視点、論点、問題点


いろいろな考え方、立場、イデオロギーはあるだろうから、一つの事象を一面的に決めつけるのはよくない。かといって、自分はどういう視点からものを言っているか、という自分の立ち位置が全く定まっていないというのも困る。大きな政府、小さな政府という二極でかんがえてみたり、個人主義、全体主義という切り口でわけることもできるだろう。今回は教育の話、ちょっと考えてみた。

 

子供の教育 子供の教育についても、どのような視点で考えていくか、という立ち位置は難しい。自分の息子の教育という話と、社会一般の若者の教育というのも、同列、同方向に考えてよいのか、これも意見が分かれる。自分の息子なら、愛情を注ぎ、お父さんはこう考えているよ、という姿勢を表現すれば、どこかで、いつの間にかしみこみ、たまに見る行動や、ときどき聞く妻を通じて聞く息子の言動から、ちゃんとわかっているな、と感じることもよくある。

 

自分の場合 高校の頃から、受験勉強の合間に1階に降りていくと、父が夜遅くまで医学書を読んでいた。Z会の英語添削で分からない、全く理解できないような長文問題を父に「これ教えてよ」というと辞書も引かずに「これはこういう意味だ」と大筋を教えてくれた。そして「細かいことは自分で文法書を読んでごらん、きっと書いてあるよ、それでわからなかったら朋三さんにきいてみな。」というような大局をみるような勉強の仕方を父は教えてくれた。ちなみに朋三さんというのは浜松西高の英語教師で私が英語を好きになるきっかけを与えてくれた恩師である。父が学生時代に通っていた英語塾(斎藤塾)の後輩でもある。父は気になるところがあると、Websterの英英辞書をもちだしてきて、自分で納得がいくまで調べていた。数日後に「この間の英語の解釈だけどさあ」とこっちが、「なんだっけ」と忘れてしまったことを、いろいろと解説してくれることもあったが、息子としては、「それはもういいよ」みたいな、よその大人には言わないような身勝手ことを言ったこともあった。

 

宮仕え 父は常々、「宮仕えは一度は経験しておく必要はあるが一生やるもんじゃあない」と、公務員生活は重要であるかもしれないが、基本的にばからしいこと、ということを私に教えてくれたので、私もその通りの考えになった。また70才を過ぎて、勲何等とかいう勲章をもらったときも、こんなものはどうでもいい、というようなことを言っていた。「勲一等とか、勲五等とか、それ、どう違うの」と聞いたら、「まあ、そうだな、天皇陛下にどれほど近いか、っていうことだな」と皮肉っぽく言った。「天皇陛下に近い方がいいわけ?」と聞くと、「そう思っている人間もいるっていうことだ」と、世の中には、つまらない人間がいるんだ、って言うようなことを教えてくれたので、私もその通りの考えになった。学会とか班研究とかでいろいろな先生の発言を聞いていると確かに中には、天皇陛下が一番偉いんだ、みたいな考え方がしみ込んでいる人がいて「厚労省のお役員、かれは、確か東大を出た方で、若いのに、ものははっきりいう人ですが、その方のお墨付きを頂きましたし・・」、とか、「がんセンターのお若尾い先生ですが、情報のトップの先生も出席されますから・・」とか、いかにも田舎侍チックで、ばからしい、と思うような活動に無駄な税金が使われているような気がすることがよくある。よくみんな黙っているなあ、と思うが、黙っていれば研究費が降りてくるという仕組みもあるのだろう。

 

よその子の場合 浜松医大に講義に行く仕事も増えてきて、昨日は臨床薬理で、細胞毒性抗がん剤、分子標的薬剤、をそれぞれ1時間30分かけて講義した。細胞毒性抗がん剤では、作用機序毎にざっくりと分類して大枠をおぼえておいてね、副作用が強い理由はこういうことだよ、タキサンでどうしてしびれるか分かる人? 吐き気はこういうメカニズムでおきるんだよ、好中球減少、悪心・嘔吐などの副作用対策が重要だよ、抗がん剤は確かに副作用は強いが腫瘍内科医が手掛けるとそうでもなくなることもあるよ、それと忘れてはいけないこととして、緩和化学療法っていうのも重要だよ、SSさんの話を紹介するよ、癌の種類によって、抗がん剤の効果もいろいろなんだよ、中には、従来の細胞毒性抗がん剤ではどうもならないような疾患もあるけど、分子標的薬剤がめざましい効果をあげている領域もあるよ、この続きは、2時間目でね、20分休憩します・・。ここまでは朝850分からだったので、前半は出席者は後ろ半分ぐらい、前から数列はがらがら、で、途中で入室者、ぱらぱらとあり、でもその頃には、寝ている子たちが結構目立つ。休憩前に「お休みになっている学生さんはそのままお休みください」と、皮肉を言っても馬馬耳東風。講義で寝ているのは許せない、というスタンスで何回もこのブログのテーマになっている。講義をする立場に立ってみると、一生懸命新作ネタをいれて、スライドを作り、ストーリーを考えて準備して、忙しい外来を田原先生にお願いね、と頼んで、前の日にスライドまだですか、と催促されて、昼休みも取らずにスライド完成させて秘書さんに送り、講義が終わって帰ってきて昼休み返上で外来をやってそのまま東京に行き会議に出て・・・、と、こんなに一生懸命やっているのに、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、学生教育はなとら~ん、ということになる。教育する立場に立ってみると、国立大学の学生教育として、医師一人を育成するのに、三億円かかる。自分たちの教育にそれだけの税金が投入されているという事実を何と認識するか、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、一体、何を考えているんだ~、ということになる。学生の身になって将来を考えてみると、若いうちから授業中に居眠りする習慣をつけると一生居眠り人間になるよ、がんセンターの総長やったようなえらい先生も会議中、講演中、良く寝ているもんね、それとね、せっかく講義で、いろいろと新しいことが勉強できるんだから、その講義で寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、していたら、時間の使い方が下手だよ、もったいないと思うよ。同じこと、自分で勉強しようと思ったら、何十倍も時間がかかるぜ、それよりは、びしっと集中して聞いていれば、いいんだから、講義はもっと大切にするべきだよ、ということになる。

