TAILORxの物語 -OncotypeDxの孤独- (1)


(1)乳がんの発表

Adjuvant Chemotherapy Guided by a 21-Gene Expression Assay in Breast Cancer

TAILOR−X試験は米国を中心に行われた「オンコタイプDX」によるリスク評価に基づいて、手術後の適正な薬物療法はなんだろうか、を調べた試験です。個別治療、Precise medicineの具体化を目指して計画された試験ですね。乳がんの7割ぐらいは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性乳がんです。乳がんは19世紀おわりに手術が行われるようになり、始めは全摘でしたが、1970-80年代から温存(部分切除)が行われるようになり、さらに温存乳房に放射線照射が行われるようになりました。そして、ホルモン受容体検査が普及した1970年代からはタモキシフェンが手術後、腋窩リンパ節転移のある人で使われはじめ、さらに腋窩リンパ節転移のない人でも使われ始め、その期間は2年、5年とのび、さらに今では10年となっています。

一方、1970年代後半からはCMF(C:シクロフォスファミド、M:メトトレキサート、F:フルオロウラシル)という3剤を併用した抗がん剤が術後6ヶ月ぐらい使われる様になってきました。しかし、副作用の少ないタモキシフェンに比べ、倦怠感とか、吐き気とかの強いCMFは、腫瘍から大きくなってから病院に来た人、脇の下のリンパ節に転移のある人、といった病状の進行した人には使われる様になりましたが、そうで無い人、とりわけ手術の時に腋窩郭清を行いリンパ節転移の無い人には、医師も患者もCMFは使わなくてもいい、つかいたくない、ということでまあいいか、ということになっていました。とりわけ1990年に発表された論文で6ヶ月間のCMFとくらべて2か月で終わるAC(A:アドリアマイシン、C: シクロフォスファミド)は同じ位の効果がある、ということがわかりました。しかし、アドリアマイシンは、それはそれは強い吐き気と完全脱毛をおこすほどに副作用の強い薬、赤い悪魔と言われるわけです。
(以下次号)

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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