来年、浜松で開催する乳癌学会では、採用された一般演題の95%をポスターディスカッションとする予定です。これは、ポスター閲覧会場とは別の部屋で、演者とは別のレビューワーが、一人当たり20演題ぐらいを担当し、約20分ぐらいでレビューするというものです。一つの会場あたり4人がレビューを担当(80演題)、並行して8会場で、三日間、つまり、80かける8かける3で、から全部で約2000ぐらいの演題をレビューするという体制を考えています。
レビューというのは、演題の批評、講評をするのですが、要は、「この演題は、これこれこういうことを検討したもので、着眼点も素晴らしく、調査方法もきちんとしています。得られた結果は、今後、これこれに役立つような示唆をあたえるものです。さらに、前向きな検討での検証を期待します。」とか「演題A、B、Cは、ともにハラヴェンの術前治療としての意義を検討したものです。それぞれが小規模の試験なので、決定的な結論をえられません。できれば、今後は、このような旦那芸のような試験もどきではなく、多施設共同の第II相試験として実施することが望まれますな。」とか「この検討では、発表者が述べている結論は得られないと思います。しかし、今後、あれこれをどれそれすれば、意義深い研究になるのではないでしょうか、頑張ってください。」とか、「MammaPrintを効果的に使用されているようですが、今後の展望について、演者の三角先生、コメントをお願いできますか?」とか・・・。演者にとっても、聴衆にとっても、学ぶことが多い、ポスターディスカッションセッションにしたいと思っています。
そうすると、100人から150人ぐらいにレビューワーとして協力してもらいたいと思っています。レビューワーには、若手~中堅どころの元気のいい医師、薬剤師、看護師のみなさんにお願いしたいと思っています。なので、みなさんのご協力をよろしくお願いします。
飛ばされたカナリアへ
歌を忘れたカナリアは後ろの山に棄てましょか
いえいえ それはかわいそう
歌を忘れたカナリアは背戸の小薮に埋けましょか
いえいえ それはなりませぬ
歌を忘れたカナリアは柳の鞭でぶちましょか
いえいえ それはかわいそう
歌を忘れたカナリアは象牙の舟に銀のかい
月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思い出す
NSAS物語 ④
しかし、観客である全国の医師、看護師には、患者に試験参加の同意を得ることの難しさと同時に、コツが多少なりともわかってもらえたのでしょう、3か月たつと、毎月の登録症例数も20を超えました。もう一つの工夫は、全国の医療者向け講演会です。臨床試験の大切さ、抗がん剤治療の最新情報、副作用を軽くするための工夫、医師-患者間のコミュニケーションなどのテーマで、スライドを使っての1時間程度の講演をほぼ毎週末行い、47都道府県をすべて回りました。母校北海道大学の外科の加藤先生からは、空飛ぶ治験屋といううれしくないレッテルも貼られてしまいました。彼の認識が全く間違っていたことは、10数年を経過した今日、検証されたと思います。
NSAS物語 ③
その一つは、試験を担当する全国50の病院の医師に、説明する技術を広めるためのロールプレイです。ウィキペディアによれば「ロールプレイとは役割演技(やくわりえんぎ)とも訳され、現実に起こる場面を想定して、複数の人がそれぞれ役を演じ、疑似体験を通じて、ある事柄が実際に起こったときに適切に対応できるようにする学習方法の一つ」と説明されています。試験の実行委員会のメンバーである医師、看護師が、臨床試験の目的、方法などを説明する医師役、説明を聞く患者役、その隣にすわる患者の夫役、そして、患者、家族を支える看護師役の4名と、全体の司会、解説をする私の計5人からなる一座で、週末に日本全国を寸劇を仕立てて行脚したのです。患者役を演ずる看護師の「私はいちばんいい治療を受けたいのに、それが先生もわからないなんて、そんなおかしな話ってないでしょう」と、涙ながらに訴える迫真の演技に、説明する医師役の医師は、つい、演技であることを忘れてしまった場面などもあり、毎回の反省会の題材には事欠きませんでした。
日焼けマシンで発癌!!
