Plenary Session


ASCO二日目、日曜日の昼からは「Plenary session」がある。日本語に訳すと「全体会議」。毎年もっとも注目すべき4演題が発表されるので会場はほぼ満席で、早めに行って席を取ろうというムードになる。HZM先生は「他の科の話だから」と及び腰で途中で出て行ったが「オンコロジー(腫瘍学)」の学会であり腫瘍に関する話なので他の科という認識はちょっと理解できない。と書いたらHZM先生から、途中でトイレにいっただけだよ、大腸癌も卵巣癌も乳癌も全部聞いてましたよ、と、おしかりをいただきました。イメージでものを言ってはいけないということで深く反省ばかりなり。さて、演題は4つ、ひとつづつ、じっくりとみていこう。
(1)卵巣がん
最初の演題は、卵巣がん初期治療後のフォローアップで、血清CA125の上昇を早く見つけて早く治療をする方が良いか、それとも症状や画像診断で再発が確認されたら、その時点から治療を開始する方がよいか、を比較した試験。血清CA125は3ヵ月ごとに測定し、これを医師患者に通知して治療を開始の参考にする群(早期治療群)と、結果は医師にも患者にも知らせない群(遅延治療群)にランダム化割り付けした。「えっ、結果を教えてくれないの、そんなのひどい~」「患者の検査の結果を教えないのは非倫理的だ。それで治療が遅れたらどうするんだ!」という反論が聞こえてきそうだが、ちょっと待ってください。「CA125を測定することがいいことだ」とわかっていれば、そのような反論ももっともだけど、いいか悪いのか、わかっていないから試験をするわけで、そのあたり、わかっていることとわかっていないことをきっちりと切り分けることが重要なのである。1442名が登録され、そのうち529名の患者が再発したのでランダム化割り付けの対象となった。早期治療群は265名で254名が再発後の治療を開始(中央値0.8か月後)、一方遅延治療群で265名のうち233名が治療を開始した(中央値5.6か月後)。57カか月間の観察の結果、オーバーオールサバイバルは全く差がなかった(図)。しかもQOLを比べると、早期診断群は、それだけ心配が増えたり、治療に副作用を早くから経験するため、遅延治療群にくらべて悪いという結果だった。これはちょっと驚きであるが、卵巣がんだけにいえることではないだろう。再発を早く見つけよう、ということはあまり考えなくてもよく、症状がでたりすれば、その時点で治療を始めても結果は同じですから、あせらずに行きましょう、というメッセージとして受け止めればよいだろうと思います。演者のゴードン・ラスチン先生は、この結果が出てから、自分の担当患者に、CA125をはかるかどうか、相談すると、多くの患者は測らなくてもいいですと言うそうだ。ただ、測って決めるか、測らないかは、相談のうえで、患者本人に選択してもらう余地は残しておくべきだと言っている。
 
 
  
(2)悪性リンパ腫
次の演題は、濾胞性リンパ腫に対する「ワクチン療法」の演題。濾胞性リンパ腫は、低悪性度に分類されるリンパ腫で、欧米ではリンパ腫の25%ぐらいを占めるが、日本人ではやや少なく15%ぐらい。でも増加しているようでリンパ腫の領域でも「欧米か!?」が進んでいる。低悪性度というだけあって、リンパ節が腫れるだけで他に症状がなく長期間にわたってゆっくりと進行することも多く最近ではリツキシマブ単独治療という選択もある。今回のワクチン療法は、患者のリンパ腫細胞を取って培養し細胞表面に存在するイディオタイプ抗体をKLHという担体に結合させて抗原性を高め、これをGM-CSFと一緒に元の患者に注射して免疫反応を刺激しよう、というもくろみである。このての話は10年以上も前からあり、できるといいですね、という感じで、でもやっぱりだめなんじゃない、という話になってきて、いつの間にか、がんワクチンとか、民間療法のわけのわからないものに話だけが応用されて胡散臭くなっていたように思う。それでこの発表は濾胞性リンパ腫の患者で、10年前にはよく使用された化学療法レジメンPACE後、CRとなった患者を対象に2:1の割り付けでランダム化比較した。177人が対象(ワクチン群118名、対照群59名)となったが割り付け後、再発したりして、結局、ワクチン群76名、対照群41名が計画した試験治療、あるいは対照治療をうけた。その結果、試験治療または対照治療をうけた患者では、再発までの期間は確かに延長されたが、結局、生存期間は同じ。この結果から、ワクチン療法の臨床的意義は、まだまだ、確立できていない、という結論。上述のように最近では、リツキシマブ単独でも長期間の生存も報告されているので、やっぱりワクチン療法は定着しないだろう、というのが専門家の意見のようだ。
 
