コーキョーキ? わけわからん


浜松で研究会、シンポジウムをちょくちょく計画して、がん診療内容の充実を目指している。がん情報局主催でやるにはまだ体力がないし小杉さんも帰ってこないので、当面は製薬企業との共催ということでお願いしている。そこで、必ず出てくるのが、コーキョーキという業界の自主規制。懇親会と呼んではいけない、とか、どうでもいいようなことが決められていて羊のような製薬企業の皆さんはそれに従う。もっとわけがわからないのが、その懇親会・・ではなくって親睦会・・でなくって情報提供書・・・じゃあなくって情報交換会だ、その情報交換会を開催する場所が、これまたコーキョーキで決められているがこれがすこぶるおかしい。研究会なりシンポジウムなりを開催したホテルの中でならよいが、ホテルの外ではいけない、というもの。これはあきれるほどの馬鹿さ加減だ。だれだ、こんなことを決めているコーキョーキの責任者は? おそらく、そいつはホテル業界と裏で癒着しているに違いない、と思われても仕方ないだろう。そもそも岡光とか、貧しい育ちの心のいやしい事務次官がおねだりしたり、たかったりしたせいで、公務員倫理規程ができて、コーヒーは良いが、お砂糖は入れてはいけない、みたいな馬鹿な規定ができた。それに毛の生えたような子供だましみたいな規定が、情報交換会はホテルでやらなくてはいけない、というやつだ。まったく、ボヤキ漫才だよ。

今日の山本君


今日の「最近の話題を語ろう」のコーナーでは渡辺先生がブログで書いていた「エビデンス原理主義」について山本君が尋ねました。臨床試験に関する話題です。 

 

山本君         先生のブログで「エビデンス原理主義」ということばが出ていました。ネットで調べたのですが見つかりませんでした。あれって、どういうことなんでしょうか?

 

渡辺先生       あれは、私の造語だよ。ネットで調べても出てこないさ。臨床試験のエビデンスに凝り固まって、融通の利かない人をそう呼んでいるんだ、最近。イスラム原理主義とか、極端な行動をしているよね、ああいうニュースを見ていて思いついたんだけどね。

 

山本君           はぁ・・、でも臨床試験をきっちりやるとか、それっていいことなんじゃあないんですか。エビデンスを尊重する心が大切だって、渡辺先生、よくおっしゃいますよね。

 

渡辺先生       そうだ、早田一平です。エビデンスは確かに大切だよ。EBMの基本、知っているよね? 臨床試験の結果として報告されているもの、その中で、偶然の結果を見ていやしないか、バイアスが入り込んでいやしないか、この偶然とバイアスをあぶりだすのが、EBMの考え方として大切なんだよ。

 

山本君           それは、よくわかります。「真実・バイアス・偶然」教ですよね、名郷先生の教科書にもでてきます。で、そのようにきちんとエビデンスを評価するっていうことで、その原理主義っていうのは、何でよくないんでしょうか?

 

渡辺先生       あの時の臨床腫瘍学会での議論を聞いていて感じたことはね、こういうことだ。臨床腫瘍学演習というセッションでね、具体的な症例が提示された。そのセッションで解説を担当する先生が、「ある臨床試験の結果を、この症例にあてはめることができるかどうか」を説明したんだ。そのときに彼が言ったのは、この臨床試験は、PS0-2の患者を対象としているので、この症例のようにPS3の患者にはその結果はあてはまりませんって。それで、おいおい、違うだろう、頭使えよって、なったわけ。

 

山本君           えっ、そんなこと、言っちゃったんですか?

 

渡辺先生       そうは言わないさ、大人の見識ってやつさ。あの本、結構いいこと書いてある。口述筆記だけど、養老猛なんかのより、よっぽど、よくまとまっている。おっと、話がそれたが、PSってわかるよね。

 

山本君           Performance Statusですよね。日常生活の活動度を表す指標ですよね。知っています。

 

渡辺先生       PS23の違いはわかるよね。一日のうち半分以下の時間臥床しているのがPS2、半分以上の時間臥床しているっていうのがPS3、終日寝たきりっていうとPS4になる。で、このPS2PS3の堺っていうのは、結構、いいかげんだろう?

