厚労省・医薬品機構の視点


リュープリン、ゾラデックスなどの「LH-RHアゴニスト」は、性腺刺激ホルモン阻害作用をもつ薬剤で、性腺(卵巣、精巣)の働きを抑えるので女性では「閉経前乳がん」の治療薬として承認されています。アリミデックス(アナストロゾール)、フェマーラ(レトロゾール)、アロマシン(エキセメスタン)などのアロマターゼ阻害剤は「閉経後乳がん」の治療薬として承認されています。閉経前乳がん患者に、リュープリン、ゾラデックスを使用すると卵巣の働きが停まり閉経後と同様の状態となるので、アロマターゼ阻害剤を併用することで、治療効果増強が得られます。内分泌学的に、このようにかんがえるのが「常識」であり、15年も前から浜松では、この併用は当たり前の様に使ってきています。保険でも当たり前の如く承認されています。しかし、しかし、かたや閉経前の薬剤、こなた閉経後の薬剤、ということで、名古屋地区ではいまだに、併用は認められないということで、「卵巣摘除術を行わないとアロマターゼ阻害剤が使用出来ない」となっていて、県境を越えて浜松まで、リュープリン。ゾラデックス+アロマターゼ阻害剤の併用治療をうけに来る患者さんがいらっしゃいます。このように両系統薬剤(LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害剤)の併用を認めない、保険で切られるという未開地域がまだまだあちこちにあります。

フェソロデックス(フルベストラント)の使用出来る状況、つまり保険で承認されるのは、今年9月から「乳癌」となりました。それまでは、適応は「閉経後乳癌」でしたので、アロマターゼ阻害剤同様、フェソロデックスはLH-RHアゴニストと併用できない、ということでしたが、今は「リュープリンあるいはゾラデックスとフェソロデックス」を合わせて閉経前乳癌患者の治療に使用することができます。腫瘍内分泌学的に考えれば当たり前のことです。ところが、添付文書には「なお、閉経前乳癌に対しては、LH-RHアゴニスト投与下でCDK4/6阻害剤と併用すること。」という、限定但し書きがついています。これは、イブランス(パルボシクリブ)の臨床試験(Paloma-3 )で、対象となった閉経前患者では、イブランス+フルベストラントに「LH-RHアゴニスト剤」であるZoladex ®が併用されたからです。つまり、イブランスとの併用ならば、閉経前では、フルベストラントとLH-RHアゴニストの併用はOKだけど、それ以外の状況では、閉経前乳癌患者に、フルベストラントとLH-RHアゴニストの併用してはだめだよ、と読み取れます。エビデンス原理主義のGKIT(が●け●いと●)のような対応ですね、と思いきや、頭隠して尻隠さず、で、(Paloma-3 )で使っているのは、Zoladex ®であり、リュープリンは使用されていません。いいんですか? エビデンスがないのに、イブランスとフェソロデックスとリュープリンを併用しても?? 厚労省・医薬品機構は、原理主義を貫くなら、Zoladex ®に限る、とするべきところではないですか? 不可解ですね。ナショナルフラッグカンパニーである武田さんに媚びたのでしょうか? なんて言われても仕方ないですね。ですから、私が言いたいのは、あまり、エビデンス原理主義に基づく頑なな行政対応はしないでほしい、ということです。リーゾナブルにフレキシブルに、患者に優しい行政対応をしてほしいということです。ゾラデックスでもリュープリンでもいいですよ、というおおらかな対応が望まれるのです。愛知県では使えなくって静岡県では使える、これではまるで愛知県が北朝鮮みたいではないですか。愛知県には、天下のイワタヒロジーがいるのに、どうしてこんなことになっているのでしょうか? 行政は、思い切って脱皮して、エビデンス原理主義の厚い殻を脱ぎ去らなければいけないのです。2017年は数時間で終わりです。2018年を迎えるにあたり、厚労省・医薬品機構はもっともっと国民に優しい視点をもった医薬品行政を目指してほしいと思います。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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