 

よその子の教育の提案  外部から先生が来てくれたら失礼のないようにご挨拶しなさい、とか、元気よく手を挙げて質問しましょう、とか、小学生でも教えていることだ。それが大学生になると突然出来なくなるのは浜松医大だけの話だけだろうか。いやいや、きわめて優秀な学生の集まる我が故郷の医科大学だけ、ということはないはずだ。たまたま、この学年だけだろうか? いやいや、去年もおととしもその前もそうだった。ということは中学とか、高校とかの教育が悪いのだろうか。たぶんイエス。とくに受験勉強だけやっていればいい、父親と話をする時間もない、母親も放任。こんな若者が大学には受かったけれど、人間教育が欠落したまま医師の道を歩み始めるからこんなことになるのだ。学生のうちは、人に迷惑をかけないから、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったりしてもいいかもしれないが、医師になって人を助けなくてならない立場になって、それで、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、しているようでは、ちょっとまずいだろう。こういう教育のために大学生になったら半年ぐらい小学校にいく、というのはどうだろうか。それは冗談としても、研修として、社会人としての心得や接遇を医学生には、早いうちからたたきこむ必要があるだろう。

 

2時間目 分子標的薬剤 細胞毒性抗がん剤治療には当然限界もあるので、分子標的薬剤に対する期待も大きい。作用機序が選択的だからといっても、副作用は結構強く、皮膚障害とか、肺、心臓障害も時に重篤となる。でも、ハーセプチンの開発にたずさわって以来、やっぱり、夢を感じる。講義では、ハーセプチンの乳癌治療と、胃癌治療の話、これは、赤い鳥小鳥、なぜなぜ赤い、赤い鳥小鳥、赤い実を食べた、ということで、HER2陽性ならハーセプチン、乳癌だから胃癌だから、ということは関係ないという話。EGFRに関連して、山本信之先生に頂いたイレッサのスライドや、大腸がんの分子標的薬剤の話では嶋田安博先生にスライドを頂いた。これらを駆使して分指標的薬剤の話を組み立てた新作ネタを披露した。2時間目なので、お寝坊したお友達も、続々集まってきて、昼食までの時間、さすがに教室は満席である。空腹だから居眠りもしない。20分を残し1130分に終了、質問があればどうぞ、といっても手を挙げて質問する子供もいないので、質問がある方(子)は、前に来てください、と、臨床薬理の渡邊裕司先生も一緒に前で立っていてくれたが、ひとりの学生が副作用のことを聞きにきただけで、あとの子は、挨拶もしないで、ありがとうも言わないで、眼も合わせないで、会釈もしないで、教室を出て行った。

 

急いでオンコロジーセンターに戻って外来をやって1410分のひかりで上京、本当かどうか疑わしいが最も大切といわれる厚労科研78番目の班会議に出席し193分のひかりで帰宅。田原先生がしっかりとやってくれるので、あちこちに出向いてもオンコロジーセンター機能は安心だが、今日の午前、午後の外勤は、どの程度、世の中のためになったのか、と考えるといささか後味が悪い。

 

医局の底力


医局に所属しない医師が半数を超える時代になった。しかし、医局員を確保したい大学医局は様々な術策で医局体制を維持しようとしている。ある辺境の大学医局の実態を知る機会を得たのでおひれを大きくつけてお伝えしたい。
事例1 医局に入らずに基幹病院で研修を続けてきたA太郎先生、研修終了後、外科スタッフとして就職したが、救急外来とマイナーな手術しかやらせてもらえず、胃がんとか大腸がんとかいうようなメジャーな手術は医局人事で固まっている医師が独占。これでは外科学会の専門医は取得できないと、A太郎先生は心ある先輩のつてで手術件数をこなせる病院に勤務後、隣県のがん診療拠点病院で乳癌診療経験を積んで相当な実力をつけている。A太郎先生は最初から医局と無関係なので直接医局からの働きかけはない。しかし、A太郎先生が県内に戻ってくるらしい、X病院とコンタクトをとっているらしいという情報を得た医局は、医局長を通じて、X病院の外科部長に「おたくはA太郎先生を採用するらしいが、その場合、今後、医局からは一切、ひとは派遣できないとprofがおっしゃっていますが、よろしいでしょうか?」と圧力をかけているそうだ。X病院としては、大学を敵に回すことは、他の診療科にも影響が及ぶことになるので、今のところA太郎先生とは無関係というスタンスをとっている。しかし、すでに手は打ってあって、医局に所属しない医師、あるいは隣県の大学病院に医師供給源を求めつつあり地元大学の医局の影響力は急激に低下しているという。時代は変化しているのに、それに気づかない医局はいまだに古き良き時代を謳歌しているのだ。
 