 

山本君           そうですね、何となく曖昧な感じですよね。

 

渡辺先生       客観的に臥床時間が何時間と計測しているわけではないし、むしろ評価者の主観がはいるよね、元気よさそう、とか、いきがいい、とか、そんな感じでの区分だから、そもそも、そんな厳密なものではないわけよ。

 

山本君           そうですよね、わかります。

 

渡辺先生       そのようなところで、この結果は、PS3に人には当てはまりません、というのはおかしいだろう。これは、EBMの手法のステップ4になるんだけどね、PS0-2 を対象とした試験だけれども、PS3の患者にも適応できると考えるのが普通だとおもったわけですよ。

 

山本君           それは僕もそうおもいます。でも、じゃあ、なんで、臨床試験の対象患者をPS0-2に限定したのでしょうか。

 

渡辺先生       いい指摘だ。それは、二つ三つの理由があると思う。ひとつは、慣例的に、臨床試験は、PS0-2の比較的元気のいい患者を対象とする、ということが多いからそうなっているという理由、二つ目の理由は、抗がん剤にしても放射線にしても、ある程度、体に負担がかかるよね、そういう場合、あまり、状態の悪い患者が被験者に含まれると、治療完遂率が落ちたり、有害事象が多発したりと、場合によっては、試験が台無しになるので、なるべく状態のよい患者を対象として行う、という風潮がある。特に、薬剤の第II相試験では、薬剤の性能評価が目的のわけだから、効果が出て副作用が出にくそうなポピュレーションを対象とするほうがいいわけだ。三つ目の理由は倫理的な配慮っていうことだと思う。試験の被験者には、あまり病状の重い患者は加えないということね。

 

山本君           PS2以下を対象とするっていうのはそういう理由があったんですね。

 

渡辺先生       あと、臨床試験の「phase」によっても、対象となる被験者のPSについての考え方は異なると思う。第I相試験は、人間で初めて使用するっていう場合もあるわけで、いったいどんな副作用がでるかもわからない、という状況だから、ある程度元気のいい患者を被験者とする、ということから、PS 0-1に限るということがあるよね。逆に、第III相試験となると、薬剤の総合力を見る、なるべく一般臨床に近い状況で見る、得られた結果をなるべく多くの患者に適応できるようにする、ということから、PS 0-3までを対象とするという場合もあるよね。これ、結果の一般化可能性、「 generalizability 」というんだけど、そういう考え方もあるんだ。

 

山本君           あっ、それ聞いたことあります。JCOGの福田先生の講演で聞きました。福田先生も、同じような話をされていました。

 

渡辺先生       そう、彼は僕の弟子だからね。

 

山本君           えっ?? 全然タイプが違うように思いますけど・・・。それはさておき、臨床試験では、適格条件がPSみたいな何となく曖昧なものもありますが、たとえば、白血球のようにはっきりと数で区分できるものもありますよね。その場合は、どうなんでしょうか。

 

渡辺先生       どうなんでしょうか、って?

 

山本君           よく白血球数4000以上を適格とする、というときに、3900ではどうかみたいなディスカッションがありますよね。

 

渡辺先生       わかった、わかった。それね。それは、4000と決まっていることなら、やはり4000以上じゃないとだめだよ。

 

山本君           でも、3900だって、問題なさそうに思いますけど。

 

渡辺先生       そうだよ、問題ないとおもうよ。それだったら、適格基準を3500以上とすればいいわけさ。それでも問題ないと思うんだったら、3000以上でもいいですよ。とにかく、決めたことはきちんと守るし、決めるのも意味のあるような決め方をしなくてはだめっていうこと、わかる?

 

山本君           誰もが納得するようなところに線を引いておくっていうことですよね。

 

渡辺先生       そうそう、それそれ。

 

山本君           あとぉ、先生がブログで書いていた中でわからなかったのがpragmaticな視点も重要、というのですがあれはどういうことですか? 

