サンアントニオ一日目、午前中に、あのDr. Vogel が表彰されました。毎回必ずと言っていいほど、”Steven Vogel from New York”と前置きして、わりと辛口の質問をするおじさんです。数年前、このブログでもとりあえたことがありました。
さて、午前中のgeneral session 1では、8つの演題がありました。
① 最初の演題はMA27試験の結果。カナダから数年前にハーバードに移ったPaul Gossによる発表。MA27は閉経後、ホルモン受容体陽性乳癌症例を対象に、ランダムに、エキセメスタン対アナストロゾールを比較し、EFS(Event Free Survival)、OS(Overall survival)、DDFS(Distant Disease Free Survival)、CB(Contralateral Breast Cancer )および、安全性を比較した試験で、ステロイド骨格有するアロマターゼ阻害剤、エキセメスタンは、非ステロイドアロマターゼ阻害剤であるアナストロゾールに比べ、① アロマターゼを非可逆的に抑制する結果、アロマターゼ阻害作用が強いのではないか、②アナストロゾールと異なり細胞内アロマターゼ活性を誘導しないのではないか、③弱い男性ホルモン活性を有していることから異なった抗腫瘍活性を有し、また骨や脂質代謝にも良好な影響を与えるのではないか、などの仮説(ファイザー社の期待)を検証するために行われた試験である。当初はCyclooxygenase-2(Cox2)阻害剤「celecoxib」とAIとの併用効果も検討する予定だったが、Celecoxibの心血管系への影響が判明したため、それはとりやめとなった。7576例が登録され、上記の指標を検討したが、いずれも差はなかった。ファイザーの期待は砕かれた、と思いきや、結論は、エキセメスタンはアロマターゼ阻害剤として、アナストロゾールと同様に使用することができる。国、地域により薬価を考慮し、適切な使用方法ができ選択肢が広がった、というようなことになった。あの試験って、ネガティブデータですよね、という意見もある。どのような仮説に基づいて、症例数を算定しているのか、ということによると思うが、デザインは、非劣性の検証として統計学的には完結しているのかもしれない。しかし、それならば、上記の①~③の、こんなに優れているかも、というのは、優越性の検証という意味合いがあり、やや混乱する。なんか、超大規模臨床試験の結果なのだからと、なし崩し的に「ファイザー力」で押し切られたような気もする。あそこはよくそれをやるからね。
② ふたつめの演題は、ACOSOG Z1031という、術前ホルモン剤、3剤のガチンコ比較試験である。これも、主要評価項目であるAI剤三剤では、すでに公表されている臨床的効果であまり差がない、ということ以上のデータ、たとえば、病理学的CRはどうか、とか、Ki67の抑制はどうか、など、知りたい結果は提示されず、PEPIスコアの話などで、なんとなくメリハリのない発表でした。
③ John RobertsonのかなりわかりにくいBritish Englishでの発表。以前よりは慣れてきたせいか、わかるようにはなった。要するに舌が短いようで、Lの発音が、Wi(うい)とか、We(うえ)の音に聞こえるので、そこだけ注意してきいていれば、あとはスクリーンに大写しになる、あのうっとうしい顔さえ我慢すればよいのだ。内容は、転移乳がんの初回内分泌治療としてのFULVESTRANT 500mg(お尻に筋注だからたまらない)とANASTROZOLEとの比較で、TTPでは、ハザード比0.66、P=0.01とFULVESTRANT500mgが優れてたというもの。昔々、FULVESTRANT 250mgをタモキシフェンと比較した試験ではFULVESTRANT 250mgが負けた。あの時、500mgでやっていれば、AZの勢いは失われずに済んだのだが、イレッサ問題とダブルで来たので、AZは失速状態であった。そのため、ゾラデックスの売り込みが強烈になったものだったが、今回、社運をかけて、FULVESTRANT500mgが来年には、フェスロデックスという商品名で発売になる。治療大系のなかでどのような位置づけになるか、ということもさることながら、あのおしりの筋注をまたやらなければいけないと思うと、ちょっと気が重い。
