一応の節目


月末にあったCSPORの年会を最後にCSPORの運営活動からは身を引いた。10年も経つと垢もたまるし、垢がたまっていることすら気付かないような組織になってしまう。10年ぐらいを節目に人心一新が必要であると思う。CSPORが今後どのような方向に向いていくかは、向井先生を中心とした新しい運営陣の手腕を見守りたい。私の次のミッションは臨床試験を含めた、がんの診療、教育体制を洗いなおして、効率的な医療体制を考えていくこと。すでに、高機能診療所構想は、社会実験として浜松で実践している。古臭いピラミッド形態の組織論に根差すがん診療きょとん病院構想に問題提起は続けていくつもりだ。

北の友への手紙


文芸春秋に、不勉強で思いこみの強いあの人が書いたとされる「抗がん剤は効かない」という記事がでて、それに対して勝俣範之先生が週刊文春にきちんとした反論を載せました。記事を書いた鳥集さんには何回か取材を受けたことがありますが、取材力、構成力、問題提起力もありとてもよい記事だと思います。国立がん研究センター中央病院レジデント有志グル―プがよく勉強して、きちんと整理された表が載っていますが、これもさすがだと思いました。目に浮かぶ構図としては勝俣先生が、レジデントに反論してみなさい、と言って若手に勉強させるふりをして、それをそのまま記事にするというとても効率のよい方法をとったものでしょう。また、文芸春秋→週刊文春という構図は、数年前も全く同様の流れでちょっとだけ社会問題化され、それがまた書籍にまでなったわけです。今度も文芸春秋社の巧妙なマッチポンプ方式の販売促進戦略に乗せられた感がないでもありません。勝俣先生には、対談とか、文春側の愚かな企画に乗せられないよう、気をつけてもらいたいものです。渡辺先生、どうして反論しないんですか、という促しも何人かの方から頂いたのですが、こういう生もの的な問題は、若手にお任せするのがよろしかろうと思います。また、意地悪な友人は、あの記事の銀座で豪遊っていうの、あれ渡辺先生じゃないの、というのですが、「かつては製薬会社のお金で研究者が銀座で豪遊するようなことがありましたが・・」、あれは誰もが知っているTMNG先生の話だろうと思います。今日は大変寒い一日でした。ご自愛ください。