 

渡辺先生       pragmaticは実際的という意味ね。これは、臨床試験を計画する際に、プライマリーエンドポイントに関する結論がえられるのならば、そのほかの細かいところは、あまり規定しないようにすること、そんなやり方の臨床試験を、pragmatic designと呼ぶんだ。あのブログでこの言葉を使ったのは、昨年8月のニューイングランドジャーナルに肺小細胞がんで、ケモがよく効いた場合、その時点で脳転移がない症例では、予防的全脳照射をやるほうが生存期間が長い、という論文があったね。あれ、読んだ時に、いい論文だなあ、と思っていた。あの論文に対して物知り顔の若者が「あの試験は脳転移がないことを検査するような規定もなくかなりずさんな試験だ、日本でやり直さなくてはいけない。」みたいなことを言っていたんだよ。それでね、じゃあ、具体的に、どうすりゃいいんだ、ということを考えてほしかったわけです。MRIで脳転移の有無を否定することってしたって、造影剤の量によって転移病巣の出方も違うから、造影剤の量まで、規定するわけ? ってなる。つまり、このようなきちきち、こまこま、ちょきちょき、ちまちましたような適格基準をつけることによって、あ~、めんどくさい、あんなめんどくさい試験、かなわんわ、となって、症例登録が進まない、ということになる。それよりは、臨床的に意味のある脳転移がないことが確認されていればいい、とか、症状がなければいい、とか、いう風に決めて、その条件を満たす症例を対象に試験を行えば、得られた結果もgeneralizabilityが高いということになるわけさ。

 

山本君           よくわかりました。そういうことか、そこらへんって、教科書読んでもあまり出ていないみたいだし、なかなか教えてくれる人がいないんですよね。

 

渡辺先生       そーだ、だから、君はここに勉強しに来てるんでしょ。いい勉強してるわけさ。さあ、じゃあ、めし食いに行こう。腹減らない? ウナギいこう。勘太郎ね、予約するよ、0534558823っと。

 

山本君           そこ、結構、最近有名みたいですね。先生のお気に入りだって。

 

渡辺先生       そうだよ、たぶん世界一だよ。他にもあるよ世界一。ぬのはしのかき氷とかね。あれは夏だけどね、絶品だぜ。

 

山本君           じゃあ、夏まで、浜松の研修延ばそうかな~。

 

渡辺先生       そうね、いいね、そうしたら(笑)。

 

この後、山本君は渡辺先生と一緒に、うなぎのしっぽ、肝、骨のから揚げ、うな重・・・と定番メニューを堪能したのだった。山本君はウナギやかき氷につられて研修を延ばすと思われていることにやや不本意さを感じていた。山本君はこんなかたちで生きた腫瘍内科学を学ぶことのできる浜松オンコロジーセンターでの研修を半年ぐらい延ばそうかなぁと、真剣に考えている。空には満月が浮かんでいる。夜桜もきれいだ。ビールもおいしかった。春の夜風はちと寒い。宿舎のdaybaydayに到着した。明日、渡辺先生は横浜に行く。ブレストケアナースの会で、スパイクスをやるそうだ。最近、渡辺先生のナース向けの講演では、厚生労働省医政局長通知「役割分担」を紹介しているようだ。あれって、でも喧嘩売っているようなプレゼンだと思う。以前、静岡での勉強会で、「静脈確保もしないで、何がチーム医療だ!」みたいなこと、渡辺先生言って、静岡がんセンターの看護師長に睨みつけられていたことがあった。」それで、あの「役割分担」通知が出て、ますますテンションあがっているよな。大丈夫だろうか・・。明日も外来研修だ、がんばろっと。

 

エビデンス原理主義か?


