がんの患者さんに温泉のことをよく質問されます。これには、種類の質問が含まれます。パートワンが「秋田の玉川温泉はがんに効くと言われていますが行ってもいいですか。」です。この答えは決まっています。「がんに効く温泉などあるはずがありません。あんなところに行ってもがんがよくなりませんからやめたほうがいいです。」と答えます。「でも、親戚のおばさんの友達のお母さんが玉川温泉にいったら肺癌手術後にどんどん元気になったということですが。」というような反論をされることがあります。「玉川温泉に行かなくったっても元気になる時期ですから、温泉の効果ではありません(断定!!)」。この話題はずっと昔から根強くあります。私の最初の経験は、もう20年近く前の事です。国立がんセンターの外来で、しばらく来なかった患者さんが受診し「背中が痛い」というので診ると、背中が真っ赤にただれてやけどのような状態になっていました。聞くと、玉川温泉に行って来たというのです。胸椎、腰椎など骨転移があり、タモキシフェン内服中でしたが、半年前ぐらいから、あれやこれやの不健康治療にはまり、ひと月前ぐらい前に、玉川温泉に行ったということでした。玉川温泉では、悪いところが当たるようにして岩板に寝て、強酸の温泉水が流れるようにするとよいといわれ、そうしたところ、皮膚がただれたそうです。温泉の同宿者の話では、そうならないと効かないということでしばらく我慢していたそうですが、状態は悪くなるばかり、治療をしないことの不安もあり、改心して国立がんセンターの外来を受診したのでした。ずっと治まっていた骨転移による痛みもぶり返していましたので、タモキシフェン再開を勧め、いかがわしい民間療法にははまらないようにと諭しました。当日採血結果では、腫瘍マーカーが増加していました。同じような患者さんは、何人かいましたし、温泉水を自宅に持ち帰り、悪い所に塗っているという患者も硫黄のにおいをぷんぷんさせて外来に来たこともありました。当時、秋田大学が温泉の効用を研究中だ、とのことでしたが、当然、ランダマイズドトライアルなどなく、ろくなデータも公表された形跡もありません。怪我をした鶴が温泉に入ったら治って元気に飛んで行ったのを旅の僧侶が見たというような、古来よりの伝承がまことしやかに言い伝えられているにすぎないもので、結局、玉川温泉など、がんに効くと言っているのは、まるで根拠のない話で大もうけをしている人がいる、それに騙されている人がもっとたくさんいる、という話なのです。