BEATRICE Study: A Study of Avastin (Bevacizumab) Adjuvant Therapy in Triple Negative Breast Cancer の中間解析の結果が発表され、虫たちは厳しい冬を迎えることになりました。試験はしっかりしたグローバルトライアルで日本からも超一流の名だたる先生方が参加されており、試験のデザイン、コンダクト、アナリシスの基本三要素は完璧であります。術後のケモは、アンソラ+タキサン、アンソラ、タキサンなど、施設毎に決めておけばよく、それにアバスチンをケモとの併用から初めて1年間、1週間あたり5mg/体重あたり、に等しい投与量を加えない群、加える群のランダム化比較試験。しかし、結果は、「無病生存、全生存とも統計学的に有意差なし」でありました。口演では結果は次のように発表されました。 IDFS HR = 0.87 (95% 信頼区間: 0.72‒1.07; p=0.1810)
IDFSは、この試験の主たるエンドポイントです。Invasive Disease Free Survivalの略ですが、日本語に訳せば、無浸潤疾患生存、次のいずれかが発生した場合に、イベント(事象)あり、となります。[1] 同側乳房の浸潤がん、[2] 同側腋窩、領域リンパ節、胸壁、皮膚の再発、[3] 遠隔臓器転移、[4] 原因を問わない死亡(ドラム缶のコンクリート詰めされた場合も事象として数えます)、[5] 反対側の浸潤性乳がん、[6] 他臓器の原発性浸潤癌。
HRはハザード比、わかりやすく言えば、上記のイベントが起きるスピードの比です。カプランマイヤー曲線の傾きの比ととらえてもいいです。0.87ということは、100㎞/時で定速走行のできる車を基準車として、新型車が1÷0.87=115㎞/時で走る性能という感じです。「115㎞の方が速いじゃん、新型車の方がいいじゃん」というのが山蛾流、で、そうではありません。第二東名を走るときにスピードは一定ではないように、新型車の定速走行性能は、115㎞/時(1÷0.87)から93㎞/時(1÷1.07)の可能性があると考えれば、どうでしょう。100kmで走れる車と、どっこいどっこいだろうかね、と言うことになります。また、P=0.1810ということは、P,すなわち、プロバビリティ、すなわち、おこりそうな確率、なにが、起こりそうかっていうと、100㎞/時が今までの車の性能のところに、新しく開発した車が、実は性能は全く同じで、車体の色だけを変えただけど、たまたま115㎞/時で定速走行するということが、偶然に起きる確率は0.18である、5回に1回は偶然に起きることがある、ということです。なので、統計学的にきっちり考えると、化学療法対化学療療法+生理食塩水でも、同じ試験を5回やれば1回はこの程度の差、となることあるよ、ということです。また、そもそもこの試験は、 IDFSイベントのハザード比が0.75となることを有意差(P値0.05以下)として検出できるように症例数(イベント数)を388と設定しており、393イベントがすでに発生しており、そうすると5%以下の有意差にはならない、ということになり、結果はネガティブ、ということになります。統計学のもっと詳しいことは、鳥打帽の似合わない大橋先生に聞いてみましょう。
生存期間についても、ハザード比0.84 (95% 信頼区間: 0.64‒1.12; p=0.2318)で、結果を出すために必要なイベント数(死亡数)の59%しか、未だ発生していない、ということですが、おそらく、生存期間で差がつくことはないと思います。
アバスチンに関しては、「本当に効かないのか?」なんていうタイトルで話して大丈夫ですか、と、いろいろな方に言われます。確かに副作用はあまり重篤ではないので安全な薬とは言えますが、如何せん、効果がはっきりしないわりに高い、これが1瓶150円ぐらいならいいかも知れません。二代目エビデンス侍の相原先生は、「関西人は、効きもしない薬、誰が150円で買うねん」というでしょう。最近、特にしつこいし。
虫たちよ、大腸癌では、アバスチン;転移性では○、術後では×(AVANT, NSABP B08)、ベクティビックス(管轄外虫);転移性では○、術後では×(N0147 trial)(総合2勝2敗)、乳癌では、アバスチン;転移性で×、術後で×、ハーセプチン;転移性では○、術後では○ (総合2勝2敗)、ということで、第一世代分子標的薬剤、まずまずの成績と言うことでどうだろうか。
春はもうすぐ そこまで 恋は今終わった この長い冬がおわるまでに何かをみつけて生きよう 何かを信じていきてゆこう この冬がおわるまで(サボテンの花)