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時々、診療にかんするおたずねやお問い合わせがこのブログに寄せられます。個人的な内容も含まれているのでここではお答えできませんが、info@oncoloplan.comあてにご連絡だされば、1週間ごとに確認してできる限りお答えいたします。
しゃんしゃん大会
毎年、3月から5月の学会農閑期には東京や大阪の大会場で製薬企業の一大イベント、しゃんしゃん大会が開催される。会場はだいたいプリンスホテルとか、ニューオオタニとか、ホテルオークラなどの一流の華美ホテル。参加者は全国から400名とか600名とか。そのための予算は5000万とか一億とか。コウキョウキもなんのその、それはそれは華やかな目くるめく学術大会だ。このような会はしゃんしゃん大会というのだが、学問とかサイエンスとか、エビデンスとか、そういうものを前面に出してはいけないのだ。会場からの質問も、また、壇上の縁者も、スポンサーよいしょのご祝儀相場で、目的はむしろ終了後の懇親会だったり、そのあとの六本木、銀座、新宿だったり。これについてはコウキョウキがあるのですべて水面下でのネゴシエーションとなっていてMR君と国公立病院医師とが飲み屋で同席でもしていようものなら、たちまち業界風紀委員会であるコウキョウキに違反していまう。でも、民間の大学や医療機関ならコウキョウキは関係ないので派手にやっている。これもひとつの文化であって毎年の風物詩なのでまあ、いいんじゃあないの、という感じだろうか。私は、昔からこの手のしゃんしゃん大会はばからしい、時間の無駄、ポリシーに反する、という感性から、頼まれても、出ないよ、と言ってきた。でも、どうしても、という場合もあり、今回、しぶしぶと、いやいやながら断りきれず引き受けたのが5月の23日。そのパンフレットを今日、MR君がもってきたが、これがごたいそうな装丁のもの。それでその上、ご丁寧に抄録集まで作るというからあきれたが、できた抄録集が自分のところだけ空白だとやや恥ずかしいのでとりあえず字で埋めておいてもらおうと書いたのが以下の文章である。不適切な表現もあるのでおそらく虫害から、強引な改訂依頼がくるだろうけどまずはブログでのお披露目としたいと思います。よっ、しゃん、しゃん、しゃん。
コンセンサス会議の意義の意味
–現場感覚、時代感覚、国際感覚を持って考えよう、最適な乳がん診療を –
浜松オンコロジーセンター院長 腫瘍内科 渡辺 亨
エビデンスが十分にある領域ならば専門家の間で意見が割れるということはないが、非・専門家の間ではさまざまな治療が行われてしまうこともある。非・専門家が専門的治療に従事するというのもおかしな話ではあるがしかたない、それが日本の乳がん診療の現実なのだ。エビデンスが十分にない領域は2種類に分けることができる。ひとつは、「まだ、エビデンスがそろっていない」というもの。新しい薬剤、新しい検査方法、新しい考え方などは、臨床試験が計画されていたり進捗中であったり、現在検討中の諸問題がこれに該当する。他は「エビデンスは今後も出てはこないだろう」というもの。レベルの高いエビデンスが必要ではあるが、実際、臨床試験の実現可能性が低い場合や、エビデンスはいまさら必要ないという領域もあるだろう。
1978年から始まったSt.Gallen Consensus Conferenceは、乳がんの初期治療方法の選択をめぐり最近では2年に一度開催されている。この会議は、世界の乳がん臨床試験グループの代表者が集まり、その時点でのエビデンスを整理し、エビデンスの十分に整った問題のみならず、エビデンスがそろっていない問題について、専門家の意見として、推奨される診療、許容される診療範囲を明確にしていく作業だ。
1992年から導入されたリスクカテゴリーがその後毎回改定されてきた。これは入門編としてはわかりやすいので広く使用され、2007年の第10回ではホルモン感受性、抗HER2療法感受性とリスク(低、中、高)による24病型分類は実用的価値の高いものとして広く受け入れられていきた。しかし、このリスクカテゴリーの考え方でいくと、必ずしも抗がん剤治療が必要ではない患者が抗がん剤治療の対象となる(over treatment)可能性も指摘されており、現行のカテゴリー分類に対して、なんらかのブレークスルーが求められている。近年、欧米においては、MammaPrint®やOncoType DX®などの遺伝子発現分析に基づく予後予測ツールが急速に使用されており、St.Gallen Consensus Conferenceのリスクカテゴリー分類との不一致もしきりと指摘されている。このような流れを受け2009年のSt.Gallen Conferenceでは、「治療閾値(treatment threshold)」という考え方が導入され、リスクカテゴリーというアプローチが姿を消すことになる。現場感覚、時代感覚、国際感覚を研ぎ澄ませながら、乳がん患者に対して最善の治療を提供するにはどうすればよいのだろうか、を消化器一般外科医の皆さんと一緒に考える機会として、今回のしゃんしゃん大集会を活用したいと思う。
なんでこうなるの
リスクカテゴリーからスレッショルドへ
31才 閉経前未婚女性、右乳癌 T2 N0 M0 stage IIA、乳房温存術+センチネルリンパ節生検 、浸潤性乳管癌, ly (-), v (-), SLN 陰性 、t: 12×16 mm、grade 1 、ER: positive (Allred Score 8) PgR: negative (Allred Score 8)、HER2: negative。
さて、このような患者の場合、術後治療はどうするか?