(3)乳がん
乳がん薬物療法の最近の話題は、ER陰性、PgR陰性、HER2陰性のトリプルネガティブ乳がんの治療薬はないかという問題である。トリプルネガティブ乳がんの割合は10-15%と全体の占める割合は低いがホルモンは効かない、抗HER2療法は効かない、ケモしかないか、という嘆息と同時に、何かないだろうか、何かないだろうか、という期待もある。BRCA1遺伝子変異をともなう乳がんはトリプルネガティブ乳がんであることがおおく、BRCA1遺伝子自体が、DNAの修復に関与する酵素の設計図になっていることから、DNAダメージ、DNA修復に関与するような抗がん剤、酵素、遺伝子などが探究されている。たとえば、プラチナ製剤やアルキル化剤などは細胞周期非特異的にDNAを障害するので、このあたりのケモがいいかもしれないとかいう話もあるがはっきりしない。今回のJoyce O’shawnessyの発表は、PERP1(パープわん)阻害剤という聞きなれない作用をもつ薬剤の話で、これが、結構いけそうである。サノフィアベンティスは、この薬剤を開発したベンチャー企業「 BiPar Sciences(http://www. BiParSciences.com)」を5000億円で買収したそうだ。5000億円といってもぴんとこないが、将来性を期待しての企業買収は吉とでるか凶とでるか。
PERP1というタンパクは、細胞核内にあって、DNA が障害されると、障害されたDNAをいち早く見つけて自動的に修復する、というすぐれた酵素なのだ。DNAは、細胞の大切な設計図なのでこれがダメージを受けると細胞は生きていけない。DNAのダメージは、抗がん剤、放射線照射、ウイルス、などの外敵の影響や、細胞分裂の途中などでも、比較的頻繁におきているらしい。これを速やかに見つけ、さささ、と修繕してしまうのがPERP1である。同様のDNA修復機能は、BRCA1にもある。正常の細胞では、常に、BRCA1くんとPERP1くんが協力してDNAのダメージを修繕しているのだ。BRCA1遺伝子に変異がある細胞では、PERP1くんが一人で頑張っている。PERP一家は、PERP17 までいるらしいが、DNAダメージを修復するのは、長男のPERP一郎と二男のPERP二郎ぐらいであとは他の仕事をするらしい。二郎も見習いでレジデントぐらいの働きしかしない。それで、ついつい負担が長男にかかって、長男が過剰労働となっている。超過勤務の連続、つまり、PARP1の発現が高まってくる(upregulate)。この状況で稼ぎ頭の長男、PERP一郎が倒れてしまえばDNAが修復されなくなり、細胞は死滅し一家は離散することになる。そこをねらったのが、PERP1阻害剤「BSI-201」だ。Joyce O’shawnessyの発表は、PERP1阻害剤「BSI201」の注射を、カルボプラチン(AUC2)+ジェムザール(1000mg/m2)に加えた場合と加えない場合を比較して、クリニカルベネフィット割合(CRとPRとSDの割合)、副作用をおもなエンドポイントに設定して検討した。生存期間、効果持続期間は、副次的なエンドポイントに設定している。これは生存期間や効果持続期間を検討できるほど、まだ、情報が充分な段階ではないし、症例数算定をクリニカルベネフィット割合でどれぐらいの差が見込まれるか、ということに主眼を置いているので第II相試験である。試験計画は、やや控え目であるが、得られた結果は、かなりいい線いった、という感じだ。対象は、トリプルネガティブの転移性乳癌で、先行化学療法は、2レジメン以下。120症例をランダム化割り付けして、CG(カルボジェム)対CG+BSIー201、オープンラベル試験なので、この患者は、BSI201の点滴あり、BSI201の効果をよくしてやろう、そうすればサノフアベンティスの株があがるだろう、と思って株を買って、BSI201治療群の効果をノギスの加減で、「実に良く効いていますねえ、素晴らしい薬ですね」とSDVの時にやるような医師がいてもおかしくない。このような株価バイアスを防ぐには、プラセボを使って二重盲検にしなくてはならないが、それは第3相以降では必須となる。しかし、最近は、盲検、ブラインド、ということばが、差別用語になる、ということで、「マスクする」という言葉をつかう。これは、ミルマスカラスのFJTさんとは関係のない話だが、ブラインドがだめたら、窓のタチカワブラインドはどうなるのか。話がずいぶんとそれたが、とにかく、試験計画は控えめである。123名が登録され、ケモ単独群に62名、BSI201あり群に61名が割りつけられた。奏効割合は、16%対48%、臨床的恩恵割合は21%対62%、といずれもBSI201 あり群で、激しく優れていた。(株価上昇50円高!!!、というとらえ方をする人は実際かなりたくさんいる。資本主義だから仕方ないといえば仕方ないが、ASCO会場を行き来する人の8割はこの手の人、という見積もりもある。) 副作用は、血液関係、その他関係でも全く差がない、ということだか、これもマスクしていないので、信頼性は少し乏しいが、まずまず、むかむかや下痢もなく、白血球減少などもケモの影響で説明ができ、問題となる副作用はほとんどない、ということでこの段階では主たるエンドポイントの検討終了なのでまとめ、結論に行かなくてはいけない。しかし、人間の情けとして、ここまでいい結果がでると、効果持続期間、生存期間はどうなんだろう、と知りたくなるし、また、企業の本性としても、第2相試験であることをいつしか忘れ、立て続けにDFSとOSのグラフがでた。
 
