。相手が外科なら、四面楚歌ならぬ四面外科ですんだのですが、放射線治療科だと、しゃれにもなりませんね。
久しぶりに、いっか~~ん!!! どっか~~ん!!!
 
9月も絶好調、今月もがんばりましょう。

公務員でなければできないこと


(1)公務員でなければできないこと -その①-
 
郵政民営化法案、可決か否決かで紛糾していたころ、中沢霊園に年に一度の墓参りに行きました。緑豊かな静かな地域にあり、蝉時雨が心地よくやかましい、ハマダラカもたくさんいたりして、昔からあまり変わっていません。墓参りを終えて出口に向かって歩いていくと、木陰の風通しのいいところに、郵便局員が2人バイクを止めて、ジュースを飲みながら涼んでいました。おっと、勤務時間中だぜ、配達はどうしたんだ? だいたい公務員をこのような環境においておくとろくな事がないわけです。民間なら、一人一人にGPSを持たせて行動記録をモニターし、さぼっている職員はすぐにクビ、ぐらいのことになるでしょう。我々の税金を使って、木陰で涼んでいるなんて、公務員でなければできないことでしょう。
 
(2)公務員でなければできないこと -その②-
私が昔、公務員だったころ、乳癌の術前化学療法を積極的に導入すべく臨床試験を推進していました。しかし、同じ施設の外科系公務員FKTM先生にとっては、手術の前にややこしいことをやって、癌が全部消えてしまって、どこを切ればいいか、わかりにくくなって、評判を聞きつけた患者が押し寄せ、仕事が増えて、とてもじゃないけど、内科系公務員とはつきあってられないよ、とあちこちで愚痴をこぼしていました。抗がん剤治療がそろそろ終わる患者さんで、手術を依頼しようと外科系公務員FKTM先生の外来予約をしようとしても、いつも予約枠がいっぱいで3ヶ月先ぐらいまで予約が取れない状況でした。外科系公務員FKTM先生に、その事をいうと、必要以上な丁寧さで、予約がいっぱいですいません。空いているところがあれば、どこでもいれてください、というのですが、全く空きはありません。でも、どうも変なのです。となりのブースで外来をやっている外科系公務員FKTM先生は、午前11時過ぎには外来が終わってしまうし、とても混んでいるというふうではありません。FKTM先生はお昼ご飯をゆっくり食べ、午後の時間は、一番新しい乳癌の本、とか、乳癌カウンセリングとかの本の執筆に費やし、5時には早々にご帰宅という毎日。おっかし~な~と思い、FKTM先生の外来予約を調べてみたら、唖然、愕然、騒然!!
予約患者名の欄には、FKTM先生自身と父親、そして秘書のFJTさんの名前が繰り返し繰り返し登場するではありませんか!、なんと、身内をダミーにして、外来予約枠を埋めていたのでした。あまりのひどさに、我々、内科系公務員一同、怒り心頭に発す!!、それで、外来部長のSSK先生を通じて院長にお伝えしたところ「彼は、またやっているのか」との反応、何!院長も了解していた?? これにはあきれました。私は、公務員をやめて官から民へ、さらに民から民民への転換を図ったわけですが、こういう場合、民間なら医事部門とかが当日の患者数をきちんと把握していて担当患者数の少ない医師は、すぐに院長に呼ばれて注意、ぐらいの事になるでしょう。我々の税金を使って、らくちん勤務をしながら本を執筆して、その印税でもうけているなんて、公務員でなければできないことでしょう。
 
いっか~ん!!
 