こんな場合、専門家に聞いても半分は、抗癌剤の使用を主張する。その根拠はと聞くと、多くは「若いので予後が悪いからしっかりとした抗癌剤治療が必要です。」と答える。「なぜ、若いと予後がわるいと考えるのか?」
世間には、老人の癌は進行がゆっくりで若者の癌は進行が速いという言い伝えがある。しかし、これは根拠がない。
「ST.Gallenのリスク分類で、35才未満はリスクが上がります。だから、化学療法をしっかりやらなくてはいけません。」というふうに反論される。そこが、間違いだ。このリスク分類から年齢を取り除くべきだ。これが私の考え。年齢だけがリスク因子ではないことは、数多くの臨床研究で間違いない。35才未満でホルモン感受性陽性の場合、卵巣機能抑制を十分に行う必要がある、つまり、LHRHアゴニストをしっかりと使用して卵巣抑制をきかせることが、最初に示したような患者では大切なのだ。今回も、会期中にDr. Gelberと年齢をリスクカテゴリーから取り除くべきだということを相談した。確かにそれはそうだ、ということで、今回、年齢という因子を考慮しない、ということになった。
そればかりか、なんと、長年なじんできたあの「リスクカテゴリー」が消えた。変わって登場したのが、「スレッショルド(域値)」という考え方だ。
域値とはしきい、という意味で、これ以上の値を超えたら、陽性とするという、区切りの値を意味する。しかし、よく考えてみると、グレードにしても、ホルモン受容体にしても、HER2の発現にしても、予後因子、予測因子は、全て連続する変数だ。これを、陽性、陰性、というように「二値化(dichotomize)」して、「二者択一(binary decision)」するのにはちょっと無理がある。しかし、そこをどうにかしよう、ということで、今回導入した考えが、域値(スレッショルド)である。
ホルモン療法を実施するかしないか、のスレッショルドは、「少しでもER染色陽性細胞があれば」とする。術後にハーセプチンを使用するかどうかのスレッショルドは「HER2タンパク強陽性細胞が30%以上あれば」とする。では化学療法はどうか? Triple Negativeならば、ほぼ全ての症例に実施する。HER2陽性ならば、抗HER2療法と併せて抗癌剤を実施。問題は、ER陽性、HER2陰性で、ホルモン単独でよいか、ケモを加えるべきか。というところ。ここが常に問題である。どこにスレッショルドを設定するか。これには、グレード3、Ki67、MIなどの増殖指標が高い、ER,PgR陰性,リンパ節転移4個以上、広汎な脈管浸潤あり、腫瘍径5cm以上に加えて、全ての可能性を試したいという患者の意向を重視すると言うことになる。
患者の意向がしっかりとこのような形で取り上げあげられたのは初めてだ。今回、リスクカテゴリーからスレッショルドという考え方に移行するが、これを使いこなすには中級者以上の乳癌診療力が必要だ。初心者、すなわち、一般消化器外科の先生がた(消一くん)は、乳癌薬物療法を取り扱うことが少し難しくなるだろう。詳細は、4月3日、福岡の外科学会のランチョンセミナー(スポンサー:アストラゼネカ)で解説するので、多数ご参加ください。
しかし、初心者にとって難しいのは、当面の数年で、MammaPrintなどの予後診断検査が普及すれば、だれでも、消一くんでも、簡単に判断ができるようになる。したがって、腫瘍内科医が威張ってこんなブログを書いていられるのもあと数年だろうか、そろそろ転職を考えないとだめだろうか? マンモグラフィ読影の勉強でもしなくちゃだめだろうか、遠藤先生に弟子入りして、チルドレンにしてもらおうか。とにかく時代は音を立てて流れている。日本はますます、世界から取り残されていく。はやくMammaPrintなどの予後診断検査を日本でも臨床検査として、全ての患者に提供できるようにしないとだめですね。米盛勤先生はじめ、行政担当医師の皆さんもがんばってください。
パネリストとして思うこと
パネリストとして思うこと