事例2 医局に所属することに疑問を感じつつあるY病院のS彦先生、医局の行事にはほとんど参加しないS彦先生の挙動は、医局長も問題視しているようだ。その医局は、関連病院のある街で同門会忘年会をもちまわりで開催するしきたりになっているが、忙しいときに、しかも交通の不便な遠隔地まで行き、会っても楽しくもない先輩から説教を食らうのはまっぴらと、S彦先生は欠席するつもりにしていた。ところが前日に医局長から電話があって「おまえが参加しないというのなら今後、Y病院には、医局からは一切、ひとは派遣できないから、覚悟しろよ。」との恐喝。仕方なく時間をやりくりして参加、夜の宴会では、酒も飲まずに酔っぱらったふりをして、派手なパフォーマンスを披露、同門の先輩らに参加を印象付けたのち、夜中に車を運転して帰ってきたそうだ。
 
医局に所属していれば無能な人間でもどこかの病院に就職口を斡旋してくれるなど互助会組織である医局の団結力は、かつては二所ノ関一門よりも強かった。しかし「人を送らないぞ」という殺し文句が通用しなくなりつつある現在、医局の求心力は急速に低下しているのは間違いない。いままで、医師の活力ある移動を阻み、医療の均てん化を妨げてきた医局の完全崩壊は全国的に進んでいる。新しい時代に医師になる人たちは、よっぽどしっかりと自分の将来計画を立てなくてはいけないだろう。どうにかなるさ、は通用しない。もう、医局はあてにならない。
 
(古き良き時代)
 
 
 
 

大凶の一日


温泉セミナーの話題が突然消えたことに着目して「どこかから圧力がかかったのですか?」という質問も来ましたが、それはそれとして今日は試練の一日でした。通常の金曜日は朝から東京の杏雲堂病院勤務なのですが今日は朝一からC社との打ち合わせののちPMDAの対面助言に参加、女性担当者の「お宅の薬は別に世の中にでなくたっていいんですよ。すでにHがあるんですからお宅の薬はなくったって患者はこまらない」という乱暴な助言にこいつはあほかとあきれつつ怒りつつ。終了後時間もあったので、かつて歩きなれた虎ノ門から霞が関まで官庁街を歩きました。省庁から湧いて出てくる大役人、小役人はうだつの上がらないネクタイ姿。自民党時代なら国民を見下していたのかな、というような40代的課長補佐的お兄さんも民主党になって干されているのだろうか、どことなく活気がない。そんな暗黒の街で唯一の感動は盲導犬に導かれた小柄なおじいさんとのつかの間の出会いでした。厚労省前の歩道、盲導犬のラブラドールレトリーバーくん、なんか歯切れの悪い顔で私のほうを見ていました。おじいさんももてあましているようでしたので、「何か、お手伝いしましょうか?」と尋ねるとおじいさんが「ここらへんに植え込みはありますかな」と。愛犬家の私にはすぐに状況がわかりました。おじいさんの手を引いて、こっちですよ、と教えてあげると犬も来て、植え込みにたっぷりとおしっこをしました。すっきりとしたラブラドールくん、おじいさんを軽快に導いて、地下鉄の駅に降りて行き、新宿方面の丸ノ内線にのって行きました。ロビンも盲導犬になれるかと考えてみましたがやはり豆柴は不適格のようです。それで杏雲堂病院で外来と病棟回診とセカンドオピニオン。終了後今日は聖隷浜松病院でSPIKESの講義を頼まれていたので大急ぎで東京駅へ。するとなにやら様子が変です、改札は黒やまの人だかり。マカロンを買ってからホームに上がると5時なのに2時3分のひかりがまだ止まっています。そうです、架線事故で新幹線運転見合わせ中。復旧のめどがたたないそうで聖隷の講義はキャンセル。満員の新幹線、8時に浜松にもどり、明日の岩手講演のスライドを準備して、今日のいやな出来事を一気に書いちゃおっということで読み返しもしないで記事の投稿をクリック。また、どこかから電話がかかってきて「あれはまずいぞ、すぐに消してくれ」といわれるかもしれないけど、それはそれとして明日の温泉を楽しみに、今日はこんなところでアンニョンヒケセヨ!