エッセイ「私と臨床試験」


CSPORなどの臨床試験を長年リードしてきた私は、試験登録が進まないことによる心労が度々重なり、こんなに痩せてしまいました。1987年、米国留学から帰国し、当時、国立がんセンター病院副院長であった阿部 薫先生(現・国立がん研究センター名誉総長)から、今ではJCOGと呼んでいる、多施設共同臨床試験の班研究をテコ入れするように言われました。そこで新しい比較試験を計画して班会議で議論したのですが、参加者の8割は無言、1割は寝ている、残りは、昼から別の会があるからとか言って退席、と言うような状況でした。議論がないわけではなかったのですが、うまくいきませんでした。NMR先生などは徹底的に反論、「その試験が意味のない理由」というスライドをわざわざ準備してきて文句をつけ、挙句に班会議から脱退していきました。会議の進め方がまずいせいなのかと、JCOGのそのほかの班会議を見学してみましたが、どこも同じようにお通夜のようでした。今は知りませんが、昔は、JCOGには、公的研究組織に参加しているという、親方日の丸的発想に支えられ、班研究への出席率は高かったのですが、臨床試験を躍動させようという意欲が感じられる参加者は、ほんの一握りでした。
NSASBC01試験も最初は、公的研究組織でした。資金源は、社会保険庁からの研究費、つまり、今思えば、消えた年金の一部です。年間、数億円の研究費を頂いたわけですし、阿部薫先生から「お前に任せるから」と、強烈なミッションを与えられ、出力全開のパッションで突っ走りました。現在、あちこちで使われているプロトコールのお手本となっている臨床試験計画書を策定し、腋窩リンパ節転移陰性症例の中から、ハイリスク症例を選別して対象とするという計画のもとに、NSAS悪性度基準を作るため病理部会を開催し、坂元吾偉先生、秋山太先生らのお力で今でも使われている、そして世界にも通用する基準が出来ただけでも、消えた年金は、充分に元をとったと思います。
NSASBC01試験は1996年10月14日から登録を開始、はじめは順調に登録が進捗していました。しかし、途中で不見識、非常識、反社会的かつ独断的、自己中心的患者団体「イデアフォー」と朝日新聞の一女性記者がつるんで、理不尽で執拗な妨害活動をしかけてきました。朝日新聞には、連日批判的記事が載り、それを読んだ浜松に住む母親が、「お前、何か、悪いことでもしたの?」と電話をかけてくるほどに、私はいじめられました。症例登録はがくっと減り、2年経過した時点から、大鵬薬品工業の委託研究となったため、親方日の丸的価値観を持つ研究者は、ごっそりと抜け、さらに進捗は鈍化したのでした。このあたりの経緯は、近々、日経BP社から出版される「NSAS物語」に詳しく書かれるものと思います。あの頃は、毎年、初詣に行っていた深川不動で、商売繁盛の大きな熊手を買ってきて、NSAS症例登録促進!と書いて、医局の壁に掲げたものでした。苦しい時は神頼みです。NSASBC01は、JCOの論文を載せることが出来ましたが、2年間の内服薬UFTと6か月の注射中心のCMFの比較で、期間も、治療内容も大きく異なるアーム同士の比較です。どちらの治療を選ぶか、という質問に、乳がん診療に専門的に携わっている医師でも、意見が分かれていました。つまり、臨床的平衡(Clinical Equipoise)が成り立っている状況であったと言えます。Clinical Equipoiseは、クリニカルイクイポイーズと覚えましょう。SSK先生と、SEK先生がいたとします。SSK先生は、「ぼ・ぼくは、CMFを使う」という意見、SEK先生は「わたしはスポンサーも大鵬ですしUFTを使用します。もし、スポンサーがロッシュ(当時)なら、フルツロンを使います。」という意見だったとします。どちらが正しい治療かは、神様のみが知っている、でも、専門家コミュニティーのなかで意見が五分五分ぐらいにわかれる、というのが、クリニカルイクイポイーズの状態というわけです。その状態で、SSK先生もSEK先生も、NSASBC01試験に参加してくれました。SSK先生が登録した症例がUFT群になったとしても、SSK先生は、「この二つ、どちらもあなたのような患者さんの治療に、使われています。しかし、どちらがより良い治療か、それとも同じ程度か、専門家にも分からないので、そこを、将来の患者さんのためにも、是非、この試験に参加してください。」と説明するでしょう。SEK先生だって、CMF群には、同じように説明するわけです。NSASBC01は、同意取得が難しいという問題は確かにありましたが、これにもかなりのパッションを注ぎました。佐藤恵子さん(現、京都大学○○○准教授)が、倫理的側面をとことん追求し、先駆的な取り組みをしてくれました。しっかりした説明をしたうえできちんとした同意を取るため、かわいいリス(後でわかったことですがこのリスは、宇宙人シマリスだそうです)のついた説明文書を作り、説明の場に同席し、患者のフォローアップもしてくれました。その研究は今でも続いています。患者さんの間には、あるいは我々医療者の間にも、潜在的に「飲み薬は副作用が軽いけど注射薬やきつい」という認識があります。NSASBC01では、そこのところをQOL評価として、下妻晃二郎先生(現立命館大学○○○教授)がしっかりと担当してくれた点は、たいへん大きな意義があったと思います。このように、一つのチームとして、臨床研究を引っ張っていくには、研究責任者(Primary Investigator)は、最初から最後まで、ハイテンションを維持しなれば、仲間をついてきません。PIの施設は、常にTop recruiterでなければいけないのです。うまくいかない臨床試験で共通しているのは、責任者にやる気がない、責任者が試験以外の活動(講演活動、他の収入のいい治験参加、他の国際的に名声が得られるような試験参加など)に血道をあげている、などの問題が見え隠れしていることです。
NSASBC02は、01での経験や、Daniel Hayes、Craig Hendersonら、海外の研究者の意見を参考にして、アンソラサイクリンあり vs. なし、パクリタキセル vs. ドセタキセルの比較という2 x 2 factorial designを採用し、当時としては誰も考えなかった、アンソラサイクリンなしのアームを設定する、という斬新なデザインを考案しました。「アンソラサイクリンを入れないというのは前例もないから倫理的にどうだろうか、海外で同様の試験があれば倫理的問題はクリアできると思うけど」というようなコンサバな意見も多数ありました。しかし、意義のある試験であることが多くの研究者に理解され、患者さんからも支援されたことなどから1000症例を超える数の症例登録が割とスムーズに進みました。先の中間解析の結果は、ポスターディスカッションで発表することができ、Best of ASCO2009に採用されました。ポスター会場では、ウクライナの研究者からも、ウクライナのコミュニティーホスピタルでも治療方法が変わるかもしれない、とおほめの言葉を頂きました。NSASBC02は今年には最終解析を迎えようとしています。皆様の御支援、ご指導、ご協力に、あらためて感謝申し上げる次第です。