第11回St. Gallen Conferencesは、2009年3月11日(水)から17日(土)まで、St.Gallen市内の会議場、Olma Messenで開催された。今年は中華人民共和国からの参加者が日本からの参加者を上回り、約5000名の参加者の1割程度はアジアからの参加者がしめた。
今回は、パネリスト間での事前のメールでの連絡が緊密に行われ、コンセンサス会議で討議すべき問題を「10 Areas of Controversy」にまとめた(表1)。
表1 10 Areas of Controversy
1. Surgery: Axilla, Margins
2. Radiation: DCIS, Accelerated, Post Mastectomy
3. Pathology: ER, PgR, Ki67, Grade
4. Multi-gene signatures, Adjuvant online
5. Endocrine therapies
6. Chemotherapies
7. Targeted therapies
8. Neo-adjuvant systemic therapy
9. Fertility
10. Male breast cancer
この10の領域について、予め時間配分を考慮して具体的な質問を作成した。今回も前回と同様、パネリストにアンサーパッドが配布され、これらの質問に粛々と回答して行く、という予定だったが、やはり、前回と同様、質問をその場で作り替えるというような、どたばたもみられた。とくに、質問が、「Should:~すべき」から「Could:~してもよい」に変えられるなど、不適切とも思われる変更にあきれてしまったのは私だけではないはずだ。
今回のコンセンサスカンファレンスをへて、今後の乳癌診療がどのように変わるのだろうか? いくつかのテーマについて、私の考えを述べたい。
基本的な考え方は変わらない
2007年から強調されている「まず、ターゲットを明確にせよ、次にリスクだ」という考え方は今回も変わっていない。今回、ターゲットであるホルモン受容体に基づく、内分泌高度反応性、内分泌不完全反応性、内分泌非反応性の区分について、検討された。その結果、内分泌高度反応性は、ER陽性、PgR陽性細胞割合が50%以上、内分泌高度反応性はER陽性細胞が1%以上、というところに区分線が引かれた。また、HER2免疫染色で強陽性と判定される細胞の割合が30%以上の場合には、トラスツズマブの使用を考慮するという、ASCO/CAPのガイドライン同様の基準が確認された。
St.Gallen2009 リスクカテゴリー分類はこうなる
基本的には2007年のものとかわらないが、リスク評価に増殖の指標としてKi-67ラベリングインデックスが採用となる見通しである。おそらく、腋窩リンパ節転移陰性症例を低リスクと中間リスクに分類する基準の一つとして、Ki-67(20%未満が低リスク、以上が中間リスク)が加わることになるだろう。
もうひとつ、腫瘍径の問題である。現在、腫瘍径(病理学的浸潤径)を20mmで区分し、以上を中間リスク、未満を低リスクに分類している。しかし、腫瘍径が大きくても、他の因子(ホルモン受容体、グレードなど)が良好な場合、必ずしもリスクが高いとは言えない。そのため、腫瘍径は、30mmで区分することになるかもしれない。
複数遺伝子発現解析は、リスク評価を一新するか
米国で開発された21gene recurrence score (OncotypeDX)や、オランダで開発された70-Gene assay (MammaPrint)などの再発リスクを判定するためのMultigene expression assay(複数遺伝子発現解析法)は今回、もっとも注目された話題の一つである。再発リスク評価について、リンパ節転移の有無・個数、グレード、腫瘍径、脈管浸潤の有無などを用いた従来の臨床・病理学的評価方法だけで良いのか、それとも多遺伝子発現解析法を用いる方法を補足的に用いるか、あるいはこれらの方法に完全に置換してよいのか、という点が討議の中心の一つとなった。