Journal of Clinical Oncologyに日焼けマシンで皮膚がんのリスクが高まる、特に若いうちに多用するとがんになりやすい、という論文が出ておりました。そういえば、最近、何かとお騒がせの自称プロサーファーも年がら年中真っ黒でしかも若いうちから直射日光を浴び、非日常的な楽園生活を送っていますが、皮膚の老化が著しいようで、皮膚がんは大丈夫? 実はあれが浦島太郎のモデル、という話もあります。竜宮城で楽しい毎日をおくり、気づいたらおじいさんになっていたってやつです。
NSAS物語 ②
全国50の病院から3年間に1300人の患者に参加してもらい、予定の治療終了後5年間での再発人数や、治療中および治療後の副作用や、毎日の生活に与える影響などを検討するということでしたので、月あたり37名の患者の登録が必要となります。登録患者数はデータセンターより毎月、主任研究者である私のところへ報告が来ます。最初の月は1名、次の月は8名、三月めの12月も8名と一向に増えません。一人の患者に1時間かけて説明しても、試験への参加は断られ続けでした。お正月には深川不動に、登録が増えるようにと、縁起物の熊手を買いに行ったぐらい、来る日も来る日もNSASBC-01試験の事ばかり考えていました。神頼みだけでは当然だめで、登録が進まない原因を、委員会を開催し深夜まで議論したこともありました。1997年の正月が過ぎ、試験に参加してくれる患者数を増やすための様々な工夫を本格的に開始しました。
ゴールデンウィーク企画 NSAS物語 ①
臨床試験はしっかりした計画の上に、遂行するチームをがっちりと構築し、被験者となる患者の協力を得るために「インフォームドコンセント」すなわち、「理解できるように丁寧に説明した上での同意」を取り進めて行かなければなりません。試験の計画、一切の取り決めや手順などは、試験計画書(プロトコール)にまとめます。CMFとテガフール・ウラシル配合薬のランダム化比較試験も1年半に及ぶ周到な準備期間をへて100ページを超えるプロトコールを作成、いよいよ1996年10月、NSASBC-01(エヌサスビーシーゼロワン)試験として症例登録が始まりました。医療の世界では長年の慣例として、診療検討会や、研究、教育の対象として患者の事を症例という表現を使います。NSASBC-01試験では、欧米で標準治療として乳がん手術後の再発予防に使用されていたCMF(シーエムエフ)という3種類の抗がん剤を組み合わせる治療方法と、日本で開発され広く使用されていた飲み薬であるテガフール・ウラシル配合薬との再発を抑える力を比べることを主目的として行われました。
最先端の誤解
標準治療と先進治療、どちらが良い治療でしょうか。答えは標準治療です。標準治療とは、臨床試験がきちんと行われ、効果と安全性が十分に吟味された治療をさします。ところが、標準治療は「並み」で、「先進治療」が「特上」というような、間違った概念が植え付けられているように思います。先進治療とは、標準医療として将来的には、保険が効く医療となるけれど、現段階では、まだ、十分に安全性も有効性も定まっていない治療です。言ってみれば、将来有望かもしれないが、現時点では海の物とも山の物とのつかない新人選手みたいなものです。先進医療には、樹状細胞及び腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法、活性化自己リンパ球移入療法などが含まれます。厚生労働省は医療機関を限定し、臨床試験を積極的に行ってきっちりと評価しましょう、ということで保険診療とは別建てで、患者から料金を徴収してもよいということにしています。しかし、この先進医療という用語は、まるで、厚生労働省が認めた最先端の優れた治療という間違った印象を一般の人々に与えています。先進医療はこのように行政上の用語ですが、それになんとなく似た用語で、「先端医療」という言葉が使われます。これは定義もなにもなくて、先進医療のごまかしで使用されている場合もあります。まるで、「松阪牛」を「松坂牛」と書く中国人のようなずるがしこさですね。