医師は医師らしく・・


ある団体に、医師主導治験について話をしてほしい、と言われました。私は医師主導治験は意味がないと思っているし、あまり重要なことでもないし、私よりは適任の人間が他にいるから、と断ったのですが、是非、辛口批評をしてくれ、と言われました。私の得意技はエビ固めで、辛口批評は柏のマンネリドライフリートーカーの得意技なのでこれまた難色を示したのですが、EBMの視点から話してくれと、多少プライドをくすぐられたりしたものですから渋渋渋・・引き受け話をしてきました。私の視点は、「個々の薬剤の性能評価は製薬企業の仕事、医学研究者の仕事は個々の薬剤を武器とした全体の治療戦略を検討することであり、新しい治療コンセプトの検証にある」と言うことで昔から一貫しています。すると、医師が、製薬企業の肩代わりをして新薬の治験をやる、などと言うことはちゃんちゃらおけさになります。また、有岡君が計画しているような市販薬似たもの同士のちまちました比較も、市販後臨床試験として企業がやるのならともかく、国民の税金を使って医師が行うような代物ではないように思います。医師は医師らしく、製薬企業は製薬企業らしく、総長は総長らしく、Be as what you shoud be と感じます。

「臨床試験の基礎は中学教育にあり」の巻


臨床試験が思うように進まないことがしばしば指摘されます。日本人には臨床試験は向かない、という、まるでとんちんかんな論調を展開していた大御所もかつてはいました。しかし、さすがにいま、そんなことをいう人はいません。医師の資質の問題、医師の数の問題、医師の仕事量の問題、CRCがいないという問題、データセンターがないという問題、研究費がないという問題、同意がとれないという問題、薬剤が使えないという問題、など、臨床試験が進まない理由としていろいろな問題があげられ、それなりに解決策は講じられています。たとえば、データセンターもここ5年ー10年ぐらいでいくつか立派なのができました。CRCも増えてきました。しかし、いっこうに手つかずの問題もあります。医師の中には、臨床試験の方法論や、臨床試験で得られるエビデンスの意義について、こいつは低脳かと思えるぐらいわかっていない医師が多く、また、医療はすべて完成されたものであると信じ、自分だけは最良、最高、最善の治療をうけたいと主張するわからずやの患者も多いです。「いくつかの最良、最高、最善である可能性のある治療のなかから、どれが、それなのかを、明らかにするために臨床試験に参加して欲しい」旨の説明に対し、「ここの病院は一流であると思ってきたのに、最良、最高、最善である治療がわからない、などというふざけた話があるのか!」と、怒りをあらわに立ち去っていく患者サマもいます。臨床試験参加を拒否するのは、患者サマの権利ですから、それを侵害してはいけません。しかし、いろいろな状況で思いをめぐらしてみると、低脳かと思えるぐらいわかっていない医師や、わからずやの患者らの主張が形成された背景には、初等教育におけるサイエンス教育に問題があるのではないかと思います。
 
人類の技(art)は、完成されたものではなく、つねに、進歩しているものである、という意味で、state of the artという言葉が使われ、よく言う「標準治療」の英訳としては、standard treatmentというようりは、state of the art treatmentと言う方がふさわしい気がします。初等教育でも、このような科学の意味や、科学的研究の方法、そして人類が解明しえたものは、自然現象のほんの一部にすぎないこと、薬の効果とかを含めた医療についても、まだまだ未完成であり、神のみぞ知る真実を解明するためには、科学的な探求方法があることを教えなければいけないと思います。中学校教師の質の低下、熱意の低下がしばしば問題視されていますが、サイエンスの意味を正しく教育できる中学校教師は、腫瘍内科医の数よりもっと少ないであろうと思います。いっか~ん!(ひかえめに)
 
今日、外来に来た中学校教師、治療を計画的に進めなければいけない状況なのに、土曜日は、クラブの遠征などがあり来れない時も多い、平日は会議などがあって抜けられない、それ以外も突然生徒指導などがある、学校は休むことができない ・・・・・・、まるで計画がたたないのが中学校教師の特徴であるかのような主張。都合の良い時間に来てもらえるように最善の努力は払いたいと思いますが、いつこれるかわからない、予約をしても突然キャンセルすることもある、と、こんな状況では、計画的な治療はできません。また、こんな無計画な人間に、人を教える資格などがあるのか、とほほのほ。熱血教師像はもてはやされていますが、計画的に物事をすすめ、場合によっては自分の都合を優先することのできるprospectiveな中学校教師が求められている時代であると思います。