遅ればせながら新年


12月のはじめに滞っていた書籍執筆を急げと、鬼の梅村編集者から期限を1月10日と設定されました。そのため、サンアントニオから帰国してからほとんどお正月返上で執筆作業に追われておりブログを更新している暇もなく新年のご挨拶を申し上げる機会を逸してしまいました。今年はST.Gallenですが、いつもはとっくにきているスライド原案、会議のアジェンダが今回はまだ来ていません。ゴールドヒルシュ先生が病気とかいう話もあり、また、こちらのメールの具合がわるく連絡を見過ごしていたのかもと気にはなっているところです。いずれにしても準備怠りなく1月4日からBerlitzに通って会議会話のブラッシュアップを測っております。Yes We Can!!

医師の本分


医師は患者を診るのが仕事である。臨床力「Clinical Expertise」とは、知恵と知識と経験とたゆまぬ努力によって熟成される能力で、それには、診断力、治療力、コミュニケーション力、洞察力、情報処理力、忍耐力、判断力、指導力など、様々な成分が含まれる。臨床力は、一朝一夕に身につくものではないが、単に長期間、臨床に携わっていればよいというものではない。患者を診ることと、患者を対象とした臨床研究を行うことは車の両輪、コインの裏表と言うような感じで、両方の能力と活動を併せ持っていくのが望ましいかな、と常々思っている。先日、メディアセミナーで大野善三さんから、「渡辺先生は、立場が変わる度に、新しい問題点を見出して取り組んでいますね。先生の話が面白いのは、常に、現場を持っていることなんだなと思いますね。」と言われた、大野さんは、医学ジャーナリスト協会の重鎮で、NHKにいらっしゃった1990年代前半から取材を受けたり、メディアセミナーで講演を聞いてもらったりと、年に数回だがお目にかかる機会がある。西條先生とはしばらくご無沙汰していたが、先日、日経新聞の座談会でお目にかかった、「いかがですか、先生」と聞いたら、「暇や、暇やから、勉強ばっかりしとる。」と。確かに、分子標的薬剤の最新情報の詳細まで、よくご存じだが、今一つ、話に迫力がない。ご本人もおっしゃっていたが「知識は吸収できるが、現場に携わっていないから、頭でっかちや。」ということだ。昨日、引退牧師と話をする機会があった。彼は、信州の方の教会で長年、牧師をしており、その時に入院、手術を経験した。内科医として担当したのが、有名な○田實先生だという。手術前に、「頑張ってください」、といわれたそうだが、牧師先生は、「私は、全身麻酔をかけられて、いわば、冷凍マグロのようなもの。何を頑張れというのですか?」と思わず聞いてしまったそうだ。また、「彼は、最近、有名医になって、頑張らない人生、なんて言っているが、冷凍マグロの私に頑張ってくれ、といった同じ人間とは思えないな。」と。また、面白いことをおっしゃった。「有名医だけど、彼は全然、名医じゃあないよ。名医になってから有名医になるのが筋だけど、先に有名医になっちゃったものだから、講演とかで忙しくて、名医になりきれないんだな。」 これは、まさに、他山の石とすべき指摘である。この1カ月ぐらいで出あった、大野さんも西條先生も引退牧師先生も、人生の先達は、大切なところをきちんと評価しているな、と感心した。やはり、本分をわきまえ、それに情熱を持って取り組むこと、まさに、MISSIONを心得て! PASSIONをもって臨み、HIGH TENSIONで取り組むことが大事であると理解した。本分をないがしろにしては足元すくわれるぞ、ということは常に、あんきもに銘じておくよ。