 
DFSでは、ハザード比が0.342、ピーバリューイズゼロポイントゼロゼロゼロワンということで、この差が偶然の結果として観察される確率は1万回に1回、というわけで、そうすると帰無仮説「DFSに差はない」を棄却するつまり「差がある」という対立仮説に軍配を上げても1万回のうち9千9百9十9回は大丈夫だよ、ということになる。だから、この観察結果が、将来ひっくり返るというようなことはないだろう。
 
 
OSでも、ハザード比が0.348、ピーバリューイズレスダンゼロポイントゼロゼロゼロファイブ、こちらもこの差が偶然の結果として観察される確率は1万回に5回未満、というわけで、OSにも必然的な差がある、ということになる。
 
それで、結論は、言うまでもなく期待できる薬剤ということである。2009年6月の終わりから第3相試験が始まるそうだ。それでそれで、日本はどうなるんだ? サノフィアベンティスが治験やるのかな。でも、カルボプラチンもジェムザールも日本で承認されていないので、やっぱり、今回もこの臨床試験には参加できない。おそらく、この試験が開始されれば、期待の大きさからみて一気に症例登録が進むだろう。3年後ぐらいのASCOで、その結果が発表されるとき、一番最初に世界地図がでる。参加国一覧だ。その地図の日本は白いまま。台湾、香港、シンガポール、韓国、中国など、アジア周辺諸国は赤く塗られている。つまり、試験に参加してエビデンス構築に貢献したということ。ひょっとしたら北朝鮮も赤くなっているかもしれない。別の意味で今でも赤いけど。日本の患者さんは本当にかわいそうだ、行政が余分なレギュレーションを行っているので、ますます周回遅れになる。いまでは1周ぐらいの遅れだったが、ジェムザールも未承認、カルボプラチンも未承認、そして、BSI201 などのパープ兄弟(注:プロレスファンのお友達にはシャープ兄弟の方が馴染みが深いかな)も開発めどが立っていないことから、3-4周遅れで日が暮れてスタンドには誰もいない。厚生労働省分割案が出されているが、抗がん剤審査承認部門は仕事が遅すぎるので、いっそのこと廃止して、すべてFDAの決定に従います、としてくれた方がわれわれ国民にとってはよっぽどありがたいのだ。
 
(4)大腸がん
その次の演題は、NSABPC08,大腸癌術後にFOLFOX6にアバスチンを加えても、いいことは一つもなかった、という話。細かな検討は興味深いが、やはり今の時点では、アバスチンを術後に積極的に使う、ということにはならないようだ。乳がんでもアバスチンは、あまり旗色がよくない。結局、高いお金を払って長期間使用しても、はたしてどの程度の効果なの?????ということだ。ここから、企業の商魂と、エビデンスとのつばぜり合いが始まる。この話はこれでおしまい。
 
 
 
 
 
 
 
 
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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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