久方ぶりに臨床腫瘍学会の討議を聞いた。よく勉強している若手が多いがエビデンス原理主義とでもいいましょうか、「このトライアルは、PS0-2の患者を対象としているんでPS3の患者にはあてはまりません」ってか。もうちょっと脳みそ使ってもいいんじゃないかなあ、確かにエビデンスは大切ですが、エビデンスをどのように使いこなすか、というのも、腕と頭の見せどころではないでしょうか。また、できもしないような臨床試験を主張したりというような場面もありました。pragmaticな視点というのも重要ということを議論する場面があってもよかったと思います。エビデンス原理主義はどうもいただけませんなあ。

たばこ変わらず厚労省


先週、厚生会議があったので厚生労働省に行きました。午前中の外来がちょっと長引いたため、浜松駅→(新幹線)→東京駅→(丸の内線)→霞が関。そして問題のB3b出口。気管支の分枝と同じ名前の出口は皮肉にもあいからわずたばこ臭が染みついていました。午後2時30分だとういうのに、厚労省庁舎東側の中庭に設置されている喫煙所には25名のワイシャツ姿の官僚があわただしく深く紫煙をくゆらせていました。その煙は厚労省の1階ロビーに充満視しています。升添要一厚生労働大臣や柳沢伯夫前厚生老大臣は、庁舎ビル裏側の入口から入るため、たぶん、このたばこ充満状態をしらないのでしょう。灯台もと暗し。ところで、升添厚生労働大臣がマスコミに乗せられて承認させたムコ多糖類代謝異常治療薬「ナグラザイム」の薬価が1本25万円ぐらいに決まりそう。年間患者数はたった3人、しかもこの薬剤の効果は、それほど切れ味が強いわけではないようです。大臣のうけねらいの横車で、ラパチニブなど、順番待ちのほかの薬剤の審査作業が大幅におくれているようです。医薬品機構(PMDA)はとにかく人手不足というか人材不足、これでは仕事が遅くても仕方ないかも。
 

学生の視点


春休みに入って、浜松医大の学生が、毎日2-3人づつ、浜松オンコロジーセンターに外来見学に来ている。4月から5年生になるという学生さん、みんなとても礼儀正しく、取り組みもすばらしい。これは、別に、カリキュラムでもなく、まったくの自発的な見学である。誰かに行け、と言われてきているわけではなく、腫瘍内科って、いったい何をどうするものなのか、見てみたい、知りたい、体験したい、という純粋な向学心から、春休みを使ってきているのだ。朝8時30分から夕方5時過ぎの診療終了まで、診察室にお行儀よく並んで座って診療を見ている。患者さんには、「今日は医大の学生さんが来ています。」と紹介するが、学生は礼儀正しい。患者さんもとても好意的、わが町の医大の学生さん、がんばってね、という感じ。中には、皮膚転移病巣をわざわざ学生に見せて、「もっと近くで御覧なさい。抗がん剤でこんなにきれいになったのよ。」と説明してくれる方もいて、学生にとっては、何から何まで、初めての経験らしく、帰りがけに書いておいていく感想文は、どれもすばらしい内容だ。学生には、かならず、がん診療レジデントマニュアル、SPIKES-BCの本をプレゼントする。指導の基本方針は、薬や病気のいちいちの細かな知識はあまり触れず、添付文書の調べ方、療養担当規則の考え方、治療計画の立て方、など、将来に役立つような、基本的なところを伝授することにしている。旅に出るのに魚100匹を持っていくか、魚釣竿を持っていくか、というたとえは御存知か。細かな知識のブロック、すなわち魚100匹を身に着けても、やがてその知識は、古くなったりして、役に立たなくなる。それよりは、勉強の仕方、すなわち魚釣竿を使えるようにしておけば、必要なときに魚をつることができる。pmdaのホームページで最新の添付文書をダウンロードする仕方を知っていれば、副作用が、既知なのか、未知なのか、すぐに調べられる。未知の副作用がでたら、その時はpmdaに報告しなくてはならない、って言うことも、え、そうなんですか、と学生は初めて聞いて驚くが、一度教えると、一人で、どんどん、添付文書を調べている。自分も、そういうふうにして指導され、そのような指導が一番いいだろうと思っている。学生にとって、臨床の現場を見るのがまったく初めて、と言うこともあるだろうが、朝から晩まで退屈するようなことはないらしい。こちらも、国立がんセンターのレジデント教育で身に着けた指導のノウハウも役立っているが基本的には、「腫瘍内科はおもしろいよ」というメッセージを行動と言動で伝えることが大切だと思う。

