朝日連載 「やっぱりふつうの食事がいちばんです」


信じ込んだら何を言っても行動パターンを変えない人、若くても高齢でも、結構いますね。若い頃から毎晩ビールは大瓶2本飲んでいる、それが習慣だからそれを変える必要はない、と私の父も年老いてから、そう言っていました。周囲も習慣だから、と許容するし、本人もそれで当然と思う。しかし、加齢によるアルコール代謝力の低下とか、脳細胞の老化でアルコール感受性が高くなるとか、そういった変化には気づかないものなのでしょうか。 晩年には、ウイスキーにビールを水割りのように加えてべろべろになっていました。息子として、医師として、心を鬼にしてやめさせましたが、明日は我が身かも知れませんね。 さて、今日は、朝日新聞の連載記事に対して大豆は絶対にダメなのに、どうしてよい、と言うのだ!! 間違ったことを書くナー!! という投書をもらいました。返事をよこせーと、返信用封筒まで入っていましたが、個別のお尋ねには答えませんよ、と書いて返信しました。豆腐、納豆、すべて害悪!! と、信じ込んでいるような人もいて、大豆食品は口にしないとう生活パターンは絶対に変えない、それで、自分は乳がんにもならず、元気でいるのだ!!という人もいるのですが、そんなにすることはないよ、というコラム記事を今週は書きました。

タイトル やっぱりふつうの食事がいちばんです としましたが、編集者が手直しすることが多い。今週は投稿してすぐにスイスに来たので変更は確認できまっしぇん。

がん患者は○○を食べてはだめ、▽▽はがんにいい、といった話がマスコミなどでまことしやかに語られています。絶食や断食などの間違った食事で低栄養状態に陥ったがん患者が餓死したという痛ましい話もありました。栄養や食事療法、温泉などの物理療法をまとめて補完代替医療と呼び、本当に効果があるかについて、科学的に証明しようという取り組みも行われています。
大豆に含まれるイソフラボンは、その化学構造が女性ホルモンに似ており、大変弱いのですが女性ホルモンのような働きを持つことが知られています。乳がんの発生や増殖は女性ホルモンによって促進されることから、大豆製品は乳がん患者によくないのではないか、と言う意見が古くからありました。一方で、日本、韓国、中国では、乳がんの発生率が欧米に比べて低いことが知られています。しかし、ハワイや米国本土に住む東洋人の二世、三世の女性の乳がん発生率は欧米人と同じであることから、食事、とくに東洋人が多く摂取する大豆食品は、乳がんには予防的に働いているのではないか、という説もあります。豆腐を多く食べる沖縄県、納豆を多く食べる茨城県では他県に比べ、乳がんが少ない、という日本の研究結果もこの説を支持しています。乳がん患者から、大豆は避けた方がいいのか、それとも積極的に食べるほうがいいのか、と尋ねられることがよくありますが、私の答えはこうです。「大豆イソフラボンを大量に濃縮したサプリメントは、女性ホルモンのような働きで、ひょっとしたら乳がんの増殖が刺激されるかもしれませんからやめておきましょう。しかし、毎日食べても納豆、味噌汁、豆腐、おから、煮豆などの大豆食品に含まれるイソフラボンの量は少ないもので、ひょっとしたら乳がんの増殖が抑制されるかもしれません。沖縄や茨城で乳がんが少ないのはこのよいほうのひょっとしたら、に該当するのではないでしょうか。ですから、おいしいねと、毎日の糧を神様に感謝しながら、普通の食事を楽しむのが一番よいと思います。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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