がん診療の患者さん向けガイドラインを作成することにしたいと思い、いろいろと考えています。まず、がんの診断ということを考えてみました。
がんの種類に関係なく、まず、いろいろな症状がでたり、定期的に検診をうけてその結果でだったり、たまたま受けた検査での異常があったり、など、ひょっとしたら、がんかも知れない、という段階があります。これを、①疑い診断、と言います。次に、医療機関に行き、がんなのか、がんではないのか、を調べます。がんかがんではないか、を確定するには、がんかもしれない部分(通常しこり、といったり、影といったりしますが、とにかく、がんが疑われる病変部位です)から、組織、あるいは細胞を取ってきて、がんがあるかどうかを病理的に調べます。組織あるいは細胞を取るのには、針を刺してとってきたり、皮膚を小さく切開して、組織の一部を切り取ってきたりします。また、肺癌では、痰の中に癌細胞が出てくる場合もあるし、膀胱癌では尿中に癌細胞が出てくる場合もあるし、子宮頚癌では、膣分泌物中に癌細胞が出てくる場合もあります。とにかく、がんの決め手は、癌細胞の有無を顕微鏡でみることです。これを、②確定診断、と言います。がんとわかったら、今度は、どんな性格を持ったがんなのか、ということを調べます。性格、といっても怒りっぽいとか、ひねくれているとかいう、人間の性格ではありません。がんの性格です。たとえば、分化度、悪性度、異型度、などという表現は、癌細胞あるいは癌組織が、正常の組織とどの程度、異なった見かけをしているか、ということで判断します。正常の組織と非常によく似た見かけのがんは、分化度の高い、悪性度の低い、異型度の低い、おとなしい、性格のよいがん、と表現されることがあります。また、乳癌では、ホルモン受容体が陽性か陰性か、HER2過剰発現があるかないか、消化管間質腫瘍ならば、KIT陽性か陰性か、悪性リンパ腫ならば、CD20陽性か陰性か、などの特徴から、どのような薬が効きそうか、ということを推測することができます。このような診断を、 ③性格診断、と言います。確定診断がついて、性格がわかったら、最後に、がんが、どの程度拡がっているか、を検査しなくてはいけません。他の臓器に転移があれば、原発病巣を手術する意味はありません。原発病巣が小さくて、周囲のリンパ節に転移がなければ、狭い範囲の手術だけで完治させることができます。原発病巣が大きいとか、周辺のリンパ節に転移がある、というような場合には、まず、抗癌剤治療を行なって小さくしておいてから、手術で取る、というような方法もあります。拡がり診断を行なう際には、どの臓器に転移がありそうか、と言うことによって、用いる検査方法が異なります。肺転移を知るには胸部CTが適しています。脳転移は脳MRI、肝転移は、肝臓のMRIが適しています。骨転移のありなしを知るには骨シンチが適しています。 ④ 拡がり診断 検査の結果、原発病巣はどれぐらいの大きさで周辺への拡がり具合はどうか、と言うことについては、腫瘍を表す英語のTumorのTをとって、T0~T4の5段階で表します。つぎに、周辺のリンパ節、これを専門的には所属リンパ節あるいは領域リンパ節に転移があるか、あるとすればどの程度か、ということについて、リンパ節をあらわす英語のNodeのNをとって、N0~N3の4段階で表します。そして、遠隔臓器に転移があるかどうか、ということについては、転移を表す英語のMetastasisのMをとって、M0またはM1で表します。TとNとMの組み合わせで表現する拡がり診断の結果をTNM分類と呼びます。TNM分類では病気の拡がりを、0期からIV期までの5期で表します。通常、0~II期までを早期がん、III期を局所進行がん、IV期を遠隔進行がんと区別し、各期毎に選択する治療方法、使用する順序が異なります。
がんの診断には、①疑い診断、②確定診断、③性格診断、④拡がり診断の4つがあります、という今回の話、参考になりましたか? 表現など、わかりやすいでしょうか? このようなことをガイドラインに書いてもいいでしょうか? ご意見を下さい。
連載にすると、続けないことが批判され、それがプレッシャーになるので、今回は、これでおしまいです。おやすみなさい。
はじめまして。
この1か月に、①から④まで経験しました。
そうそうってかんじで、振り返りました。
④に関しては拡がりはききましたが、転移検査の結果は14日にききに行きます。
その時、NとMが登場するのですね。
ちょっと心の余裕ができました。手ぐすねひいておきます(笑)
これからどんどん遡りますので、よろしくっ!
愉快に読ませていただきます。
そして(怒!)の気持ちはプラスに変換して、適切な医療がみんなに届くといいですね。
ますますのご活躍を!!