研修医 山本君


研修医の山本学君は、腫瘍内科医を目指して勉強中だ。「これからのがん治療は薬物療法だぜ、外科手術はそのうちなくなるよ、とくに乳がんなんて、今でもすでに手術は検査だよ。」って言っている渡辺亨先生の浜松オンコロジーセンターで研修中だ。山本君はよく勉強している。今日もカンファレンスの後の「最近の話題を語ろう」のコーナーでハーセプチンについて疑問に思っていることを渡辺亨先生にぶつけてみた。

 

山本君           乳癌術後にハーセプチンが承認されましたね。これで正々堂々と術後の患者さんにハーセプチンが使えるわけですね。 

 

渡辺先生       そうだ。2005年のASCOで術後ハーセプチンの効果が発表されてから3年近く経ってやっと承認された。遅いね、日本は。

 

山本君           そういう話、あちこちで聞きます。承認された用法を読むと、3週に1回の投与だけなんですか? 術後に使うのは。これって、なんかおかしいですよね。今まで転移性乳がんでは、週1回なんですよね、同じ病気なのに使い方が違うのは、何か意味があるのですか。なんか、すごく紛らわしいですよね。

 

渡辺先生       そうだ、紛らわしい。意味があるといえばあるといえるが、意味がないと考えるほうが健全だ。エビデンスを正しく解釈すれば、術後でも、再発後でも、週1回投与と31回投与と、どちらでもいいと思うよ。

 

山本君           じゃあ、なんでこんなややこしいことになってしまったのですか。術後にACの後、パクリタキセル80mg/m2と併用してハーセプチン2mg/kg(初回だけ4mg/kg)を週112週間、その後、ハーセプチン2mg/kgを週140週間、というやり方で、エビデンスがありますよね。

 

渡辺先生       そうだ、エビデンスがちゃんとある。アメリカのNorth Central Cancer Treatment Group では、N9831というトライアルで、ACweekly paclitaxelをコントロールアームとして、君の言ったように、これにpaclitaxel開始と同時にハーセプチンを加えるアーム、paclitaxel終了後、ハーセプチンを52週間、毎週投与するアームの3つを比較した。すると、ハーセプチンを加えた2アームは当然、コントロールアームよりも再発抑制率が優れていたが、さらに興味深いことは、ハーセプチンをpaclitaxelと同時に併用して開始したアームのほうが、ハーセプチンをあとから開始したアームよりも優れていた、っていう結果が出たんだ。だから、少しでも再発を抑えたい、というならば、当然、ハーセプチンは、paclitaxelと同時に始めるほうがいいと思うよ。

 

山本君           これがダメっていうのは、どうしてなんですか?

 

渡辺先生       ダメっていうわけではないと思うよ。ただ、術後ハーセプチンの承認をとるために、中外製薬が提出したデータがHERAトライアルなので、いわゆる「HERAスタイル」の投与方法だけが承認されたということさ。

 

山本君           それは、中外製薬のやり方がまずかったってことですか?

 

渡辺先生       今回のこの件については中外のやり方はまずくはないと思う。他のことでは中外はまずいことだらけだけどね。日本から参加した試験は確かにHERAトライアルだけで、アメリカで実施されたNorth Central Cancer Treatment Group trial N9831 National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project trial B-31には、日本から参加していないんだ。だから申請者として中外製薬は、アメリカの試験の生データを持っていないし、申請資料に含めることができなかったんだ。もちろん、すでに論文にもなっているから、参考資料としては、当然提出したと思うけど。

 

山本君           じゃあ、審査する厚生労働省がそういうふうにしたわけですか?