21gene recurrence score(Oncotype DX)は、米国では、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインにも記載され、一般臨床にも広く使用されつつある。この検査でLow riskと判定された場合には、抗癌剤治療を追加しないということでトータルの支払い額をへらすことができるため、民間の保険会社の大部分は、これの償還を認めている、ということも、普及の追い風となっているだろう。また、70-Gene assay (MammaPrint)は、オランダで開発されたもので米国FDAも承認している。今回のコンセンサスでは、「これらの遺伝子発現解析は、従来の臨床・病理学的評価方法を補完する上で有用である」というようなステートメントになるだろう。次回(2011年)までには、このような評価方法がむしろ一般的になり、各種の臨床試験も、多遺伝子発現解析を前提として計画されることになることが予想される。日本での開発を早急に進めないと、乳癌臨床研究における日本の周回遅れはますます強まり、アジア諸国にも先を越されてしまうこことも懸念される。行政の迅速な対応を引き出さなければいけない。
ホルモン療法に変更はあるか
閉経前症例に対しては、LHRHアゴニスト+アロマターゼ阻害剤の有用性については、慎重論が高まりを見せた。その原因のひとつは、ABCSG12の結果である(○○参照)。標準治療は、タモキシフェン単独という意見が復調し、LHRHアゴニスト+タモキシフェンを上回る支持率であった。この問題については、現在進行中のSOFTトライアル、TEXTトライアルの結果を待つ、という姿勢が支配的である。
閉経後症例に対しては、AIを使用するという意見は増えた。また、使用する場合には、最初から使用するという多く、タモキシフェンを使用した後、切り替えるという意見を上回るようになってきた。しかし、タモキシフェンの意義を評価する意見もまだまだ多く、一時期、言われていた程、タモキシフェンからAIへの主役交代はスムーズには行っていない。
細胞毒性抗癌剤に変更はあるか
使用する薬剤の種類および数、サイクル数や使用期間、などについては、ますます混乱している。アンソラサイクリンは必要か、という問題についても、数多くのサブセット解析がなされているが、未だにアンソラサイクリン不要説は、固まっていない。同様に、タキサンの意義についても、明確な方向性が示されていない。今後、分子標的薬剤が台頭するなかで、細胞毒性抗癌剤の位置づけがどのように変化していくのか、について時代の生き証人として、その推移も見守りたい。
トラスツズマブの使用方法に変更はあるか
HER2をターゲットとした治療が、HER2過剰発現を伴う乳癌を対象として確立した経緯を、我々は同時代人として注目してきた。「まずターゲットを見極めよ」という2007年以来、ずっと底流を流れているSt.Gallenの理念は、可能な限り不要な細胞毒性抗癌剤の使用を回避したい、という姿勢の現れである。そのような観点から、ER陽性、PgR陽性、HER2過剰発現の乳癌にたいして、ホルモン療法+トラスツズマブという選択肢は、当然、追求すべきである。しかし、今回のパネルの意見では、まだ、5割近くが、細胞毒性抗癌剤の併用が必要である、という意見であり、トラスツズマブの使用方法には、まだ、大きな変化は見られていない。
いちばん感じたこと
いつもと同じ感想であるが、やはり、臨床試験を確実に実施し、新しいエビデンスを発信して行かなくてはならないということである。かつては、「日本人には臨床試験やランダム化比較には、適していない」などと言う、日本人特殊暴論が乳癌学会などでも主張されていたが、それは、遠い昔の老人の繰り言である。若い諸君には、世界中で分担してエビデンスを構築していかなければならない、という重要なメッセージをSt.Gallen コンセンサスカンファレンスからしっかりと受け止めてもらいたいと思う。