JALはなぜ倒産したのか


JALは経営効率とか経費節減とかそんな感覚が全くなくてもOKという時代に出来上がった会社であるので体質的にめちゃめちゃ無駄も多いようだ。一例をあげると航空機はB747 ,737、エアバス300など、11種類を飛ばしているので、訓練用のシュミレーターも11種類必要だし札幌―東京で747を運転したパイロットが午後の東京ー福岡便はエアバスを運転するというわけにはいかない。747だけ、エアバス300だけ、とパイロットもたくさん抱えておかなくてはならない。JALは国のお金で長らく運用されていたのでボーイング社だけから機体を購入すると癒着だ何だとさわがれるのでまんべんなくいろいろな機種を取りそろえるという感覚だったのだ。それが世の中の考え方がだんだん変わり、サーズだテロだと航空機利用者が減少し、さらに一昨年からの世界的不況でJALはついに倒産までおいこまれたのだ。JALのストーリーを見ていると国立がんセンターの古き良き時代を過ごした私としてはそっくりじゃん、という感じがする。
国立がんセンターは経営効率とか経費節減とかそんな感覚が全くなくてもOKという時代に出来上がったナショナルセンターであるので体質的にめちゃめちゃ無駄も多いようだ。一例をあげるとエコーなどの診断機器は、は東芝 ,日立、シーメンスなど複数の機種が使用されている。そのため、メンテなど複数契約が必要で、使い勝手もちょっとづつ異なり、結局使われなくなった機械が廊下の端にほったらかされている。国立がんセンターは国のお金で長らく運用されているので1社だけから機器をを購入すると癒着だ何だとさわがれるのでまんべんなくいろいろな機種を取りそろえるという感覚だったのだ。研究費も「来週までに三億円の研究費の使い道を考えてこい」みたいな話があったり、研究費でコンピューターが無限に買えたり使い道に困って無駄なソフトをたくさん購入したりとそんな時代もあった、と聞いている(おっと(-_-;)。それが世の中の考え方がだんだん変わり、ナショナルセンターといえども、経営効率を考えろという話になり医療収益をあげろ、無駄な出費は削減せよ、という話になってきた。とは言っても、所詮、おままごとで、親方日の丸なので、経費削減ごっこをしていればよかった。4月から独立法人になって「がん研究センター」と名前が変わる。しかし最近のごたごたで病院には優秀な人材があまり残っていないようだ。組織は人なり、というが、がん研究センターがJALになるかならないか、飛ばしながら再建できるものなのか、今後の展開に大いに注目したい。
 
 

新年から始めた事


昨年9月、施設内情報共有システムとしてsmall buisiness server, SharePointを導入した。年末になってようやくいろいろな不具合がどうにか解消され、自前のメールサーバー、hhttpサーバーなどが稼働しはじめた。これでNPO法人がん情報局の情報発信機能もさらに向上することだろう。さて昨年の反省「勉強がたりない! いっかーん」に基づき新年からジャーナル倶楽部とイチモク会を始めた。ジャーナル倶楽部は中身の濃い抄読会をめざす。今までありとあらゆる抄読会を経験してきた。一番印象深かったのは、米国留学中に参加した、EGFの発見者であるスタンレーコーエン博士(ヴァンダービルト大学、1987年ノーベル賞受賞)のラボで開催していたジャーナルクラブである。スタンレーコーエンが解説する論文の徹底的読みこなしで、論文ってのはこうやって読むんだ、目からうろこどころではない、深い読み方を学び、その後10年、EBMの学びにつながったのだ。形だけさらさらと読んだことにする抄読会もあれば、負担が大きすぎて長続きしないものもあった。そこで時間、進捗にとらわれず、徹底的な理解を目指した抄読会というのをやりたいとおもった。今回の論文に関連して読んだ「小さなちいさなクローディン発見物語(月田承一郎著、羊土社)」は感動のサイエンスドキュメンタリーである。今年の推薦図書一号です。それと「イチモク会」は、第一木曜日に行うマンモグラフィ読影会。この業界では誰もが一目置く吉田雅行先生をお迎えしてのマンモグラフィ徹底的勉強会だ。単なる影絵を解釈するような、そんじょそこらのありきたりの読影会とはわけが違うんでい。読影の専門家と治療の専門家のコラボなのだ、当然、画像をみて治療のリコメンデーションまで決めてしまうのだから多少の無理は承知のうえ、画像からERは陽性でしょう、ということまで言い切ってしまう。他施設からの参加もウェルカム、カムカム。社保検から参加した技師さんからのメールでは「楽しかった」とのこと。ほんとうは「勉強になった」という感想が望ましいのだが。というわけで2010年第1週も躍動の中で終了した。明日は釣竿、電動リールなどを買いにいりべといくべ。