 

渡辺先生       そうだ。お役所としては、申請された資料に基づいて審査して承認するわけだから、そのような姿勢は、それなりに評価してもいいと思うよ。審査するのは厚生労働省ではなくって医薬品医療機器審査機構というところなんだ。新霞が関ビルというところにある。ぼくもこう見えても以前はそこの外部委員みたいなことをしていたので内情はよくわかる。そのような承認の仕方が、かたくなだとか、頭が固いとか、料簡が狭いとか、視野狭窄だとか、けつの穴が小さいとか、いろいろな批判もあるかもしれないけど、審査する側のポリシーとしてはそういうことは理解はできるわな。

 

山本君           そうかなあ、なんか、とても融通の利かない対応に思えるけど。

 

渡辺先生       そうだ。そのように考えるのが健全だよ。山本君は今までいい勉強をしてきたから、そういったまともな考え方ができるんだよ。いいか、わかるか。医薬品医療機器審査機構や厚生労働省は、行政の立場で考える。それなりに根拠がなくては行政は務まらないから、われわれから見ると、融通が利かないようにみえる。われわれ腫瘍内科医は、もう少し広い視点を持っているから、最善の治療を患者に提供するにはどうすればいいいか、という観点から、あらゆるエビデンスを縦から横から吟味する。申請に使った資料だろうが、使わない資料だろうが、エビデンスとして信頼できれば、それに立脚して医療を実践することが大切なんだよ。

 

山本君           そうですよね、そのほうがしっくりしますよね。だから日本人はだめなんですよね。

 

渡辺先生       日本人だとか、パプアニューギニア人だからとか、そういう問題でもないんだよ。FDAだって薬剤の承認については、医薬品医療機器審査機構と同じような対応をすることもあるよ。でも議論はもっと柔軟にできるし、担当官ももっとよく勉強しているけどね。

 

山本君           それじゃあ、日本の行政は勉強していないみたいな言い方ですね。

 

渡辺先生       そうだ。はっきりいって勉強していない。というか人手不足でとても手が回らないから、じっくりと勉強なんてしてられないんだよ。話が横道にずれたけど、とにかく大切なことは、承認されたとか、されないとか、承認された用量はどうとか、こうとか、ということより、プロフェッショナルとしてリーズナブルにディシジョンメイキングしてプロブレムソルビングすることだよ。

 

山本君           先生、急に黒川清先生みたいにわけのわからない横文字羅列になりましたね。でも、おっしゃっていることはわかります。つまり、術後だっても、weeklyでハーセプチンを使用してもよいし、ACの後のパクリと併用してもいいわけですよね。

 

渡辺先生       そうだ。そのとおりだ。

 

山本君           では、ついでにもうひとつ、伺いますが、術前治療でのハーセプチンはどうでしょうか。

 

渡辺先生       術前治療でも、数々のエビデンスがあるよね。有名なところでは、MDアンダーソンのアーマンブズダー先生のやつ。当然、HER2過剰発現があれば、術前治療でハーセプチンを使うこともあるよね。っていうか、あれだけのエビデンスがあるんだから、温存を希望しているけど、腫瘍径が大きくて温存はちょっと無理、というような患者では、積極的に使っていいんだよ。

 

山本君           でも、今回、術後に承認されたけど、術前で使うのは転移性乳がんではないし、だめなんじゃあないんでしょうか。

 

渡辺先生       山本君、何で突然、そうなっちゃったの? さっきはとても融通の利く、いい発想だったのになあ。じゃあ、簡単に説明しよう。腫瘍径の大きい乳がんや転移した乳がんのことを、外科医は、進行・再発乳がんとよんでいるんだね。これは、手術適応のない乳がん、というニュアンスがある。一方、腫瘍内科の観点からみると、遠隔転移のある乳がんということでmetastatic breast cancer。転移性乳癌という呼び方がある。厳密にはイコールではないけど、転移性乳がんを進行・再発乳がんと同義語のように使われることがあるんだ。だから、術前化学療法を検討するような症例は、進行乳がんだから、転移性乳がんと同義に考えればいいわけよ。その辺は、プロフェッショナルとしてリーズナブルにディシジョンメイキングしてプロブレムソルビングすることだよ。

 

山本君           はい、よくわかりました、黒川先生。

 

研修医の山本学君は納得いくまで渡辺先生と話をした。今まで頭の中でなんとなくもやもやしていた問題も、今回のハーセプチンの適応の話を練習問題として、腫瘍内科の第一人者、渡辺亨先生の考えに100%共感できた。山本君は浜松オンコロジーセンターでの研修は本当に有意義だと思った。いつしか、時計の針は午前2時を回っていた。明日も朝830分から外来だ。午後からは静岡県外科医会があるから三島に行かなくてはいけない。渡辺先生も特別講演で話をする。きっと、これからスライド作るんだろうな。大変だよな、よくできるよな。山本君は宿舎となっているホテルday by dayに帰った。見上げた空には三日月が浮かんでいる。

