サンアントニオは真冬の寒さ、今年のホテルは会場から少し歩く距離で、今朝は凍える思いで会場に向かった。なので、増田慎三先生が会場のパソコンで、先生できますよ、と教えてくれたので、来年は、学会会場となりのホテルをすでに予約した。さて、今年は、景気後退のせいか、製薬企業の自主規制のためか、展示ブースがとても地味で、まるで大学の学園祭のような感じ。よく考えてみると、今までが過剰、華美で、やっと正常に是正されたということだろう。
今日の午前中は、Eric Winerのホルモン療法のレビューから始まった。TAM,AIなど、それなりの効果はあるが、閉経前のLHRHアゴニストの意義が今一つ確立しないことや、晩期再発の問題など、解決すべき問題は多い。現状の問題について、Ericは、乳がん細胞の多様性、晩期再発の問題、耐性の複雑なメカニズムについて、そこそこにまとまったレビューを展開したが、いま一つ、ありきたりでインパクトが弱い。
午前中のgeneral sessionには、8つの演題が含まれているが玉石混交の感がある。
① 最初の演題は、SWOGの共同研究S0226で、閉経後ホルモン感受性乳癌症例で、転移後の初回ホルモン療法として、707症例を対象にアナストロゾール単独5年(352症例)対 アナストロゾール+フルベストラン(250mg/4w)5年(355症例)との併用個年の比較。アナストロゾール群で増悪後フルベストラントへのクロスオーバーしたのは345症例のうち143症例(41%)であった。結果は、PFS(HR=0.80, 95%CI 0.68-0.94, Logrank p=0.007),でも、OS(HR=0.81,95%CI 0.65-1.00, Logrank p=0.049),でも全症例を対象とした検討で併用の方がよい、という結果だった。さらに、術後タモキシフェンを使用ありとなしのサブセットで分けてみると、タモキシフェンなし(414症例)、していない場合にはOSでもHRは0.74、生存期間中央値がアナストロゾール単独で39.7ヵ月のところ、併用で47.7か月と10か月もの延命効果が認められたというもの、つまり、術後のタモキシフェン使用の有無が効果予測因子となっている、という推論であるが、何らかのバイアスがからんでいる可能性もあるので、とりあえず、そこは慎重に見ておく方がよいだろう。毒性としては、併用群で2例が肺塞栓で、1例が脳出血で死亡したが、そのほかは特段、併用に強いものがでたというわけでもなかったようだ。
レビューしたJim Ingleは、practice changing とはいかない、とくにサブセットアナリシスには注意が必要と釘をさしたが、全症例でも有意差がでていので、今後、アナストロゾールとフェスロデックスの併用を求める意見も強くなるだろう。適応外使用や自社に好ましくないデータは発生源で抑え込もうとするAZですが、このような場合、加藤さん、エビデンスには逆らえないね、どうする、これからますますAZしないといけないですね。
② ABCSG12の追跡期間中央値84か月の時点最新解析では、ゾメタの追加効果が相変わらずはっきりと出ている。OSでも、ゾメタ併用(6か月に一度、6回、つまり三年間)により、HRは0.63、p=0.049だそうです。とくに、40才以上では、HR0.57とより差がでているという結果です。
③ ZO-FAST試験は、閉経後1065症例を対象に、手術後のレトロゾールに加えてすぐにゾメタ4mgを6か月ごとに投与するか、それとも、レトロゾールだけで、もし、骨密度の低下(Tスコア2以下)とか、骨折とかが起きた場合に、ゾメタを使用する群とのランダム化比較で、主たるエンドポイントは、骨密度、二次的エンドポイントとして、再発を検討したものであります。約1000例の比較で、DFSでは、HR=0.66, logrank p=0.0375と有意差がありました。OSでは、HR=0.69,logrank p=0.196 と有意差には至っておりません。この試験でも、最近閉経した患者よりも、しっかりと閉経している患者でしっかりとした差がでていますので、やはり、エストロゲンがうすい女性では、ゾメタの効果が出やすいということでしょうか。