サンアントニオが終わった


ネガティブデータとして発表されたいくつかの試験結果であっても多くの患者の協力があってきあがったものであるので、その結果を精一杯、正しく解釈して有効に活用しなければいけません。正しい解釈とは、「真実・バイアス・偶然」のあぶり出しに他なりません。これはEBMの基本的な考え方であると思います。ところが大部分の試験はスポンサーとして製薬企業が裏に支えています。支えてくれるのはありがたいのですが、その支え方が問題です。数週間すると学会レポートとして各製薬企業が小冊子を作ります。そこにはバイアスと偶然に塗りかためられたゆがんだ情報が語られています。私も時々、そのようなごみレポートの監修を頼まれたこともありますが、あまり、よいしょしないのでだんだん依頼は減ってきて、特定のお抱えレポーターの名前が繰り返し登場します。彼らにはいろいろと事情はあるのでしょうが、あまりに節度のない登場の仕方には品格が疑われてしまいます。

サンアントニオの目玉


今日(三日目)と昨日(二日目)のお昼にサンアントニオの目玉セッションである「Case Conference」がありました。壇上のパネリストは、会場から質問に、事前の準備なく、ぶっつけ本番で答えるこのセッションは、臨床医の真の実力が問われるもので、10年以上の間、必ず参加しています。今回、改めて関心したことは、パネリストは今回の学会で発表された話題などにもきちんと精通していて、情報処理能力の高さもすごいと感じました。例年の如く、会場では12時30分の開始を待ち切れず、マイクの前に長い列ができました。順番に、「64歳女性で6年前に左乳癌手術し、・・・再発後の治療は、どうしたらいいか?」と症例を提示して、それにパネリストが答えるのですが、提示される症例はどれも、うーんと唸ってしまうような、一筋縄ではいかない難しく、しかも答えは一つではないようなものばかりです。去年は清水千佳子先生も質問しましたが、今年は会場に姿は見かけませんでした。継続は力なりと教えたはずなのに。今回、おっと思ったもう一つのこと、それは、質問者が症例提示する時に、ERは45(ER was forty five・・)、、PRは50、HER2FISH 1.1、という表現を使っていることです。St.Gallen 2009で、ER、PgRは、陽性細胞割合を%で表示するのがよい、とリコメンドしているのですが、日本では未だにSRLなどのレポートでも10%以上、という表現しかなく、St.Gallenのリコメンドが全く生かされていないのに比べ、こちらでは、community oncologistsのレベルでも、「正しい」表現方法が定着しているわけです。また、HER2 FISHのコピー数で表現するのもいいことだと思います。内容が正しく伝わりますから。陽性、陰性というだけではだめなのです。また、ER1%でどうするか、という質問もありました。もうひとつ、立派だなと思ったことは、パネリストが質問に答える際に、ASCOのガイドラインでは・・・など、公的なガイドラインを重視する立場を一貫して取っていることです。日本ではどうでしょう? 「ガイドラインにはそう書いてありますが、うちの病院の方針は違います。」とオピニオンリーダーを自他ともに認識する外科医ですら、そんなことを言います。また、エビデンスがなければやりません、という話も、ここでは全くでません。このカンファレンスに提示する症例は、ガイドラインで推奨される治療が適用できれば苦労はしないよ、というものばかり。つまり、エビデンスが存在しないような、応用問題ばかりなのです。だから、パネリストは、This is very tough case(これはとても難しい症例ですね)としばしば口にしますが、答えは、「ランダマイズドエビデンスはない。しかし、個人的には、これこれ、の治療をするだろう。」というように、必ず、解決策(Strategy)を提示します。それが、また、なるほどね、さすがね、というようなことが今年は多かったです。44歳、右乳癌4cm。ER100%、PR100% 、HER2FISH 0.7、grade 1、Ki67 6%、術前ホルモンはどうでしょうか、という質問。日本のガイドラインでも閉経前の術前治療の推奨レベルは、C2としているのですが、パネリストはなんて答えたでしょうか。MayoのJim Ingleは、「われわれは、若い乳癌患者に対する研究を必ずしも十分にはしてこなかった。」とまず言いました。これは、十分なエビデンスがない、ということと同じことを、当事者としての視点で表現しているのです。これには関心しました。しかし、個人的には、閉経後と同じように、ホルモン療法をまずやるのがいいと思う。具体的には、LHRHアゴニストプラスタモキシフェンを選びますね、と答えました。好感が持てます。また、ロンドンのスティーブジョンソンは、This tumour tells you that I am Luminal A.(腫瘍が、自分はルミナルAだと言っているよ)と、これもまた、いい姿勢だと思いました。一方、質問者もいい事を言いました。「おとといのポスターでジャパニーズグループがLHRHアゴニストプラスアナストロゾ-ルのほうが、タモキシフェンとのコンビネーションよりも優れているという発表があったがどうだろうか?」 なんと、相良のやっちゃんの発表が、こんな風に役立っているではありませんか。パネリストは、「I know, that’s an excellent data.」といって、相良のやっちゃんの発表を賛美し、「骨粗鬆症や肥満の問題がなく、CYP2D6変異が懸念される状況などあれば、それも選択肢として考えてもいいのではないか」と、激しく頷けるような意見を述べたのです。これぞまさしく、わが乳癌学会のガイドラインが推奨レベルC2としている「科学的根拠は十分とはいえず,実践することは基本的に勧められない」といことの具体的な表現だと思います。相良のやっちゃん には、是非、これらの問題を合わせて解析し、自分で論文を書いてJCOぐらいには投稿してもらいたいものです。こんな感じで、このセッションが終わると、今年もお正月を迎えられるという感じになります。聖マリアンナの津川先生が「中外の会に途中まで出てたけど、こっちに来てすごくよかったです。センチネルノのことも、生の意見を聞けたし、このセッションを聞かない手はないですよね。」と高揚した声で言っていました。「そうでしょ。若い人には是非参加したらと、毎年言っているのですけどね、なかなか、日本人の参加者は少ないみたいですね。」と、悲しさのあまり涙を流しながら中空を見つめて答えました。「そりゃあ、いかんですね、大学でもこういうようなことをやっていて、なんでもいいから話しなさいってやってるんですよ。今日のも、すごく参考になったなあ。」と。津川先生の目には輝く星が見えました。私の涙の原因は他にもあるのです。中外製薬株式会社は、学会が開催されているこの時間帯に「日本人のための勉強会付きお食事会」を開くという、医療に貢献すべき製薬企業としてはあってはならない、なんと愚かなことをするのでしょうか。お食事だけではないですよ、という反論がありましたが、もし、私が学会を主催する立場だったら、会期中に裏番組をやるような企業は出入り禁止にするでしょう。今まで、読む人にわからないように虫害としていましたが、今回ばかりは、「そんな甘い対応ではいけない」とのIDMCの忠告に従い、ご意見申し上げました。学会を大切にする姿勢がなくてはいけません。さて、明日は日曜日で最後のセッション「THE YEAR REVIEW」があります。これは昨年から始まったのですが、基礎医学、翻訳医学、早期乳癌、進行乳癌、の四つの領域で、今年一年の成果を専門家がレビューします。これも乳癌診療全体に触れておくためにはとても大切なセッションだと思います。