 

ハーセプチン、やっと承認


ハーセプチンが転移性乳がんだけでなく、術後の乳がんにも使用できるようになりました。ずいぶん時間がかかりましたね。 承認概要は下記の通りです。つぎはラパチニブだ、とにかく早くやってくださいね、医薬品機構のみなさん。

 

【効能・効果】

HER2過剰発現が確認された転移性乳癌

HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法

 

【用法・用量】

 1. HER2過剰発現が確認された転移性乳癌の場合

 通常、成人に対して11回、トラスツズマブとして初回投与時には4mg/kg(体重)を、 2回目以降は2mg/kg90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。

 

2. HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法の場合

 通常、成人に対して11回、トラスツズマブとして初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kg90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。

これじゃ八方ふさがりだよ


「米国国内での安定した流通を確保するため、海外医師からの注文は制限する。これについて意見があれば、グラクソに言ってくれ。」 こんな内容のメールが、米国の薬局から届いた。その薬局はRXUSAといって、そこからは、10年ぐらい前から、わが国未承認薬を購入してきた。ハーセプチン治験終了後承認前の期間、国立がんセンターに私はいたのだが、厚生省にも確認し、個人輸入の手続きを踏んで、使用したい患者から直接RXUSAの銀行口座に入金してもらい入手した薬剤を使用していた。compassionate use という位置づけと考えている。同様にしてアバスチン、アービタックス、ネクサバール、なども個人輸入した。最近ではハーセプチンが効かなくなった患者にラパチニブを使っている。1ヶ月分で3400ドル、かなりの経済的負担だ。個人輸入の手続きは、以前よりだいぶスムーズに行くようになった。高いお金を払っても使ってみて効果がない、という可能性もある。幸いにして、今まで個人輸入した患者は4-5人いるが全員効果あり。もちろん単剤だ。ゼローダなんて併用不要だぜ。効果があったことを確認してからでないと次の注文ができないが、それからでは、入手が間に会わないという、綱渡り状態での使用継続であるので、それはそれで患者も、また、こちらもストレスを感じる。また、やはり、高価な薬なので、継続して購入することができず、使用を断念せざるを得ない人もいる。それども、どうにかこうにか、いろいろと工面して、ラパチニブを継続しているが、今日、RXUSAから冒頭のメールが来た。うわさによると、ヨーロッパで最近承認されたため、品薄感があるようだ。昨年末あたりのうわさでは、日本では、4月承認、6月から保険で使えるから、ということであったが、今日、GSKに聞いたところ、年末あたりになるらしい、という話。いったい当局のお代官様たちは何をやっているんだ??? 仕事が遅いよ、はっきり言って。個人輸入の道がこのように細くなり、日本での使用は年末までお預け。これじゃあ、八方ふさがりだよ。 優先審査品目が5つも6つもあって、手が回らないということだが、ラパチニブも優先審査対象のはずだ。ますぞえ大臣の横車で、ムコ多糖類代謝異常の薬がくりあげになったりして、そのしわ寄せという話もある。まあ、とてもまれな疾患だから、審査も進まない薬剤ということもあっただろう。先日、韓国からセカンドオピニオンを求めてやってきた肝臓がんの患者がネクサバールを使っていて効果がでていた。これではセカンドオピニオンもなにもあったものではない。あちらのほうが進んでいる。「ケンチャナヨ(大丈夫ですね)」でお帰り頂いた。日本では、ネクサバールはやっと腎癌治療に承認されたばかりだ。
いまや、情報はインターネットで瞬時にグローバルだ。ビジネスも同様にグローバル。医学情報もグローバル。なのに、薬剤の承認は、まったくのローカル。日本には医薬品機構という、何のための機構だかわからないような組織が活躍しているため、世界で承認されていないのは、日本と北朝鮮だけ、という冗談のような話が現実だ。いったい何を考えているんだ、厚労省は!! っていうと、その昔、威勢のよかったヒューザー小島社長のように、日干しにされてしまうかも。だけど、現実はあまりにも暗く、切ない。どうにかしてくださいな、お代官様。癌対策基本法で癌治療の均てん化と言っているが、それは、日本国内だけが低いレベルで均てんすればいいのだろうか。グローバルな均てん化が本当は必要なのである。
 