暮れゆく2009年


サンアントニオから帰ってからの12月の日々はあっという間に過ぎ行き、昨日で浜松オンコロジーセンターも仕事納めでした。世の中の不況の波は医療機関にも及びましたが浜松ではホンダ、スズキ、ヤマハなど、輸出製造業の下請けがとりわけ深刻な経営危機に陥り、これ以上ホルモン療法は続けられない、通院できない、抗がん剤治療は無理、という患者さんも少なくなく当院の医療収益は今年も全然好転しませんでした。そもそも10年間も保険診療点数が減り続ける反面、医療機関には医療安全、説明責任、法令順守、チーム医療、包括医療、入院期間短縮・・など、医療の質の限りない向上が求めれれ続け、わけのわからない医療機能評価をうけることが、なぜか義務のようになっていて、そのために数カ月間の準備と数百万円と支出が科せられるなど、誰も文句を言えないままに一生懸命に取り組んでいるうちに医療体制も医療者の心も崩壊し、医療不信による社会不安が足首から膝のあたりまで押し寄せてきているように感じます。医療機関として取り組まなければいけないことは明らかであり、医療は基本的に社会活動であるので自分の都合を優先させてはいけないことも当然なのですが、どうも、自分の都合だけで動いている人々が目に付いたのも、このような世知辛いご時世を反映しているのでしょうか。「ミッション・パッション・ハイテンション」は、斎藤孝氏の受け売りですが、医療者として自分に与えられたミッションは何か、をよく考えることが大切だということを改めて思います。個人の人生を優先するか、医師として与えられた、あるいは求めれるミッションを優先させるか、これらを両立させることができればいいのでしょうけど、なかなかそうはうまくいきません。しかし私は「医師として果たすべきミッションを優先させることに自らの生きがいを感じ、それが結果として個人の人生の充実に帰結する。」というのが、納得のいく答えだと思います。そのことを家族も理解してくれないといけない、というか、そのことを同じ目線で理解してくれるようなひとと結婚しなくってはいけないということなんでしょう、大切なことは。ミッションが理解できていれば、そこからは割と簡単で、ミッション達成のためにパッション(情熱)を持てばいいのですが、ミッションが何かをわかっていない人があまりに多いのが問題です。パッションを持っていれば、医療の現場では、対同僚でも、対患者でも、ハイテンションで接するほうがよいのですが、何を考えているかわからないようなひとや、じとっと陰気なひともいて、医療の道を選んだのが間違いだったんじゃないの? と感じるような場面もよくあります。人生はなかなか目論見通りにはいきませんが、その時、その時を「ミッション・パッション・ハイテンション」で切り開いていけば、結果的に、思った通りのの人生だった、と、感じることができるのではないでしょうか。2009年は、めまぐるしく過ぎて行きましたが、2010年は一体、どんな年になるのか、先行き不透明ではありますが「ミッション・パッション・ハイテンション」の微分と積分で乗り切っていこう、と思います。

旗色悪し分子標的薬(アバスチンの巻)


分子標的薬剤として、期待されているビバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、モテサニブと、乳癌でも検討がすすんでいるが、いずれも旗色がわるい、という発表が相次いだ。ビバシズマブは血管新生促進物質であるVGEFに対するモノクローナル抗体である。日本では大腸癌と肺癌で承認されており次は乳癌だぞ!、と期待だけはやけに大きい。理屈通りの効果が現れて感劇を覚える人は多い。乳癌でも承認が激しく待たれるという雰囲気を虫害山蛾あたりは醸し出しているが続々発表されるデータにスティーブンボーゲルでなくても首をかしげてしまう。
AVADO試験はイギリスのマイルズが発表した。転移性乳癌で初回治療として、ドセタキセル単独 vs. ドセタキセル+アバスチン体重当たり7.5mg vs. ドセタキセル+アバスチン体重当たり15mg の盲検化ランダム化比較試験。この結果、生存期間に全く差がなかったという結果であった。大山鳴動してネズミ一匹、という感じでちょっとがっかりだ。
 
RIBBON-2試験はアメリカのブラフスキーが発表した。転移性乳癌の2次初回治療として、抗がん剤単独 vs. 抗がん剤+アバスチン体重当たり5mg/週 のランダム化比較試験。抗がん剤は、タキサン(パクリタキセル週1回または3週1回、ドセタキセル、アブラキサンなど)または、ゲムシタビン、カペシタビン、ナベルビンなどOK。この結果、生存期間に全く差がなかったという結果であった。これもがっかり系結果だ。アバスチンは、この2本のほか、E2100、RIBBON-1試験があるが、いずれも生存期間に差はない、という結果である。いずれの試験も、効果持続期間には有意差あり、ということだが、薬剤としてどのような意味があるのか、ニューヨークでオンコロジークリニックを開業するスティーブンボーゲル先生も、スローンのクリフハディス先生も、生存期間延長効果のない薬剤は、意味がない、ぐらいのことを言う。私も、それに近い意見である。しかもアバスチンはべらぼうに高い。50kgの人だと、250mgを2週間に1回使用、1バイアル100mgなので、3バイアルを月に2回使用することになる。そうすると1バイアル5万円なので、1か月で30万円だ。それで生存期間延長効果がない、ということになると、どうかなあ・・。1バイアル1万円ぐらいならよいかなあ・・・。高いなあ・・・。という感じ。(以下次号)

サンアントニオケースディスカッション


今年もケースディスカッションは健在だ。司会は昨年同様ジェニーちゃん(腫瘍内科医)、パネリストにはポールゴス(腫瘍内科医、MA17などで有名)、ジョイスオショウーネッシー(腫瘍内科医、いろいろで有名)、マイケルディクソン(エジンバラの乳腺外科医だが薬物療法の発表をする)、トーマスバックホルツ(MDアンダーソンの放射線治療医)、ウォルターヨナ(キールの婦人科、ZEBRA TRIALで有名)、ウェイヤン(MDアンダーソンの画像診断医)の面々に加えて患者さんひとり。

 

今年は、プログラムにもしっかり掲載されたためか、聴取は大変多い。相変わらず音響効果の悪いBallroom Aでの開催である。

 