サンアントニオは今日も天気晴朗


サンアントニオ2日目の今日は、午前中にちょっとした山場がありました。HER2 Diseaseを対象とした術前治療で、ヨーロッパから三つのインパクトある演題が発表されました。マイケル ウンチ(ドイツ、声はいいが名前が微妙)、ルカ ジアニ(イタリア、イタリア語なまりがだいぶ消えてわかりやすい英語を話すようになった。アメリカ人の彼女でも出来たのだろうか)、ホゼ バセルガ(スペイン、活躍の場を求めてボストンMGHに移った。以前は時間を守らない発表だったが最近は、その点でもアメリカナイズされた)のドラッグハンター御三家により、それぞれ、GEPARQUINT試験:ラパチニブはトラスツズマブに勝てない、NEOSPHERE試験:トラスツズマブとペルツズマブの併用で決まり、NEOALTTO試験:トラスツズマブとラパチニブの併用で決まり、という、大変わかりやすい結果が方向された。Vogel from NewYorkも、Wonderful data, wonderful analysisとほめた。三つの試験をまとめてDiscussionしたのは、憲兵Eric Winerである。かれは、白熱した領域では、実に緻密かつ冷静に、コンサバな意見を当局的に主張するので、今日みたいな場にはもってこいの役者だ。AI3剤が壮絶な戦いを始めたころにも、ASCOのガイドラインで、TAMでもいい場合もあるぞ、みたいな、冷静かつ、今となっては的確な主張を続けたのを覚えている人も多いだろう。Eric Winerですら、Winner is the combination(勝者は併用だ)と言っているので、トラスツズマブとラパチニブの併用、あるいは、ペルツズマブがでれば、いきなりトラスツズマブとの併用という流れも出来てしまった。翻って、日本の行政当局は、このスピードについていけるだろか? 必死で「日本人での併用は安全性、有効性が認められていない」として、流れに竿をさすのだろうか。日本人特殊論に逃げ込んで、行政の不作為の愚を繰り返さないようにしてほしいものである。日本人と欧米人は、サルとイヌほどに異なると思っている人も中にはいるので、日本人特殊論は、そう簡単には払拭できないだろう。しかし、世界はかわっているぜよ、浦野さんよ。