④ その次は、AMG479のネガティブデータである。AMGは、あーまーげーではなくてアムジェンの開発コード、IGF1R(Insulin-like Growth Factor 1型受容体)に対するモノクローナル抗体。ホルモン剤の耐性獲得のメカニズムの一つに、IGF1が関与しているという推察はだいぶ前からあった。これを抑えれば、ホルモン剤の効果増強とか、効果持続期間の延長とか、耐性出現予防とか、出来るんじゃあないか、ということで、exemestaneまたはfulvestrantいずれかに、AMG479または、そのプラセボを併用するというもの。結果は、PFSも奏効割合も変わらない、副作用で高血糖、血小板減少、好中球減少がAMG群でやや高頻度ということだった。ネガティブデータなのだが、たとえば、IGF受容体の過剰発現している症例だけに限って検討してみる、という手もあるのではないかと感じた。ネガティブデータをもっともらしく発表する方法も学んだような気がする。
⑤ 閉経前乳がんに対する、術後のホルモン療法で、ゴセレリンとタモキシフェンとの併用に関して、1980年代に開始されてZIPPトライアル結果のアップデート報告である。発表は、ストックホルムのDr.Sverrisdottir 。管総理と違って、原稿も持たずに登壇して、私が医師になった1980年代中ごろに行われた試験の最新結果を報告できることを光栄に思いますとはじめた。すばらしい発表態度である。術後にTAMありなし、GOSERELINありなしの、2X2のファクトリアルデザインで開始された試験だが、途中から、何もなし群に対しても、TAMを選択してもよい、といふうにデザインを変更した国(イギリスなど)もあったそうだ。TAMなしの症例では、GOSERELINによりDFSもOSも有意に改善したが、TAMありでは、GOSERELINを追加しても改善効果なし、逆、つまり、GOSERELINなしの症例ではTAMにより改善するが、GOSERELINありでは、TAMを追加しても上乗せ効果はない、という結果であった。ただし、ER発現量の多い症例では、GOSERELINの上乗せ効果が見られた。この試験の問題点は、半分ぐらいの症例で、CMFが使用されているので、それにより、卵巣機能抑制・廃絶効果が加わり、GOSERELIN追加が意味をなさなかった、という可能性もある。1980年代と言えば、ホルモン受容体測定もまだ、DCC法でやっていた時代だろうか。今のようにきちんとした精度管理はなかったように記憶している。ZIPPのような試験をもう一度、リメークするのは無理なので、術前治療などで再検討したらどうだろうか。
⑥ 次は、転移性乳がんを対象にしたTAM単独 対 TAM+エベロリムスの比較第II相試験。この試験はちょっとおもしろいぞ、という感じだ。奏効割合、臨床的役立割合、を指標にして、111症例を登録、臨床的役立割合は、TAM単独42%に対して、TAM+エベロライムスでは61%、PFSはハザード0.53、P=0.0026 、ついでに解析したOSでも、ハザード0.32、P=0.0019と、差が認められたというもの。エベロライムスは、アフィニトールという商品名で既に腎がんに対して承認されている。この試験はダブルブラインドではないし、第II試験のセッティングなので、たまたまの偶然の観察で、生存率にも差が出た可能性がある。現在、グローバルで進行しているBOLERO2(非ステロイドAI耐性の閉経後症例を対象とした、エキセメスタン+プラセボvs. エキセメスタン+エベロライムスで、きちんとした効果が検証されるはずである。
次の二つは、ATACとBIG1-98で、CYP2D6の変異あり、なしで、検討した、後ろ向き研究。どちらの試験も、WILD TYPEと*4/*4などの変異ありで、比べても、タモキシフェンの効果には差がない、という結果、いろいろな考察がなされているが、現在、公表されているCYP2D6の論文は、約30あり、半分は差がある、半分は差がない、というデータである。以上午前中の発表のレビューでした。