症例 ① 52才女性、2002年に2cmの浸潤性乳管癌(グレード2)、ER陽性、PgR 陰性、再発後の測定してHER2過剰発現あり。術後ケモはFEC→タキサンで、そのあとタモキシフェン継続していた。2005年に肝臓に12mmの転移あり、HER2 陽性だったのでハーセプチン開始しホルモン療法をアナストロゾールに変更。2年ぐらいで肝転移はCR、脳転移もなしで4年経過。さて、質問者は「この症例は治るでしょうか?」と問うた。パネリストからは、治ることを期待はしたいがわからない。アナストロゾール、ハーセプチンを継続するのがよいでしょう。ということで大体一致した。

 

私だったら肝転移が出た時点で、まず、アナストロゾールに変更しただろう。それで、効果がなければハーセプチン+化学療法を選択すると思う。タンデム試験で示されたように最初からホルモン+ハーセプチンを併用すれば腫瘍縮小効果は高く、効果持続期間は長い、ということなので、同時併用という手もあるが、どちらが効いたのかが分からなくなるから、やはり、アナストロゾールへの変更で経過を見るだろう。しかし、ER陽性、PgR陰性ということだとホルモン療法の効果の期待は低いか、すると、ハーセプチン単独で開始という手もあると思う。

 

症例 ② 27才女性

肝転移、骨転移、脳転移を伴うstage IV乳癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。抗がん剤としてアンソラサイクリン、タキサン実施てある程度病状はコントロール出来ている。局所は、皮膚変はあるが腫瘍は蝕知しない、という状況、さて、質問者は「原発病巣の手術は必要か?」と問うた。パネリストからは、局所コントロールが必要ならば手術をするがその場合には、preserve shape(形を残す)ということを考えて最小限の切除のとどめるべきであるという意見。また、ポールゴスは、ホルモン療法をしっかりとやるのがよい、ホルモン療法がunderutilizeの傾向にあるからと。また、ビスフォスフォネートを勧める意見もあった。

 

私もパネリストの意見にほぼ同感である。最近、わけのわからない外科医がほざくような、遠隔転移があっても原発病巣は切除した方がいい、という意見はでなくて、むしろ、バイアスのかかった検討結果なので、局所コントロールが必要ならば局所の切除をするのがよい、という妥当な意見であったので安心した。

 

症例 ③ 47才女性 高血圧症、肥満あり。右乳癌(T2N0M0)で乳房切除術、センチネルリンパ節生検実施したところ、isolated single cellあり。ER陽性、PgR陰性、HER2陰性。OncotypeDxでは中間リスク。TC4サイクル後タモキシフェン内服。2年後に腋窩リンパ節転移あり、腋窩廓清し10個以上陽性であった。今後、放射線治療を行い、AIに変更する予定。さて、質問者は「AIを開始する前に化学療法をやるかどうか?」と問うた。パネリストの意見は様々であったが、オショウネッシーは、ゼローダをやると。局所疾患であるので、治癒を目指した局所療法をきちっとやるのがよいという意見。放射線の照射野は、胸壁にもかけるか、腋窩だけにするか、鎖骨上はどうするか。反対側はMRIで診ておく必要があるか、ないか、というような議論が続いた。

 

私の意見は、ケモはやらない。AIに変更して経過を観察し、遠隔転移などで増悪してきたらMPA,に変更、その次にケモという選択になるだろう。局所については、胸壁に照射する意味はないようが、腋窩、鎖骨上への照射は必要だと思う。

 

症例 ④ 56才女性 検診で石灰化で見つかった。部分切除をおこない2.8cmの乳癌、大部分はDCISだが5か所に1mm以下の浸潤がある。triple negative、腋窩リンパ節転移陰性。さて、質問者は「ケモはやるかやらないか?」と問うた。パネリストの意見は、一致してケモはやらない、というもの。オショウネッシーは、HER2 陽性のようなaggressive biologyなら、ケモ+ハーセプチンはやる、といった。

 

私の意見としては、ケモはやらない。もし、HER2陽性の場合、これは、aggressive biologyだから、というのではなく、効果の期待できる治療があるから、という理由で、ケモ+ハーセプチンをやる。微小浸潤癌の全身治療は悩ましい。

 

症例 ⑤ 64才女性 胸壁と腋窩の腫瘤で発症。調べてみると、胸壁の腫瘤は、ectopic breast tissueで、腋窩は転移である。ステージはT4 N1M0 stage IIIBということになる。組織型は小葉癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。本来の乳房には明らかな腫瘤はふれない。さて、質問者は「どのような治療がよいか?」と問うた。パネリストの意見は、TACあるいはFACweekly paclitaxelなどによる化学療法を行い、放射線照射、場合によっては、手術。局所疾患であるので、curative intentで臨むべきだ、というポールゴスの意見

 

私の意見も同じである。治療を考える際に、全体計画をたてることが大切で、基本的に、治癒をめざす治療をくみたてるのか(これをcurative intentで臨むという)、あるいは症状緩和、延命をめざすのか(これをpalliative intentで臨むという)を、しっかりと考える必要がある。多くの外科医はこのあたりの全体計画を立てるという点で弱いようだ。

 