 

難易度高い腫瘍内科


週末は和歌山に講演に出かけた。雪の影響で新幹線からくろしお号への接続がうまくできず1時間遅れのスタートだったが、多数の看護師と若干の薬剤師も参加し、結構盛り上がりを見せた。尾浦正二先生を中心とした乳癌外科グループも元気のいい新人もたくさんいて、さすがに乳癌手術発祥の地だけのことはありますね。というわけで翌日、医聖華岡青洲の里を探訪した。20年かけて、マンダラゲ(朝鮮アサガオ)を中心に6種類の薬草から麻酔薬を作った。その麻酔薬をつかって1804年、老婆の左乳癌腫瘤を摘出した。消毒は焼酎を使って、メスやはさみは火鉢であぶって消毒したそうだ。麻酔は成功した、ということになっており、これを記念して日本麻酔学会や和歌山医大ではマンダラゲの花をロゴに使用している。手術も成功した、ということになっており、日本外科学会は100回記念で、華岡青洲とマンダラゲをあしらった記念切手を発行した。手術を受けた老婆は、術後8カ月で死亡した。これって、手術が成功した、ということで本当にいいのだろうか。問題なく手術は終わったことをとりあえず、うまくいきましたという。今でもそうだ。でも、それは、手術する意義があったというのとは話は別である。確かに絵をみると、局所進行乳癌なので、局所コントロールという意味では、この老婆は手術してよかったということになる。死亡原因はたぶん乳癌の転移だろうと思うけれど、当時はそういう概念はなかっただろう。200年後の今でも同じような概念で手術を考えている外科医は結構多いようにも感じる。腫瘍内科治療は200年たってもまだまだ100%成功という段階には達していない。難易度は高い。有吉佐和子の小説「華岡青洲の妻」を記念館で買ってきて読んだ。温故知新。

目に見えないものはわかりやすく語る


1月19日の浜松医療センターの市民講座では、放射線治療の飯島光晴先生のお話を聞いた。飯島先生は、毎週のようにカンファレンスであっているが、あれほどまでにお話がうまいとは知らなかった。一般市民を対象とした話でIMRT(強度変調放射線照射)や粒子線の理屈を自作のアニメを使ってうまく説明していた。先週は聖隷三方原病院放射線科の山田和成先生の話を聞いた。これは、がん診療拠点病院としてがん診療従事者を対象にやらなければならない講演である。先の浜松医大の総花的何の変哲もなき話に比べれば、ずば抜けてわかりやすかった。山田先生は、何せ、お声がよろしい。バリトンの染みいるような声で、これまた、放射線治療の話を実にわかりやすく解説してくれた。話やスライドはとてもオーソドックであるが、ご自分の経験や、最新の論文などを紹介しつつ、説得力のある話だった。IMRTについて、実際はとても手間暇のかかる治療計画策定が必要である、という話、初めて聞いた。よくわかった。また、脳転移に対するガンマナイフについて、あちこちの脳外科で、10個や20個の転移に対してガンマナイフをやっているのはもんだいではないでしょうか、と質問したところ、最初は当たり障りのないお答であったが、だんだんことの本質をはっきりとわかりやすくお話された、やりすぎだと思います、と。 東大放射線科の中川先生にしても、放射線治療という、目に見えないもの、だから、一般の人が必要以上に恐れるものについて、実にわかりやすくお話をされるものだ、と感心する。私も、タンポポの種、インクを川に流すたとえ、など、目に見えない転移や、抗がん剤の話をわかりやすく話すように努力はしている。しかし、外科医は、目に見えるものは全部とりました、みたいなわけのわからないお話がお好きのようだ。戦う相手は目に見えないものであるのに。