レビューしたJim Ingleも「New Standard of care」と断定しました。しかし、10月13日号のNEJMの掲載されたAZURE試験では差が出ていなくて、結論でもまだ、一般的に使用する時期ではないと言っていますが、閉経後5年以上たっている女性では、ゾメタの追加により、生存期間の延長も認められていることから、エストロゲン濃度がそれほど強くない閉経後女性とか、ゾラデックスで卵巣がしっかり押さえられてエストロゲンが少なくなっている40才以上の女性の場合、破骨細胞に対するエストロゲン刺激作用がうすく、そこに持ってきて、ゾメタで破骨細胞機能が抑えられると、骨からの増殖因子ががん細胞へ供給されなくなる、という仮説もあるかもしれません。そのあたりについては玉岡さんから考察があると思います。
前々から気にとめていることですが、NEJMに報告されたABCSG12 試験では、アナストロゾール群での死亡27、タモキシフェン群での死亡が15例と約2倍の差がありました。その後、この差は、OBESITYによる影響、つまり「大女、総身にAIまわりかね」という川柳で象徴される現象で説明できる、という発表もあASCOだかでありました。今回、その件について質問してみましたところ、やはり、死亡はアナストロゾールで多いようなのですが、あまり歯切れのよい答えはありませんでした。そのあたり、やはり、適応外使用や自社に好ましくないデータは発生源で抑え込もうとするAZが影で圧力をかけているのでしょうか、と意地悪してくる企業にはつい、ひねくれてものを見てしまうのは、私だけでしょうか。しかし、この問題、STAGEトライアルとの絡みもあるので、AZとしてもきちんと対応してもらいたいと思います。
明後日の金曜日のgeneral session 5で、世界のドラッグハンター ホセ・バセルガによって発表されることになっている、HER2陽性転移性乳がんに対して、トラスツズマブ 対 パーツズマブの比較試験の結果が、今日のNew England of Medicineに載っている。パーツズマブ(Pertuzumab}は、オムニターグ(Omnitarg)という商品名になる予定の抗HER2モノクローナル抗体第二号、ハーセプチンと同じジェネンテック社によって開発された。つまり、日本では、話題の中外の手による優雅な開発がすすめられている薬剤で、今回の試験も、日本からの登録症例が多数が含まれているので、海外のデータというわけではなく、世界同時承認にならなければ、国際共同治験を進めてきた意味がないということになるので、山口さん、そこのところ、一つよろしく頼みます。出発前に、薬剤添付文書の「国際誕生日」と「日本誕生日」についてしつこく山口さんに聞いたのは、この関係のことです。添付文書に書いてあるこの二つの年月日の差が、マスコミにも登場するようになった「ドラッグラグ」である。しかし、ハーセプチンの記載が不明確であるので、今のうちに整理しておいて、パーツズマブが出たら同じフォーマットで比べられるようにしなくてはいけません。また、パーツズマブに関しては、「国際誕生日」イコール「日本誕生日」となるように申請・承認手続きを進めなければ、あのこうるさい患者団体が黙っていないでしょう。重ねて、山口さん、よろしくお願いします。この比較試験については、岩田先生の「このご時世にいつまでやるの?朝までサンアントニオ生テレビ」で詳しく紹介することになるので、皆さん、ぜひ、全国の中外支店から参加して、「国際誕生日イコール日本誕生日になるって聞きましたが本当でしょうか?」という質問をたくさんお寄せください。
同じ号のNEJMに、同じく、世界のドラッグハンター、ホセ・バセルガによるBolero2試験の結果も載っています。これは、ホルモン感受性のある転移性乳癌で、アナストロゾール、レトロゾールといった非ステロイド型のアロマターゼ阻害剤に耐性となった場合、エキセメスタン単独 対 エキセメスタン+エヴェロライムスの第三相試験で、先のESMOで第一報は報告済み。商品名、アフィニトールとして、すでに日本でも腎癌治療薬として使用されています。ですから、乳癌に対しては適応拡大ということになります。この試験にも日本からの症例が多数登録されているので、国際適応拡大年イコール日本適応拡大年となるように、ノバルティスのFJTさん、ちょっとご無沙汰していますが、よろしくお願いしますね、