症例⑥ 29才女性、本人はがんはない、というか発症していない。母親が51才で乳癌で死亡、BRCA はわからない。姉妹が乳癌でBRCA1変異陽性。そのため、予防的乳房切除をうけたが、乳癌はなかった。術後深部静脈血栓をおこしたり、感染をおこして右腕のリンパ浮腫になったりという状況だった。さて、質問者は問うた、「予防的卵巣摘出除術はどうするか、いつやるのがよいか?」と。パネリストの意見では、BRCA1変異陽性は、BRCA2変異陽性に比べて卵巣癌発症の頻度が高いので卵巣摘除は実施すべきだ。ガイドライン的には40才前にやるのがよいだろう。その前に妊娠出産はどうするか、卵巣摘除を行ったらホルモン補充療法をしても既に乳切してあるので問題はなかろう。

 

私の意見、このような問題はあまりつっこんで考えたことがないので、勉強になった。

 

症例⑦ 60才女性 術前化学療法、乳切後の症例。放射線照射をどこに何グレイ、どのようにかけるか、という、インド系アメリカ人の医師からの技術的質問。

 

私の意見、放射線治療の先生、よろしくお願いします。

 

症例⑧ 31才女性 右乳癌4cm大、腋窩リンパ節腫大もある。CNBER 陽性、PgR陽性、HER2陽性。妊娠7週目であることがわかったが、個人的な理由で中絶はできない。さて、質問者は問うた、「どのような治療がよいか、ケモはやってもよいか、ハーセプチンはどうするか?」と。パネリストの意見は、乳房切除術と腋窩廓清をする。センチネルリンパ節生検は、安全性が確立していない。妊娠中期になったら、ACをやる。妊娠中のタキサン、トラスツズマブの安全性は分からないので、分娩後にタキサンとトラスツズマブは行う。

 

私の意見も同じ。妊娠中のケモは、ACをひとり、実施したことがある。今後、イメンドなどがでるが、妊娠中に制吐剤の使用など、どうなんだろうか、勉強する必要があります。

 

今回はこんなところです。

12月10日(木曜日)サンアントニオ1日目


 

午前中のgeneral session1全体的な感想は、 閉経後のアロマターゼ阻害剤データの焼き直し、再解析のようなものばかりで低調である。拍手もパラパラという感じ。最後の2演題は乳癌術後にアルコール多飲は再発率が高くなる、術後の肥満も再発率が高くなる、というもの。どちらも術後の女性にとっては切ない話だ。

 

   TEAMトライアルの解析結果が発表された。TEAMトライアルはエキセメスタン5年と、タモキシフェン2.75年→エキセメスタン2.25年の途中スイッチの比較。当初は、エキセメスタン5年対タモキシフェン5年を比較する予定だったがATACBIG1-98の結果が出たので途中切り替えに変更となった。10000人近い症例を対象にしたこの試験、日本からも自治医大の穂積康夫先生が頑張って200人ぐらいの症例登録をしたグローバル試験である。それで、大きな期待を寄せたのだが・・・・、OSDFSRFSも、いずれの指標でも「差がない」、という結果だった。がっかり、というのか、なんだったのかというか、なんとなく虚無感が残る。副作用のプロフィールはAITAMのそれぞれの特徴がでているが、新しいことはなにもない。BIG1-98試験では最初2年間TAMだと再発が増えてしまうので、最初の2年はどうかひとつレトロゾールで、ということだったが、TEAMトライアルではそれが再現されていない。どちらが正しいのか? TEAMトライアルの方が症例数が多いが、BIG1-98試験ではダブルブラインドでやっている、と、試験のデザインには一長一短があるが、いずれにしても、TAMAIは、確かに差はあるが、その差は、意外と小さいということなんだと思う。

 

   IESのフォローアップ解析の結果が報告されたが、目新しいこことは何もなかった。

 

   MA17試験の閉経前症例だけについての検討。MA17試験は5187症例を対象に TAM5年の後でランダム化割り付けして、レトロゾールを5年内服する群とプラセボを5年内服する群の比較で、レトロゾールを追加した方が再発率が低下する(ハザード比0.61)という結果だった。この試験は、TAM内服開始の時点では、まだ試験の対象ではなく閉経前でも閉経後でも、とにかくタモキシフェンを飲み始めて、5年の間に閉経すれば試験の対象となる。TAM内服開始時に閉経前だった889症例を対象にサブセット解析をしたのが今回の報告。結果は、ハザード比0.2595%信頼区間0.12-0.51)と、大きな効果が得られた、というものである。内分泌学的にどんな意味付けができるのだろうか、と考えてみたが、ちょっとわからない。やはりサブセット解析だし、症例数もそれほど多くないので、この結果は、この結果として記憶にとどめておいて、おもちかえりメッセージは「タモキシフェン飲み始めのころは閉経前の患者でも5年飲んで閉経したような場合、AIを追加してもいいみたいよ。」ということでどうだろうか。

 

   MA27試験の対象患者で、関節痛などの副作用の強い患者は、とくに効果がよいということはなかった、というのが次の発表。これは、ATACトライアル参加症例について、統計家のJack Cuzickが、「関節痛、ホットフラッシュなどの副作用が強い患者は再発率が低い。」という結果をLancetに報告したものだから、副作用に苦しむ患者は、「がまんしなさい。薬が良く効く証拠だから。」と、治療継続を主治医から勧められるという根拠となっている。今回の発表の結論も、臨床医は、患者に治療の話をする際に、副作用がでるのはいいことだ、みたいなことは言わないように、というもの。