サンアントニオ気まぐれ速報


サンアントニオ一日目、午前中に、あのDr. Vogel が表彰されました。毎回必ずと言っていいほど、”Steven Vogel from New York”と前置きして、わりと辛口の質問をするおじさんです。数年前、このブログでもとりあえたことがありました。

さて、午前中のgeneral session 1では、8つの演題がありました。

① 最初の演題はMA27試験の結果。カナダから数年前にハーバードに移ったPaul Gossによる発表。MA27は閉経後、ホルモン受容体陽性乳癌症例を対象に、ランダムに、エキセメスタン対アナストロゾールを比較し、EFS(Event Free Survival)、OS(Overall survival)、DDFS(Distant Disease Free Survival)、CB(Contralateral Breast Cancer )および、安全性を比較した試験で、ステロイド骨格有するアロマターゼ阻害剤、エキセメスタンは、非ステロイドアロマターゼ阻害剤であるアナストロゾールに比べ、① アロマターゼを非可逆的に抑制する結果、アロマターゼ阻害作用が強いのではないか、②アナストロゾールと異なり細胞内アロマターゼ活性を誘導しないのではないか、③弱い男性ホルモン活性を有していることから異なった抗腫瘍活性を有し、また骨や脂質代謝にも良好な影響を与えるのではないか、などの仮説(ファイザー社の期待)を検証するために行われた試験である。当初はCyclooxygenase-2(Cox2)阻害剤「celecoxib」とAIとの併用効果も検討する予定だったが、Celecoxibの心血管系への影響が判明したため、それはとりやめとなった。7576例が登録され、上記の指標を検討したが、いずれも差はなかった。ファイザーの期待は砕かれた、と思いきや、結論は、エキセメスタンはアロマターゼ阻害剤として、アナストロゾールと同様に使用することができる。国、地域により薬価を考慮し、適切な使用方法ができ選択肢が広がった、というようなことになった。あの試験って、ネガティブデータですよね、という意見もある。どのような仮説に基づいて、症例数を算定しているのか、ということによると思うが、デザインは、非劣性の検証として統計学的には完結しているのかもしれない。しかし、それならば、上記の①~③の、こんなに優れているかも、というのは、優越性の検証という意味合いがあり、やや混乱する。なんか、超大規模臨床試験の結果なのだからと、なし崩し的に「ファイザー力」で押し切られたような気もする。あそこはよくそれをやるからね。

② ふたつめの演題は、ACOSOG Z1031という、術前ホルモン剤、3剤のガチンコ比較試験である。これも、主要評価項目であるAI剤三剤では、すでに公表されている臨床的効果であまり差がない、ということ以上のデータ、たとえば、病理学的CRはどうか、とか、Ki67の抑制はどうか、など、知りたい結果は提示されず、PEPIスコアの話などで、なんとなくメリハリのない発表でした。

③ John RobertsonのかなりわかりにくいBritish Englishでの発表。以前よりは慣れてきたせいか、わかるようにはなった。要するに舌が短いようで、Lの発音が、Wi(うい)とか、We(うえ)の音に聞こえるので、そこだけ注意してきいていれば、あとはスクリーンに大写しになる、あのうっとうしい顔さえ我慢すればよいのだ。内容は、転移乳がんの初回内分泌治療としてのFULVESTRANT 500mg(お尻に筋注だからたまらない)とANASTROZOLEとの比較で、TTPでは、ハザード比0.66、P=0.01とFULVESTRANT500mgが優れてたというもの。昔々、FULVESTRANT 250mgをタモキシフェンと比較した試験ではFULVESTRANT 250mgが負けた。あの時、500mgでやっていれば、AZの勢いは失われずに済んだのだが、イレッサ問題とダブルで来たので、AZは失速状態であった。そのため、ゾラデックスの売り込みが強烈になったものだったが、今回、社運をかけて、FULVESTRANT500mgが来年には、フェスロデックスという商品名で発売になる。治療大系のなかでどのような位置づけになるか、ということもさることながら、あのおしりの筋注をまたやらなければいけないと思うと、ちょっと気が重い。