確かにペプチドワクチンや樹状細胞は、悪性黒色腫や前立腺がんといったごく一部のがんで有効なことは確認されていますが、乳がん、大腸がん、胃がんなど、多くのがんでは、効果の兆しは全くと言っていいほど認められていません。したがって、これらは未完成治療、あるいは、不確定治療と呼ぶ方が正しいと思います。ところが、樹状細胞やペプチドを用いたワクチン療法は、○田クリニック、セ○ンクリニックなどの民間診療所で、毎月数百万円の自費診療として行われているのが現状なのです。しかし自費診療としてまったく法律の枠外で行われていることですから、歯止めをかけることはできません。また、生命保険会社も、先進治療をカバーする保険を売り出しているため、この誤解を助長しています。標準治療にも限界があるのは事実です。もう有効な治療はないという場合には、未来の患者のためにも、きっちりとした臨床試験に参加すること考えてもらいたいと思います。たとえば、山口大学の岡正朗教授の消化器外科では、臨床試験として、しっかりした枠組みで、これらの免疫療法が本当に効くのかを、検討しています。大腸癌が対象ですが、この試験でしっかり検討して本当に良い治療ならば、将来の患者さんにもこの上ない贈り物として残していくことができるでしょう。その場合、臨床試験の段階によっては、全く自分のためにはならないということもある、未完成、不完全だから試験をするんだ、ということをよく心得ておく必要があります。
あたりまえですよね ゾメタ
4月から外来化学療法加算1 がAとBに分かれた。外来化学療法加算Aは、infusion reactionとかアナフラキシーショック等の重篤な合併が起こる可能性のある薬剤には十分な専門的な観察が必要なので、それなりの陣容と体制を整えなくてはいけないので580点、Bは、そうでもないので430点。先生のところはゾメタはどうしていますか、という問い合わせがあります。どうもこうも、そもそも静注の薬剤だし、歯科治療既往、現症などに注意を払い顎骨壊死など重篤な合併症に対して十分な観察が必要なので、当然Aを算定していますよ、とお答えしています。当然ですよね。
朝日新聞連載 ― 臨床試験のための基準づくり ―
がん治療が正しく行われるには、病理診断は大変重要です。病理診断とは、がんなのか、がんではないのか、がんだとすれば、たちの悪いがんなのか、よいがんなのかを、顕微鏡に映るがんの姿を見て診断するのです。最近では、薬物が効きそうか、ということも診断できるようになってきました。それほど重要な病理診断ですが、同時に、病理診断医の技量の差も大きく、また、主観に左右されやすい領域でもあります。また、かつては、学派によって診断が異なるという場合もありました。
CMFとテガフール・ウラシル配合薬のランダム化比較試験は日本全国約五十の病院で行なうことになっていたため、対象となる乳がん患者を適切に選択するためには、病理診断が正しく行われる必要がありました。病院によって、地域によって、対象となる患者が異なっているようだと、得られた結果を正しく解釈できないということにもなりかねないのです。そのため、臨床試験開始の1年半前に病理部会を組織しました。定期的に行われた会議では、試験に参加する五十病院の病理診断学の先生に、毎回、数十枚の顕微鏡写真スライドを全員同時に見てもらい、たちの悪いがん、ふつうのがん、よいがん、を診断する基準を作成してもらいました。病理診断の専門家の集まりといえども、最初のうちは、診断がなかなか一致しません。同じスライドを見て、たちの悪いがんという答えと、ふつうのがんという答えが、半々ということもありました。会を重ねていくうちに、一致率は次第に向上していきましたが、どうしても主観に左右されるところがあり、完全一致というところまではいきません。そのため、臨床試験では、各病院の病理診断医に診断してもらったものを、あとで、3名がもう一度見直して確認する、という方法をとりました。この時作成した乳がん病理診断基準は、今では教科書にも載っています。当時、ご協力頂いた 病理診断医の先生方には感謝しています。