 

   同じくMA27試験で関節痛がでた患者、出なかった患者で、なにか遺伝子に差はないか、ということで、SNPs(単一ヌクレオチド多型:遺伝子の塩基ATGCの並びのなかで、どこか一個が別の塩基に置き換わっていること)を調べたところ、14番目の染色体に4か所のSNPsが見つかったというもの。そのうちの一つは、TCL1Aと呼ばれるもので、T cellの働きの制御に関係しているらしい。また、別のSNPsは、エストロゲン受容体の機能に関係しているものが見つかった。場所がきまれば、SNPsの検査は、数百円でできるような臨床検査になる。そうなれば、副作用の出やすい人、出にくい人、を事前に識別することができるだろう。SNPsも治療で治る人を識別できるぐらい信頼できる検査になればいいとおもう。

 

   次の演題は、BIG1-98試験の解析方法についてのもの。ご存じのように、BIG1-98 は、途中でレトロゾールの方が良く効くという結果が公表されたので、タモキシフェン群に割りつけられた被験者の25%が途中でレトロゾール内服に移った。そのため、ITT解析(言った通りの解析)と、打ち切り解析の2種類の解析方法で、二回目の検討がおこなわれた。しかし、演者は、「最近の試験では、このような変更がおきることが多いので、統計解析もITT解析から新しい解析方法へパラダイムシフトをしないといけない。」ということで、Inverse Probability of censoring weighed analysis(IPCW)という方法が紹介されて、それで解析するとこうなる、という発表。私たち臨床医は、治療をしなかった患者も含めて解析するのはしっくりこないと思いつつも、統計家の先生が、ITTじゃないとだめだ、というから、一生懸命ITTになじんできたのでが、また、わけのわからない解析方法が導入され、それになれろ、というのでしょうか?統計家の声は神の声。ときには神もへんなことを言う、という話だ。

 

   アルコールを飲むと乳癌になる、あるいは、乳癌術後のアルコールを飲む人は再発しやすい、という研究は山のようにある。今回は、どんなアルコールを飲むと、再発がふえるの、死亡率があがるの? どんな人にその影響があるの? という発表。ワイン、ビール、その他の中では、ややワインが悪いらしい。日本酒はどうか、ということはわからないので、当面は、日本酒を飲みましょう、という結論ではありません。

 

   肥満の人は、乳癌再発率が高い、というのが、次の演題。BMIBody Mass Index)が30以上のひとは25以下の人に比べて、再発のリスクは1.6倍だそうです。すると、アルコールをやめて、体重を減らす方が、アロマターゼ阻害剤を内服するよりも再発抑制効果が高い、ということになる。できるかできないかは別にして、どうでしょうか、少し頑張ってみますか。

 

 

午後 general session2

午後245分からのこのセッションは、日本時間で朝の5時ぐらい、しかも、食後なので気づくと眠りに落ちているという危険な時間帯だ。隣にいるホズミンも今のところ、覚醒しているようだ。さあ、元気出して聞こう!

 

最初の2演題では「ビスフォスフォネートを飲んでいる人は乳癌発症率が低い、という研究結果が発表された。一つは、コホート研究、他はケースコントロール研究である。ハザード比はどちらの研究も0.7ぐらい。昨年発表されたABCSG12試験は、乳癌術後に、ビスフォスフォネート(ゾメタ)を注射する人としない人をランダム化比較したところ、注射した人では乳癌再発率が低い、ということであるが、今回の二つの検討は、ビスフォスフォネートを1年以上内服している女性は、乳癌になりにくいという結果である。ABCSG12と同列に考えていいような気もするが、ちょっと違う話のような気もする。違うというのはこういうことだ。今回の発表では、「骨粗鬆症があるのでビスフォスフォネートをのんでいた」ような人は、骨粗鬆症がない人に比べて、やや、体格もかきゃしゃだろうし、痩せているだろうし、アルコールもそんなにがんがん飲まないだろうし、もともと、乳癌発症リスクが低い。そのような人が「ビスフォスフォネートを飲んでいる」ということで検討されたのかもしれない。つまり、もともとなりやすい体質という事実と、ビスフォスフォネート内服という事実との交絡の結果とも考えられる。

 

そのあと、ファスロデックスの演題が三つ発表された。この薬剤は、「pure antiestrogen」とよばれ、タモキシフェンと異なり、微妙なエストロゲン作用がなくて、100%抗エストロゲン作用なので、きっと、タモキシフェンよりもすぐれているだろう、ということで、私も国立がんセンターにいたころに、臨床開発(治験)にかなり積極的に関与した。しかし、結局、タモキシフェンとのランダム化比較で効果はタモキシフェンに劣るという結果出た(JCO 2004;22:1605)。ファスロデックスはお尻のほっぺたに月15mlのひまし油にとかした薬を5分ぐらいtかけて力をこめて注射するものだ。患者さんも痛いが打つほうも手がしびれるほど。その時に感じたことは、完成度の低い薬だなあ・・・ということ。そのファスロデックスがよみがえり、アナストロゾールとの併用、投与量の増量などが検討されたが、いずれもしょぼい結果であった。どれぐらいしょぼいかは、アストラゼネカのMRからよくよく話をお聞きになるとよいでしょう。今日はこんなところです。