④ その次は、AMG479のネガティブデータである。AMGは、あーまーげーではなくてアムジェンの開発コード、IGF1R(Insulin-like Growth Factor 1型受容体)に対するモノクローナル抗体。ホルモン剤の耐性獲得のメカニズムの一つに、IGF1が関与しているという推察はだいぶ前からあった。これを抑えれば、ホルモン剤の効果増強とか、効果持続期間の延長とか、耐性出現予防とか、出来るんじゃあないか、ということで、exemestaneまたはfulvestrantいずれかに、AMG479または、そのプラセボを併用するというもの。結果は、PFSも奏効割合も変わらない、副作用で高血糖、血小板減少、好中球減少がAMG群でやや高頻度ということだった。ネガティブデータなのだが、たとえば、IGF受容体の過剰発現している症例だけに限って検討してみる、という手もあるのではないかと感じた。ネガティブデータをもっともらしく発表する方法も学んだような気がする。

⑤ 閉経前乳がんに対する、術後のホルモン療法で、ゴセレリンとタモキシフェンとの併用に関して、1980年代に開始されてZIPPトライアル結果のアップデート報告である。発表は、ストックホルムのDr.Sverrisdottir 。管総理と違って、原稿も持たずに登壇して、私が医師になった1980年代中ごろに行われた試験の最新結果を報告できることを光栄に思いますとはじめた。すばらしい発表態度である。術後にTAMありなし、GOSERELINありなしの、2X2のファクトリアルデザインで開始された試験だが、途中から、何もなし群に対しても、TAMを選択してもよい、といふうにデザインを変更した国(イギリスなど)もあったそうだ。TAMなしの症例では、GOSERELINによりDFSもOSも有意に改善したが、TAMありでは、GOSERELINを追加しても改善効果なし、逆、つまり、GOSERELINなしの症例ではTAMにより改善するが、GOSERELINありでは、TAMを追加しても上乗せ効果はない、という結果であった。ただし、ER発現量の多い症例では、GOSERELINの上乗せ効果が見られた。この試験の問題点は、半分ぐらいの症例で、CMFが使用されているので、それにより、卵巣機能抑制・廃絶効果が加わり、GOSERELIN追加が意味をなさなかった、という可能性もある。1980年代と言えば、ホルモン受容体測定もまだ、DCC法でやっていた時代だろうか。今のようにきちんとした精度管理はなかったように記憶している。ZIPPのような試験をもう一度、リメークするのは無理なので、術前治療などで再検討したらどうだろうか。

⑥ 次は、転移性乳がんを対象にしたTAM単独 対 TAM+エベロリムスの比較第II相試験。この試験はちょっとおもしろいぞ、という感じだ。奏効割合、臨床的役立割合、を指標にして、111症例を登録、臨床的役立割合は、TAM単独42%に対して、TAM+エベロライムスでは61%、PFSはハザード0.53、P=0.0026 、ついでに解析したOSでも、ハザード0.32、P=0.0019と、差が認められたというもの。エベロライムスは、アフィニトールという商品名で既に腎がんに対して承認されている。この試験はダブルブラインドではないし、第II試験のセッティングなので、たまたまの偶然の観察で、生存率にも差が出た可能性がある。現在、グローバルで進行しているBOLERO2(非ステロイドAI耐性の閉経後症例を対象とした、エキセメスタン+プラセボvs. エキセメスタン+エベロライムスで、きちんとした効果が検証されるはずである。

次の二つは、ATACとBIG1-98で、CYP2D6の変異あり、なしで、検討した、後ろ向き研究。どちらの試験も、WILD TYPEと*4/*4などの変異ありで、比べても、タモキシフェンの効果には差がない、という結果、いろいろな考察がなされているが、現在、公表されているCYP2D6の論文は、約30あり、半分は差がある、半分は差がない、というデータである。以上午前中の発表のレビューでした。