サイエンスの進歩を学ぶ


きちっと整理され保管された過去の病理検体をアーカイブマテリアル(archive materials)と呼びます。アーカイブとは、公文書(保管所)、記録保管所、保存記録、古文書とも訳されるように、手間暇かけて、悪くならないように保存されたもの、という意味。がん組織標本は、手術や生検で採取したものを、腐らないようにホルマリンに漬けて固定し、パラフィンの中に封じ込めたもので、室温に置いておいても、半永久的に、DNA、タンパクなどがほとんど変性することなく保存ができます。そのため、パラフィンブロックは、極めて大切ですが、同時に、極めてぞんざいに扱われることもあります。大学の医局から関連病院に移るときの引越しで、机の引き出しからゴロゴロとパラフィンブロックが出てきて、「o-332343-2(1)」などと整理番号が書いてあるけど、どこの、いつの、どの患者の検体か、わからなくなっていて、まあ、いいか、と、こっそりとゴミ箱に捨ててしまう、ということもよくあったりします。それなので、臨床医がパラフィンブロックを勝手に持ち出したり、貸し出しても返却しなかったりということがあるので病理の先生は、概して几帳面な性格なので「持ち出し、貸し出し厳重禁止」とするのが一般的です。パラフィンブロックにように室温で長期間保存できるものが、データベース化されしっかりと保管されていて、しかも、「一定の治療を受けた均質の患者集団の病理検体」ならば、なおさらその価値は高いわけです。つまり、「前向きな臨床試験を昔からきっちり行っている病院や臨床試験グループ」などでは、研究資材という点では宝の山、ひと財産持っているようなものです。それで、全ゲノム(遺伝子セット)の解析が可能となって来たここ数年、アーカイブマテリアルが、片っぱしから解析され、どの遺伝子に異常がある場合に、がんは再発しやすいのか、治療が効かないのか、再発とか、死亡するのは、どの遺伝子の異常が原因なのか、ということで、聞いたこともないような遺伝子が「容疑者」として浮かび上がったきて報告されています。犯罪捜査と同じで、事件現場近くの「防犯カメラ」に写っていた、ということをきっかけに捜査が進んでいく、みたいなものです。今回、サンアントニオ乳がんシンポジウムでも、アーカイブマテリアルを用いて、遺伝子解析を行い、変異のある遺伝子が見つかりました、とか、その遺伝子異常の結果とし生じる酵素異常とか、受容体異常をブロックするような「阻害剤」をつくって、それらの効果をみた細胞実験、動物実験の結果や、第一相試験結果の結果などが報告されています。はやぶさが、どうして、あんな遠くの惑星まで正確に飛んでいき着地して砂とかを採取して、地球に戻ってくるのか、説明しろといわれてもよくわかりません、というのと同じことで、細かいところは、わからないけれども、そのように科学が進歩していることは把握しておく必要があるでしょう。はやぶさの話を科学雑誌「ニュートン」を読んで理解するように、我々臨床医も、「アーカーブマテリアルを遺伝子探索して見つかった遺伝子の異常をブロックする阻害剤のはたらき」を正しく把握しておく必要があります。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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